《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》コミュ障な二人
確かに私は今でもメイドの格好をしている。掃除にはこれが一番だから。
「ケリー。この娘はねぇ、セシルの婚約者なの。まだ決まったばかりで誰も知らないのだけどね」
王妃様が説明して下さった――けど、私を人に説明する時に真っ先に出るのが婚約者(それ)って……は、恥ずかしい。
ケリー様は目を見開き、口元をおさえて「まぁ……!」と驚きの聲を上げた。
「とても驚きました。おめでとうございます。ああ、そういえば怪我人が出たのでポーションをご所とのことでしたが、殿下のご婚約者様……ステラ様がお使いになるのですか?」
「は、はい……おそれながら」
「まぁ! それなら橫になったままで結構でしたのに! わざわざ起き上がってお辭儀までするなんて! ご令嬢は指先をほんのし切った程度で寢込むのが普通ですのよ?」
そう言いながらケリー様はてきぱきと手持ちのバスケットの中から遮ガラス瓶を取り出して封を開け、手渡してくれた。
「はい、こちらがご所のポーションです。怪我の程度にもよりますが、打ち程度ならたちどころに治るはずですわ。さ、ぐっとお飲み下さいませ」
「ぐっと?」
「ぐっと」
全員に見守られながらポーションを飲むの? き、張する……。
いや、こういうのは勢いが大事だ。
私は思い切って瓶を口に當て、一気に呷った。
苦味と酸味とほのかな甘み、それと草の匂いが一度にやって來て咳き込みそうになる。
結構な量のあるそれをなんとか無事に飲み込んで、お禮を言った。
「あっ、ありがとうございます……! 私などのために……」
「それは構わないのですが。どうです? 治りました?」
「……は、はい!」
凄い! 背中の痛みが消えてる! 疲労も……かなり無くなっている気がする。
怪我の治癒だけじゃなくて、力も戻るんだわ。ポーション、凄い!
「ふふ、それは良かったです」
微笑むケリー様の前で腕をかし治った事をアピールしていると、ふと彼の視線が私の橫に逸れた。
「ところで……先ほどから気になっていたのですが、なぜこの大広間の半分ほどからが出ているのですか? それに、あの水の塊のような明なはなんですの?」
「ポチじゃよ」
陛下が久しぶりに口を開いた。気のせいか普段よりも威厳のあるお聲だ。
ケリー様は困した表でし首を傾げ、助けを求めるような視線を王妃様に向けた。王妃様は答える。
「スライムよ。ステラが浄化した魔獣なの。陛下の肩に乗っている鳥も同じ。元は魔獣なの」
「浄化!? 魔獣を!?」
大広間にケリー様の大聲が反響した。
「えっ、ちょっと待って下さい! 浄化って、あの浄化ですか!?」
「そう。々あって、とうとう聖が見付かったのよ。ここ大広間がっているのも浄化のおかげ。……ステラの家はちょっと訳ありでね。彼は今まで表に出て來られなかったのだけど、セシルの婚約者に定したのを機會にこれから人前に出て貰おうと思っているの」
「まぁ……!」
絶句しておられる。
こういう時私はどんな顔をしていたら良いのだろう。分からない……。
「……セシル殿下が突然お元気になられたと思ったら今度はご婚約が決定したりして、何があったのかしらとは思いましたが――まさかそんな、聖様が現れていただなんて! あぁ……準聖として、真の聖様が現れました事を心より嬉しく思います」
そう言ってケリー様は私の前に膝をついた。
神長と同じ反応。困る……!
私、そんな大それた人間じゃない。
「おやめ下さい、ケリー様。私はスキルこそ浄化を授かりましたが、中はただの世間知らずです。たくさんの人のお力を借りてようやく立てているだけなのです。どうか、お立ち上がり下さい」
私も床に膝をつき、ケリー様の手を取って立ち上がらせる。
彼は私の手を取ったままじっと見つめてきて、それから壁の肖像畫に目をやった。
「あの……勘違いでしたら申し訳ないのですが。ステラ様はもしかして先代の聖様の筋でいらっしゃる……?」
ケリー様も私と先代の聖様を似ているとじたようだ。無言で頷くと、し目を泳がせた後に「ステラ・マーブル様……?」と呟いた。
「はい」
再び頷くと、彼は嘆息した。
「……”こちらの”ステラ様がどのような人生を送って來られたのか、私には察する事しか出來ませんが……きっと、辛い思いをしてきた事でしょう。私に言えるのはそのくらいしかありませんが、どうかこれからの人生が幸いなものでありますように」
両手を口元で組み、祈りの姿勢を取った彼に王妃様が聲をかけた。
「さ、堅苦しい挨拶はそのへんにして。せっかく來てくれたんだから、何か甘いものでも食べて行きなさい。ステラも一緒に」
私も!? ご令嬢と一緒にお茶會!?
「よろしいのですか!?」
「勿論。だって貴、社の経験が無いでしょう? これから何かと人前に出る機會があると思うけど、いきなり知らない人ばかりのパーティーに放り込まれると大変だからこの機會にケリーと話して行きなさいな。仕事はそれからでも構わないでしょう」
チラッとケリー様を見ると目が合った。
興味津々な目をしていらっしゃる。私も同い年くらいのご令嬢には興味津々だ。
関心の一致をじた私達はこくりと頷き合い、大広間の窓際にある隅の小テーブルに座った。王妃様も一緒。陛下は咳払いし「余は裏庭で聖獣と遊んでくる」と、いつになく王様らしい言葉遣いでランランを肩に乗せ扉に足を向けた。
すかさず殿下が反応する。
「あっ、俺も」
「お前は聖から離れたらいかんだろう。心してレディ達をもてなせ」
「そんな」
殿下は片手をばしたまま、そそくさと大広間を出て行く陛下を見送った。しばらくしてこちらに向き直り、何事も無かったかのように椅子に座る。
「よろしいのですか? 殿下」
「ん? なんの話?」
「私達とお茶をご一緒しても大丈夫なのですかという話です」
「大丈夫だよハハッ」
まるで魂のっていない返事をする殿下。
社の経験が無いのは殿下も同じなので、きっとばかり(一人は母親)のお茶會は嫌なのだろうなと思う。
でも今後を思うとここは逃げない方が良いような気がする――。
という訳で、あえてこれ以上はれずに同席して頂く事にした。
王妃様が小テーブルの上のベルをちりんちりんと鳴らすと、廊下からメイドさんがって來てすぐにお茶の準備を整えてくれる。
「……で、セシル殿下とステラ様はどのようにして出會いましたの?」
ケリー様の関心はそこらしい。目をキラキラと輝かせてを乗り出して來る。
「始まりは、私が修道院から殿下のお世話係として派遣された事からでした。人のれ替わりが激しかったようで、手が足りないとのお話でしたので」
「ああ、そのようなお話は聞いた事があります。どうもセシル殿下は瘴気に好まれる質のようだと……。おかげで調が優れず、長い間臥せっていたと聞き及んでおりましたが。急にお元気になられたのは先日のお茶會で存じておりました。不思議に思っておりましたけど、全てはステラ様が現れたおかげでしたのね。素敵……」
頬に手を當て、うっとりとした瞳で見られて殿下はあまり上手ではない笑顔を浮かべた。居心地が悪そうだ。
そんな様子の殿下を前に王妃様は扇を広げ、そっと口元に當てた。
どう見ても我が子の初(?)社験を笑っておられる……。
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