《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》王太子「全員お引き取り下さい」
浴場を磨き終え、最後に水球全に浄化スキルを放って完了とした。
浄化だけでも綺麗にはなるけど、それは私の掃除魂が許さないのだ。大理石を磨くのが楽しかったのもある。
を反し、天井が映りこむほどピカピカになった浴場を見て王妃様は心しきりだった。
「あらぁ……。こんな短時間で凄く綺麗にしてくれたのね。経年でくすんでいた大理石が新品みたいに白くなってる。わたくしが以前ワインをこぼしてシミになってしまったところも無くなってるわ……。ありがとうね」
「次の湯浴みが快適になれば何よりでございます」
「そうね。楽しみだわ。……では、著替えにするからいらっしゃいな。わたくしのお古なのだけど、制服が乾くまでこれを著ていなさい」
そう言って王妃様は一著のドレスを差し出してきた。
一見して分かるくらいに上質な、艶のある白い薄手のドレスだ。
「……とっても素敵ですけれど、素敵すぎて私などには不釣り合いです」
「じゃあそのバスローブで過ごす? 」
「…………有り難く拝借させて頂きます」
王妃様には勝てない……。
「ええ。そうして頂戴。そのドレス、腕は出るしのラインは浮きやすいしで、若い娘じゃないと著られないのよ。わたくしも若い頃は気にってよく著ていたのだけど、さすがにもう無理。たまにクローゼットを開いて眺めるだけの化石になっていたの。また活躍する時が來て嬉しいわ」
お喋りしながら手際よく著せてくれる。
さらりとした布の。下に切り替えがあり、スカート部にドレープが作られているエンパイアラインだ。
肩も腕も出るけれど、シンプルで全的にストンとした形。らかな薄手の布との相がとても良い。
「……私、こういうの初めて著ます」
「そう……。私は好きだけど、今の流行とは違うのよね。今はみんな腰を絞ってフワッとしたスカートにするから……。でも似合うわよ、貴。ほら見て、絵本に出てくる聖様そのものじゃない?」
言われて前にある金縁の姿見に目をやると、白くて艶のあるしい裝にを包んだ淡い青みの銀髪の自分がいる。
変なじだ。見慣れない。
「……ありがとうございます……」
違和がすごくて、し俯き、それだけ言うのが一杯だった。
それから王妃様の著替えをお手伝いして支度が整ったところで、ようやく室の調査を始めた。
暖爐の片隅に一つ。それから立派な絵の額縁の裝飾に一つ。合わせて二つの瘴気石を発見した。
「これで全部? 意外とないわね」
「ないですか? 二つもあるって驚いているのですが」
「ないわよ。この程度、直接れさえしなければどうって事ないもの。セシルの近くのほうがよっぽど調に支障が出るわよ。全く、しょうもない嫌がらせをするのがいるのよね、本當に」
「しょうもないのは同意しますが、本當におの不調はないのですか?」
「ないわね。類や寢に仕込まれていたらさすがにしは影響が出るでしょうけど、暖爐や額縁程度なら特には」
「それなら良いのですが。……では、浄化しちゃいますね」
直接れて浄化をかける。
赤い石と、それから薄いレモンの石になり、王妃様は興味津々そうに覗き込んできた。
「あら、石が綺麗なに変化したわ」
「はい。浄化すると魔獣が持っていた力が表出してくるのです」
「す、凄いじゃない……。それ、初めて聞いたけど……し想像しただけで使い方が無限に広がるわね。貴、やっぱり魔獣の親玉になれるわよ」
「なりたいと思ってませんよ!?」
王妃様は石に対する反応が陛下とは違う。より実用志向だ。
その反応に良いも悪いもないけれど、なんだかバランスの取れたご夫婦だなぁと思った。
観察したいとおっしゃる王妃様に石を手渡し、一緒にルーペで覗き込んでみる。
