《【書籍化+コミカライズ】悪聖ですが、する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み》最終話 大好きなお方が夫だそうです!
「……あー……」
どこか居た堪れなさそうな様子で、オズヴァルトが話を切り上げた。
「やめておこう。仮説しか立てられない以上、いま論じたところで意味はない」
「……オズヴァルトさま」
「心配するな。君の契約魔を解く方法は、これからなんとしてでも俺が見付ける」
そしてオズヴァルトは、その手で口元を隠すようにして、ぽつりと呟くのだ。
「――王家がこの先も君を害するのならば、それらすべてと敵対してでも、君を守ろう」
「……?」
その聲は、シャーロットにすら聞き取ることは出來なかった。
シャーロットが首を傾げると、オズヴァルトは目を伏せる。
「なんでもない。それより、俺からも話しておくぞ? 君が家出をしているあいだ、説明が足りていない部分があったと省した。婚姻を世間に伏せたのはすべて、俺の筋問題が理由であり、君の方に一切の落ち度はない」
その説明に、シャーロットはふるふるとかぶりを振った。
「いえ! どうかお気になさらないでください。私はむしろ、オズヴァルトさまのご迷にならずに済んだので、隠していただいて良かったと思っていますし!」
「君のその考えごと、訂正させておきたいんだ」
オズヴァルトは溜め息をついて、こう言った。
「誰に何と言われようと、正式に君をお披目する」
「オズヴァルトさま」
「そうすれば、あの夜會以來やたらと君に興味を示している連中も、しは大人しくなるだろうしな」
しだけ苛立った様子で彼が呟く。
シャーロットが注目を浴びているのは、やはり悪聖としての評判によるものだろうか。
「ともかく、そうなれば社の機會も増えるだろう。今回の家出騒の詫びをしたあとで、ハイデマリー殿に今後のことを頼んでおくべきだろうな」
(そうです! ハイデマリー先生にごめんなさいをして、それに、イレーネさまも)
先ほどオズヴァルトに聞いたところによると、オズヴァルトがシャーロットを助けに來てくれたのは、ハイデマリーからの連絡があったからなのだそうだ。
恐らくはあのとき、シャーロットを転移させた令嬢のイレーネが、ハイデマリーにすべてを話してくれたのだろう。
イレーネが黙ったままでいたならば、オズヴァルトは異変を知ることが出來ず、シャーロットはランドルフに殺されていたかもしれない。
そう話すと、オズヴァルトは『分かった』と頷いた。
イレーネに対し、ランドルフが不當な取引を持ち掛けたことをエミールに話せば、イレーネへの救済が検討されるかもしれないと教えてくれたのだ。
(イレーネさまもきっと大丈夫です。だって、オズヴァルトさまが『なんとかする』と言って下さったのですから!)
シャーロットはきらきらした心持ちで、オズヴァルトのことを見上げた。
こうして橫から眺めてみても、オズヴァルトは睫の先までしい。そして、昨日までと違う気持ちで視線がいってしまうのは、形のいい彼のくちびるだった。
思わず視線が奪われてしまい、その橫顔をじいっと見つめる。
「あとはイグナーツとの調整だ。あいつにも々と依頼をしてしまったから、面倒ではあるものの、借りを返さなくては……………シャーロット?」
「あっ、あの、オズヴァルトさま!!」
シャーロットは、もじもじしながら彼に尋ねた。
「つ、つかぬことをお伺いするのですが……。あの、ランドルフさまの一件で変えてしまったものを、元に戻す作業は必要なのでしょうか!?」
「変えてしまったもの?」
オズヴァルトが不思議そうな顔をした。眉間に皺を寄せている顔も、シャーロットの大好きな表のひとつだ。
「その、たとえば。たとえばですよ? 発端の出來事のひとつというか……あの、その、私の」
「君の?」
「私の……!!」
勇気を出して、シャーロットは言葉を振り絞る。
