《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》陛下はツリーハウスを作りたい
なんだかんだで婚約を決めてしまった私とセシル殿下は、急激に距離が近くなるという事はさすがに無かったけれど、それでも未來の家族としてお互いを意識し始めた(と思う)。
翌日、私は殿下に付き添われて王妃様の元へ、婚約の報告と改めてのご挨拶をしに伺った。
すると王妃様は、
「あら。まだ決まってなかったの?」
とおっしゃった。権力から離れるようにとおっしゃっていたのにこの反応。
お叱りをけるつもりでいた私は拍子抜けして、「よろしいのですか……?」とおそるおそる訊いた。すると王妃様は
「なんの話? ……ああ、権力者に阿るな、と言ったアレね。――貴、セシルに権力があると思ってるの?」
とおっしゃる。
み、も蓋もない……。
どうやら殿下には権力が無いらしい。その辺りの話は私にはよく分からない。返事に困って隣に立つ殿下を見上げると、殿下はこちらを見てめちゃめちゃいい顔でフッと笑った。
「……ステラ、俺は権力は無いけどワガママは言いたい放題なんだ。だから、安心してほしい」
「駄々っ子……?」
殿下が言いたいのはおそらく
”上からの要求を突っぱねる事が出來る”
という事なのだろうけど、言葉の選び方にだけは突っ込ませて頂きたかった。
王妃様は疲れたような顔で笑う。
「駄々っ子、その通りね。この子が私達の言う事を聞いた事なんて、王位継承権を放棄した時くらいよ」
「そんなにですか」
「ええ。……幸い、事の分別はついているからいいのだけど。それでもこの子に権力なんて與えたら、敵は増えるし有象無象が群がってきて大変な思いをするの。
だからね、今くらいがちょうど良いと思うわ。そこそこ言いたい事を言えて、ほどほどに侮られている今くらいが」
さりげなく毒づいて王妃様は私を真っ直ぐに見て、言葉を続けた。
「それに、聖という立場にとってもセシルのパートナーはベストな選択のはずよ。なくとも無茶な要求からはを守れるし、何よりこの子、スキルはともかく中のダメさは國外で有名だから。
わたくし達がこの子を重要な位置に取り立てたりしない限り、パートナーかつ聖の貴が自由に活しても余程の事をしなければ警戒はされにくいはず。あなた達は二人とも蔑ろにできない程度には力があって筋が良くて、でも組織をかすような権力は無い――そんな絶妙な立ち位置にいるの。
陛下もそうだけど、わたくしもあなた達が結婚するのが一番良いと思っていたわ。ほんと、誂(あつら)えたようにぴったりよ。あなた達の関係って」
なんて反応しづらいお言葉……。でもそうなのかな。私と殿下、ぴったりなのかな。
「そ、そうでしょうか……」
王妃様は頷いた。やけに確信めいた表だった。
「あ、そうだ。ステラ。貴、この後ひと仕事するのよね? わたくし見したいわ。このお茶を飲み終わったら見に行ってもいい?」
「はい、もちろんです」
ひと仕事とは巨大化の止まらないランランの居場所――聖域を王宮に作る事だ。
やる事が多い中でもこの件の優先順位は高い。塔の部屋から出られなくなる前に済ませなければならないので、この後すぐに取り掛かる予定。
ひとまずご挨拶を終え、部屋を辭した私と殿下は次の用事のために並んで王宮の廊下を歩いた。
「――ステラ」
「はい」
を隠す事をやめた私は、殿下のし後ろで真っ直ぐに前を向いて歩く。
使用人さん達は殿下の姿を認めてスッと端に寄り、しい姿勢のまま頭を下げて私達が通り過ぎるのを待っている。
その真ん中を歩きながら殿下は私にこう言った。
「俺は君がどんな生まれだろうと気にしないからね。だって、君は素敵な人なんだからさ」
さっき王妃様が筋の話にれたからだろうか。
私を気遣うような言葉をかけて下さって、また殿下への信頼が高まったのをじた。
本當に大らかな方だ。
陛下や王妃様もそうだけれど、この方々に仕える事が出來て私はなんて幸せ者なのだろう。
「ありがとうございます」
が、いっぱいだった。
♢♢♢
これから私は王宮の掃除だ。掃除道がっている倉庫に向かい、ハタキとホウキ、それとモップ、バケツ等を両腕いっぱいに抱えてよろよろと歩く。
すると隣にいた殿下がひょいと荷を取り上げた。
「あっ、そんな! 大丈夫ですよ!」
「いいから。実は俺も一度ホウキを持ってみたかったんだよねー」
「持ってみたかった……?」
本當に……?
興味の方向が謎な殿下がスタスタと歩いていくのを後ろから小走りで追って、王宮で一番広い部屋――大広間の扉の前へと辿り著く。
両手が塞がっている殿下の代わりに扉を開けようと手をばすと、金屬製の取っ手がサラサラと末狀に分解されていった。
「え、ちょっ……殿下! それはさすがにどうかと思います!」
「だって面倒なんだもん」
「面倒って」
いくら元に戻せるといっても、扉くらい自分で開けたほうが良いと思うの……。
文字通り々になった扉の跡地をくぐり、背後で元の形狀に戻っていく扉を橫目で見ながら大広間の真ん中に掃除道を置く。
「――では、勤めて參ります。殿下」
「はーい。よろしくね」
すると元の形に戻ったばかりの扉が開いて、何か紙を持った陛下がっていらした。
「セシル。ランランちゃんの宮の件なのだが、裏門の近くに大木があるだろう? あの辺りに作ろうと思うのだが、どうだろうか」
「良いんじゃないでしょうか。その紙は設計案ですか?」
「うむ。見るか? 夜通し考えてみたのだが、せっかくだからあの大木を生かしたいと思ってな。このような――ツリーハウスっぽいじにしたいのだよ」
「それって塔の部屋と変わらなくないです?」
「違うわい。全然違うわい。セシル、ちょっと裏に來なさい。現場とこの設計案を照らし合わせて話し合おうではないか。……そうだ、ランランちゃんにも見てもらおう。おいで、ランランちゃん」
そう言って陛下はランランを肩に乗せ、殿下の首っこを摑み
「ステラ嬢、ちょっと愚息を借りるぞ」
と言い置きズルズルと引きずって行った。
昨日5/10、こちらの小説「誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話」書籍版が発売されました。
矛盾點やセリフの修正などを行い、新規エピソードも追加しております。ぜひお手に取ってみてください。
雙葉はづき先生の麗イラスト、必見です…!(陛下もいるよ!)
コミカライズも進行中です。
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