《【書籍化+コミカライズ】悪ですが、する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み》39 旦那さまのことが心配です!

※本日2度目の更新となります。朝7時に更新された前話をお読みでない場合、ひとつ前のお話からご覧ください。

「……そう、ですか」

「ええ。――だから、嫉妬なんてすることはないの」

そしてシャーロットは、オズヴァルトの方を見た。

しいたちは、いつしか機嫌も直ったらしい。オズヴァルトの腕にれたり、笑顔を向けたりしながら、たくさんのことを話し掛けているようだ。

オズヴァルトはこちらに背を向けており、彼の表は見えていない。

けれどもシャーロットは、ぼんやりと考えるのだった。

(……しい男のお傍には、しいたちが、とてもよく似合いますね……)

「…………」

何か言いたげな様子のイグナーツは、ちらりと天井に目をやった後、シャーロットに言った。

「あー……シャーロット殿。あの樸念仁のことで困ったことがあれば、いつでもご相談いただければと」

「あなたに?」

恐らくだが、オズヴァルトのことでシャーロットが困る機會は永遠にない。格好良すぎて困ることは頻発しているが、きっとそれくらいだろう。

だが、イグナーツはその八重歯をにぱっと見せるように笑い、ごくごく明るい聲音で言うのだ。

「ええ。割と有益な報が提供できるかもしれませんよ。たとえば、あいつの好みののタイプとか――……」

「…………!!」

「聖殿の代理護衛、いつでもご指名ください」

「そ…………うね。いずれ、お願いするかもしれな……」

「――なんの話をしているんだ?」

「!!」

その瞬間、シャーロットは全全霊を込めて振り返ろうとした。

だが、必死に抑えておしとやかに後ろを向く。するとそこには、いつのまにか戻ってきていたオズヴァルトが、じとりとした半目でイグナーツを見ていた。

(オズヴァルトさま……っ!!)

「イグナーツ。お前、ろくでもないことをシャーロットに吹き込んでいないだろうな?」

「失禮だぞオズヴァルト。俺はただシャーロット殿に、お前が魔院への學直後、先輩百人を自分ひとりの魔だけでぼっこぼこにしたときの話をしていただけだ」

「十分ろくでもない話だろうが!! それと、そこまではしていない」

オズヴァルトの言葉に、イグナーツはシャーロットを見てふるふると首を橫に振った。

シャーロットは、十歳だったオズヴァルトの可さに震えたいのを堪え、表向きは上品に微笑んでおく。

「ふふ、楽しいお話が出來ましたわ。……イグナーツさま、また是非」

「はい、是非に。じゃあなオズヴァルト、明日また王城で」

イグナーツはオズヴァルトに手を振ったあと、シャーロットに一禮した。同じく一禮を返したあと、去っていくイグナーツに手を振る。

「…………」

すると、隣に立っているオズヴァルトが、やっぱり先ほどのような顰めっ面をしてこちらを見るのだ。

「………………イグナーツは貓派だぞ」

「???」

オズヴァルトはそのあとで額を押さえ、小さな聲で呟いた。

「くそ。我ながら、一何を言っているんだ……?」

(ちなみに、私は犬派か貓派かと言われれば、オズヴァルトさまが大好きです! ……それはともかく、オズヴァルトさまが何か思い悩んでいらっしゃるご様子……)

ひょっとして、調が悪いのだろうかと心配になる。

その心配は、いまに始まったことではない。シャーロットには數日前から、気になっていることがあるのだ。

ちょうどそのとき、オズヴァルトが言った。

「まあいい、し外の空気が吸いたくなった。……シャーロット、庭へ」

「はい、オズヴァルトさま」

これはつまり、休憩したいということなのだろう。やはり調が悪いのだろうかと、心配になる。

オズヴァルトとシャーロットは、開け放たれている扉からテラスに出た。

月明かりと、足元で輝いている花のランプたちを頼りにしながら、庭へと降り立つ。

噴水の前で立ち止まると、オズヴァルトはひとつ、魔法陣を足元に展開させた。

「これは……防音効果のある魔法陣ですね」

「ごく弱い効力のものだがな。完全に音聲を遮斷すると不自然だが、このくらいの防音なら、魔を使っていることも気付かれにくい」

つまり、シャーロットは以前のような態度を辭めて、いつも通りに話せるということだ。

「おは大丈夫ですか!? オズヴァルトさま……!」

第一聲で、急いでオズヴァルトにそう尋ねた。

「風邪ですか!? お熱ですか、それとも頭が痛いですか!?」

するとオズヴァルトは、一瞬だけ目を丸くした後で、仕方なさそうにシャーロットを見下ろした。

「……そんなに相を変えなくていい」

「ですが……!」

「俺の調は悪くない。ただ、君を休ませるべきだと思った」

「!!」

思わぬ言葉に、今度はシャーロットがきょとんとしてしまう。

「私を?」

「夜會のあいだ、常に無理をさせておく訳にも行かないだろう。……いいや、正確には夜會の前の準備からか。ただでさえ、の夜會支度は時間が掛かるのだから、ずっと休んでいないのではないか」

「〜〜〜〜……っ!!」

その気配りに、じいんとが暖かくなった。

一緒にいる夜會の時間だけでなく、その準備の労力から案じてくれるだなんて、やはりオズヴァルトはとてもやさしい。

「ありがとうございます。ですがオズヴァルトさま、私は平気です!」

「どうだか」

そして彼は、シャーロットを見下ろして言うのだ。

「先日のフェンリルの一件以來、何か悩んでいるように見えるが?」

「……!」

ほんの僅かに、肩が跳ねてしまった。

オズヴァルトはきっと、それを見逃していない。

降參の気持ちになりながら、シャーロットは観念した。

「……私、今日までずうっと楽しかったのです」

「……?」

訝るようなまなざしを見上げ、こう告げる。

「オズヴァルトさまとの新婚生活が始まってから、毎日どきどきして、世界がきらきらと虹っていて! その中心にはいつも、オズヴァルトさまがいらっしゃいました。オズヴァルトさまのお聲も、表もお言葉も、それから……」

彼に抱きしめられたときの溫度を思い出し、がきゅうっと苦しくなった。

「……オズヴァルトさま」

一度だけ俯き、深呼吸のあとでまた顔を上げる。

「魔力が、枯渇していらっしゃるのではありませんか?」

「――――……」

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