「私のっ、神力を! もう一度、封印し直さなくても、よろしいのですか……っ!!」
「………………」
気になっていたことを尋ね終え、はあっと息をついた。
オズヴァルトは、無言でじっとシャーロットを見つめている。あまりに凝視されるものだから、ちらっと彼を見上げてしまった。
目が合って、慌てて逸らす。
頬を赤くしたシャーロットに向けて、オズヴァルトは言うのだ。
「――……君、やっぱり俺に、キスをさせたいだけじゃないのか」
「あわう……!!」
図星に近いその指摘に、びくりと肩を跳ねさせる。
先日の夜會で、改めての神力封印を提案したときは、誓って邪な気持ちはなかった。
けれども今回、たったいま差し向けた問い掛けに、不純な思があったことは否定できない。
それを見抜かれた罪悪で、シャーロットはひんひんと泣き言を紡ぐ。
「ごっ、ごめんなさい! どうしてバレてしまったのでしょう、申し訳ありません!!」
「俺の口元を見過ぎだ。気付かないはずがないだろう」
「だってだって、封印解除や神力け渡しのときは無我夢中で、あんまり記憶に殘っておらず!!」
両手で顔を覆い、べそべそと嘆いた。
「で、でも平気です、大丈夫です……。むしろオズヴァルトさまとのキスなんて、まともに実していたら即死効果が発揮されて、命がいくつあっても足りませんものね……」
「おい。君の中で、俺は一なんなんだ?」
シャーロットは、前向きな気持ちになってこう言った。
「そう思うと、オズヴァルトさまとのキスの記憶がなくて、幸運だった気がしてきました!!」
「…………」
気を取り直し、顔を上げて元気いっぱいにオズヴァルトを見上げる。
「ですが、いかがいたしましょう? 王族の方々の手前、神力の再封印は必要ですし!」
「……」
「オズヴァルトさまが私にキスをせずに済む方法。つまり、封印の陣がお互いの舌でなければ解決ですよね?」
「…………」
「ではここはやはり、再度の魔力消費をしてでも、新しく封印の陣を刻み直していただくのはいかがでしょう!」
「………………」
「今回のような急事態で、萬が一封印解除が必要になったとしても安心です! これなら今後オズヴァルトさまは、無理に私とキスをしていただかなくても、だいじょ」
「……シャーロット」
「?」
名前を呼ばれた、直後のこと。
オズヴァルトのしいその指が、シャーロットの小さな顎(おとがい)を捕らえた。
そうして上を向かされたと思ったら、オズヴァルトによって、お互いのくちびる同士が重ねられる。
「――――……」
そのキスは、時間にすればほんの數秒ほどだろうか。
やわらかなを覚えたあとに、シャーロットはぱちりと瞬きをする。
くちびるを離したオズヴァルトは、しだけ拗ねたような表で、眉を寄せたままこう言った。
「……俺は、君とキスをしたくないとは、一度も言っていない」
「ふぇあ…………っ」
言葉にならない音を発したら、オズヴァルトは目を細め、シャーロットを抱き寄せる。
「!!」
今度は頬に口づけを。
まなじりにもキスを落とし、シャーロットの橫髪をでるように掻き上げて、次はあらわになった耳へとキスをされる。
「お、オズヴァルトさま……んんっ」
そうしてオズヴァルトは、もう一度くちびる同士を重ねたあと、そこで初めてシャーロットを解放した。
真っ赤になったシャーロットを見下ろし、その目を見て、満足そうにふっと笑ってみせる。
「君が好きだ」
「………………っ!?」
オズヴァルトが浮かべたのは、悪戯が功したかのような、親しみのこもった微笑みだ。
おしい者へそうするように、シャーロットを見つめてくれた。
向けられているまなざしは、言葉よりももっと雄弁で、彼のをはっきりとじられる。
(違います、駄目です、これはいけません!! こんな幸せなことが、現実に起きる訳がなく……!!)
そう思うのに、オズヴァルトが注いでくれるのは、シャーロットが驚くほどに真摯な想いだった。
(……オズヴァルトさまが、本當に私を……?)