「……不思議ね。よく見てみるとわずかにムラがあって、雲のようにゆったりと変化し続けている。これって心の模様なのかしらね」
その時扉がノックされ、廊下から「おーい。もう終わったかね」と陛下の聲がした。
「あらいけない。呼び戻すのを忘れていたわ。――はぁい、終わりましたわよ。もうっても大丈夫です」
かちゃりと扉が開き、陛下が顔を覗かせる。そしてこちらを見てぎょっとした表を浮かべた。
「おや。これはこれは……本の聖様がいらっしゃる」
「そうでございましょう? わたくしの若い頃のドレスですけれども、著る人によってここまで雰囲気が出るものだとは思いませんでしたわ。やはりシンプルな裝いは素材の良さがものを言いますのね」
「ふむ……。ところで君も著替えたのだね。一緒に湯にったのかい?」
「もちろんですわ。腹を割った話をするには同じ湯にるのが一番ですからね」
ポチにびっくりしてお湯に転落したことは緒らしい。
陛下は私の顔を見てから頷いた。
「そうか。実のある時間を過ごせたのなら何よりだ。――して、セシルはまだ戻っておらんのかね?」
「はい。自室にいるよう申し付けましたので、おそらく自室でゴロゴロしているかと。誰かに呼びに行かせましょう。――ちょっとあなた、セシルを呼んで來て頂戴」
王妃様は扉から廊下にし顔を出して、近くに居合わせた使用人に聲をかけた。
ほどなくして再び扉がノックされ、返事を待たずして眠そうな顔の殿下がってくる。
「寢てたの?」
「……いえ。呼び出しがあと三十秒遅ければ寢ていたかも知れませんが、なんとか起きてました」
その言葉をここにいる全員が信じていないのはなんとなく伝わってきた。特に言及はなく、さっさと次の話に移る。
「見てもらった結果、この部屋からは二つ出て來ました。これに関しては、下手人の見當は大ついております。このままベネディクトの部屋も探してもらいましょう」
「うむ。あやつは今――、ああ、そうだ。先ほど鷹狩りから戻って來たようだぞ。ちょうど良かった。セシルも弟に會うのは久し振りであろう。……おや、どうした? セシル。顔が呆けておるぞ。まだ眠いのか?」
陛下の言葉に何気なく殿下へ顔を向けると、こちらをじっと見つめている殿下と目が合った。目が合った瞬間、突然キリッと表を引き締めて「眠くなどありませんよ! さっきまで腹筋と腕立て伏せをしていたので疲れているだけです!」と言った。
「そ、そうか……。先ほどまで、筋トレを……」
陛下と王妃様の視線が、殿下のヒョロヒョロの二の腕辺りに集中した。
そして筋トレの件もそれ以上言及される事はなく、人払いを済ませた廊下に出て四人で王太子殿下の部屋へ向かう。
「あの……私が王太子殿下の私室にっても大丈夫なのでしょうか」
「わたくしの私室で湯浴みまでしたのに何が不安なのよ。貴が聖である事は、王太子のあの子には伝えても大丈夫よ。そうですわよね、陛下」
「うむ。いずれ王になるあの子には報の共有が必要だろうとは思っていた。いつにしようかと考えていたが、それが今という事だな。妃の裝を著てくれたのは丁度良かった。第一印象が使用人なのは良くないからな」
「うふふ。わたくし、良い仕事をしました?」
「ああ。さすがは私の妃であるな。素晴らしき先見の明だ」
前を歩く二人がそっと手を繋いだ。
私は、何を見せられているのだろう……。
目のやり場に困って隣を歩く殿下を見上げると、殿下も気まずげな顔でこちらを見下ろしてくる。
「……あのさ、」
「はい」
「…………すごく、綺麗だよ。メイドも悪くなかったけど、見違えた。神様みたいだって思ってた」
「えっ」
突然の譽め殺し……!?
瞬時に顔が沸騰し、俯いてしまった。
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