《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》かわいいもの好きなおじさん
殿下のスキルの力で元の姿に戻った階段を三人揃って必死に上り、ようやく塔の部屋に辿り著いた頃には全員がゼエゼエと肩で息をしていた。
陛下はランランちゃんを抱いたままカウチソファに座り、殿下は椅子に腰かける。そして私は立ったままで息を整え、この狀況が落ち著くのを待った。
「つ……疲れたわい……。セシルよ。いい加減王宮の中に戻って來たらどうなのだ」
「いや……こっちの方が気楽でいいです。外に出る用事さえ無ければ、こんな大変な思いをすることも無いですし……」
あら。
戻って來なさいと言われているのね……。
この隔離された生活は自主的なものだったのかしら。
目をぱちくりさせながらお二人を見ていると、私が疑問に思っていることを察した陛下が説明してくださった。
「息子をここにれた事については、最初こそ確かに懲罰の意味合いもあったのだがね……。ここでの生活がすっかり気にってしまったようで、出てこなくなってしまったのだよ。もう怒ってないから王宮の元の部屋に戻りなさいと言っても聞きやしない。困ったものだ」
「そうだったのですか……」
當初はともかく、現在は自分の意思で塔暮らしをしているらしい。
いったい何をやらかしてここで暮らす事になったのか――ご本人いわく“自墮落な生活を弟達が真似するようになって”と仰っていたけれど、それが本當なら確かに塔暮らしはに合っていたのかも知れない。
なんと言ってもお世話係のメイド以外、人が近付かないのだ。どんな生活をしていても咎める人が居ないのは相當に気楽だったはず。
「……別に構わないでしょう。王位を継ぐために必死に努力している弟のためにも、俺は極力表に出ない方がいい」
「そういった側面がある事は否定しないが……。お前に翻意が無い事は誰もが知っているのだから、もうし王族らしい暮らしをしても良いのではないか? なりだって、こちらのご令嬢に髪を切って貰うまでばし放題だったではないか。何とだらしのない……」
「ほとんど人に會わないのに、なりばかり整える意味をじられませんでしたので」
「相変わらず減らず口ばかり叩きおって。……しかし、今日は心なしか顔が良いな。散髪した事ばかりが原因でもあるまい。――これが、聖の力かな」
不意に本題に踏み込んで來た。
陛下の観察するような視線がこちらに向いて、無意識に背筋がびる。
「その通りですよ、父上。見て下さい、この部屋。昨日彼が手れをしてくれたのですが、重く纏わり付くような空気が軽くなったと思いませんか? ――浄化スキルをに付ける前ですら、瘴気に干渉する事が出來ていた。彼を神殿に連れて行った俺の行は正解だったと思いません?」
「ふむ……。君、ステラと言ったかね。こちらに座りなさい」
陛下が椅子を指して促してきたので、一禮して腰を掛ける。
実は足が辛かったので、助かった……。
「君が生家でけてきた仕打ちは先ほどセシルから聞いた。神殿で、水晶にれた経緯も。……本來なら処罰の対象であるが、事が事な上に、神長とセシルの勧めであり、結果的に浄化のスキルを得る事が出來たのは先ほど私も自分の目で確かめたばかり。以上のことから、今回は黙認としようと思っている」
……まさかのお咎め無し。
何と返すべきか分からずに、ただ頭を下げる。
陛下は続けた。
「いつになくまともな様子のセシルが私のところへ來て人払いを申し出、“聖を見付けた”と言った時は、正直なところ半信半疑であった。スキルの儀の時期でもないのにおかしな事を言うものだと思ったのだが……。聞けば、事は思った以上にややこしさを含んでいるようだな。君の妹の件については、これからに調査をれていこうと思っている。放置すれば外的にも不味い事になりそうなのでね」
陛下が懸念しているのは、お母様の母國との関係だろうか……。
もしも本當に妹と私がすり替えられようとしているのであれば、実際にはの繋がりがない妹がお母様のご実家の縁者として扱われる事になる。
確かに、呈すれば大きな問題になりそうだ。
「……いずれマーブル侯爵には、何かしらのペナルティを課す事になる。それがどの程度のものになるかはまだ決めかねるが……。全ては調査の結果次第だな。……それまでの間、ステラ嬢にはを隠してもらいたいと思っている。つまり、今しばらくセシル付きのメイドとしてここに留まっていてほしいのだが……大丈夫かな? 聖殿」
陛下はランランちゃんをで回しながら訊ねてきた。
そんな事。
一瞬だって迷う事なく答えられる。
「願ってもない事でございます、陛下。私は修道院の皆様と神長、そしてセシル殿下に救われたです。皆様の為に盡くす事に何の躊躇もありません」
本當に、心からそう思っている。
々落ち著いたらまた修道院や神殿の掃除を手伝いに行きたいし、シスターメアリーにも會いたい。
貴のおかげでこのにも果たすべき役割が出來ました。謝しています――と、伝えたい。
私の答えに陛下はふっと笑い、ランランちゃんをで回しながら頷いた。
「良かった。……見ての通り、セシルは愚息としか言いようがない奴なのだが。どうしてか愚息の周囲は瘴気が濃くなりがちなようで、付けた人間はすぐに寢込むし魔獣は発生しがちだしで困っておったのだ。聖がついていてくれると、私も安心できる」
ああ――。陛下は殿下を心配しておられる。口では愚息と言いつつも、っこには確かながあるとじる。
……とても、眩しい親子関係。
「……お任せ下さい。殿下に近付く瘴気は、私が全て浄化してみせます」
「うむ。頼りにしておるぞ」
「はい」
話は一段落し、陛下はランランちゃんをもふもふしながら殿下のほうへと向き直る。
「――さて。セシルよ。私はお前からも詳しい話を聞きたいのだ。なぜ、どのようにして再構築などというスキルを手にしたのか。先ほどはそんな話していなかっただろう」
「……何気なく水晶にれたらっただけです。まさか二回目があると思わず。……知っていたられませんでした」
「故意ではないという事か。……ふむ。私も二回目があるという話は初めて聞いたな。そんな事があるのなら、神達の中に二つのスキルを持つ者がとっくに現れていたはずだ。かなり、確率の低い話になるのだろうな」
「……俺もそう思います」
「ああ。そもそも、一つ目の時點で何も授からない者もないながら存在するのだ。二つ目ともなれば相當數が絞られるのは道理というもの。――いずれにしろ、これは公表すべきではないな。広く知られれば水晶の力の消耗に繋がるし、スキルの有無による貴族間トラブルも必然的に増える。こうして聖が現れた今、むやみにスキル格差を広げるべきではない。……セシル。やってしまったものはもう仕方ないが、二つ目のスキルのことは他言無用だ。使うとしてもなるべく人目にれないように、もしも見られたら、いつの間にか出來るようになっていた、という事にしなさい」
「……はい」
殿下は神妙な顔をして、靜かに頷いた。
その時、陛下の膝の上で眠っていた小さな魔獣がぴくりといた。そのきだけで、瞬時にこの場にいる全員の視線をかっ浚う。
「……おや? ランランちゃんお目覚めでしゅか? あらあら、綺麗な青いおめめでちゅねー。人さんでちゅね~」
陛下……。
ギャップが激しすぎます……!
なんですか、その赤ちゃん言葉は!?
丸くてふわふわしている魔獣を抱き上げてデレる陛下。
ふと殿下と目が合うと、殿下はげんなりした顔で呟いた。
「……父は、可い生きが大好きなんだ……」
それ、さっき聞きました!
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