シャーロットがそのを悟ったのだと、オズヴァルトもきっと察したのだろう。
先ほど離れたばかりのくちびるが、再びそっと重なった。
「ん…………!」
思わずを竦めそうになるけれど、シャーロットはなんとかそれを堪える。
この一秒、この一瞬を、絶対にどれも逃したくない。そう思うほどにオズヴァルトの溫かさをじて、瞳が勝手に潤むのを自覚した。
オズヴァルトは角度を変え、やさしいやさしい口付けを與えてくれる。彼の手はシャーロットの髪をで、背中に移って、キスをしながら強く抱き締められた。
そうしてようやく離すときは、どこか名殘惜しそうなほどに、ゆっくりとくちびるが離れる。
「……」
オズヴァルトと間近に視線が重なって、また慈しむように微笑まれた。
そしてオズヴァルトは、涙が滲んで濡れたシャーロットの睫を、親指でらかくでるのだ。
「……かわいいな。俺の妻は」
「…………っ」
その言葉は、シャーロットに告げるためというよりも、無意識にらしてしまったかのような囁きだった。
恥ずかしさとくすぐったさ、そしてそれ以上の喜びと幸福が、シャーロットのの中へいっぱいに満ちてゆく。
(どうしましょう。……こんなに嬉しいのに、オズヴァルトさまが好きすぎて、泣いてしまいそうです……!)
大好きな人からの、こんなにもおしげに落とされる口付けや微笑みを、シャーロットは絶対に忘れられない。
どんな魔を使われても、もう二度とだ。
「――さて」
オズヴァルトが言葉を切り出して、はっと我に返った。
「君の神力の再封印は、今ではなく後日にしよう。お互いに力も盡きているし、一日くらいなら陛下の目も誤魔化せるはずだ」
「ひえっ、あう……!?」
確かにいまのは舌がれていない。
オズヴァルトの言う通り、再封印とは無関係のキスなのだ。
シャーロットにを伝えるため、そのためだけにくれたものだと理解して、息を呑む。
「それでいいな? シャーロット」
「……!!」
尋ねられ、訳も分からずにぶんぶんと頷いた。オズヴァルトはおかしそうに笑ったあと、シャーロットの頭をでて言う。
「良い子だ(グッド)」
「~~~~……っ」
そしてオズヴァルトは立ち上がり、「いまは執事も休ませている。俺が夕食の支度をしてやるから、君は座って休んでいろ」と言った。
「~~~~っ! ――――っ、……~~~~っ!!」
そのまま遠ざかる背中を見て、シャーロットは長椅子から転げ落ち、床にびたーん!! とうつ伏せになってんでしまう。
「…………私の旦那さま……っ、格好良すぎるのでは……っ!?」
「シャーロット! 一瞬目を離した隙に、床へ寢転ぶんじゃない!!」
扉の近くでばれるが、いまは起き上がれそうにない。大好きな人が大好き過ぎて、息をするだけでいっぱいだった。
それでもし落ち著いたら、立ち上がって彼を手伝いに行こうと思う。
そうして夕食を終えたあとは、彼に作った贈りの耳飾りを渡そうと決めた。
(耳飾りをお渡しして、おを大事にしてくださいとお願いして、それから……!! それから、家出中にお伝え出來なかった分の百倍くらい、お慕いする気持ちを言葉にしませんと……!!)
そんな計畫を立てつつも、シャーロットの心臓の高鳴りは、しばらく治まりそうにないのである。
だからシャーロットは上半を起こし、せめてここから彼の元に屆くようにと、ぎゅうっと目を瞑って大きな聲で伝えるのだ。
「――オズヴァルトさま! 私、オズヴァルトさまのことが大好きです!! これからもずーっと、ずっと!!」
その聲に苦笑したオズヴァルトが、「俺もそうだよ」とやさしく呟いたのをシャーロットは知らない。
に腹を括り、開き直ってからのオズヴァルトが、シャーロットにいくらでも言葉や行で示してくれるということもまだ知らない。
そのせいで、息も絶え絶えになってしまう日々が始まるのは、ごく近い未來のことなのである。
~おしまい~
【あとがき】
本作『悪聖』を最後までお読みいただき、ありがとうございました! ここまで來ることが出來ました。
シャーロットは、推しが生きてるだけで空気が味しいワンコ系殘念聖ですが、オズヴァルトはなんだかんだそんなシャーロットの明るさに救われています。
なので、ふたりは何が起きても、今後も楽しくやっていく予定です。
ずっとずっと幸せに過ごしていきます。
オズシャロのふたりを見守っていただき、ありがとうございました!
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本當に本當にありがとうございました!
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