《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》殿下も自己評価は低い
納得していると陛下が捕捉して下さった。
「デューイは“絶対に噓をつかない”者なのだよ。最も信頼が置ける者の一人で、今はベネディクトの側近として仕えておる」
「噓をつかない……?」
「はい。元々噓のつけない質でして。おかげで苦労した事もございましたが、スキルを授かってからはこの質を誇りに思っております」
スキル。“鑑定”の事だわ。確かに、噓をつけない人にこそ相応しいスキルと言える。
「と、いう訳で。ステラ、ここに座りなさい。セシルもデューイも」
陛下に促されて全員ソファーに掛ける。
私と殿下が隣同士、デューイさんがテーブルを挾んだ向かい側。
デューイさんと向かい合うと、いよいよ“答え”が分かるのだという予に否が応でも張してしまう。
陛下は話を進めた。
「さて。お察しの通り、これはステラのためのごく個人的な“鑑定”の依頼になる。改めて言うまでも無い事だが、デューイよ。ここで知った事は一切他言無用だぞ」
「承知しております。我がスキルの名譽にかけて真実のみを口にし、を守る事を誓いましょう」
「うむ。それでは――準備はいいかな? ステラ嬢よ」
「……はい」
張で冷たくなった手をぎゅっと握りしめる。
その時だった。突然デューイさんから放たれる視線の力が強くなったような気がしてびくりと肩が跳ねた。
初めての覚だ。の中を探られているような、ぞわぞわした。きっと、今まさに鑑定スキルを使われているところなのだ。
「ほう……。なるほど……」
小聲で呟かれて恐怖しかじない。
何が“なるほど”なんですか!? 早く……早く教えて下さい!
じりじりとした目で見つめていたら、デューイさんはふっと笑みを浮かべて言った。
「足のサイズは九とハーフ・インチですか。いいですね」
「はいっ!?」
足のサイズ!?
予想外の角度から來た鑑定結果につい大きめの聲が出た。殿下はガタっと音を立てて立ち上がる。
「ちょっ……、デューイ兄! 誰がのサイズを鑑定しろって言ったんだよ!」
「見えてしまっただけです。わざとじゃないですよ」
「あのなぁ……! わざとじゃなくてもダメだろ! 噓をつけない事と何でも口に出す事は全然別の話なんだぞ!?」
「はい。だから無難なところの數字をですね」
「無難!?」
ちょっと待って! それって無難じゃないところの數字も見えているって事!?
私はソファーの上に置いてあったクッションをそっと抱き寄せ、を守る盾のようにして膝の上に置いた。
殿下は私の前に立ち、聞いた事が無いような低い聲でデューイさんに詰め寄る。
「今すぐ忘れろ。じゃないと記憶ごとその頭を破壊する」
「勘弁して下さいよ。私とはい頃からの馴染みじゃないですか。ちなみに指のサイズは七號がぴったり合うようです」
「…………へぇ」
そこだけ急にトーンダウンした。何でもいいけどやめてほしい! 頼んだのは私だけどさすがにちょっとこれはない……!
「さて、冗談はさておき……。ステラ・マーブル様。貴様が浄化の聖でしたか。驚きましたよ」
驚いたのはこっちですよ。冗談で済まさないでほしいのですけど……!?
「そして何故かスキルを二つお持ちのようだ。初めて見ましたが、こんなケースもあるのですね。……掃除、とはまた。世の中には何の役にも立たないスキルも數多く存在しますが、高位貴族のご令嬢には使う機會が無さそうという意味では掃除もなかなか。……その、おみ足に巻き付いているポチ? は従魔でしょうか。魔獣を一、制して戦闘に使える魔獣使いというスキルも世の中には存在しますが……それとはどうも違うようだ」
見えたものを次々に口にするデューイさん。その鑑定眼は本だ。
「しかも既にセシル殿下とのご婚約もっておられる。かつての兄貴分として非常に嬉しい気持ちです。おめでとうございます」
「あ……ありがとうございます……」
そんなところまで見えているのね……。
膝に置いたクッションをぎゅっと抱きしめてお禮を言うと、デューイさんは突然、
「ラディス・マーブル」
と、口にした。どきりとした。
「聖様の縁者のお名前です。本日の依頼はこちらでしたね」
お父様のお名前だ。ラディス・マーブル……。
「ほ……本當……に……?」
「はい。間違いありません。私の魂に誓って噓は言いませんよ。例え相手が陛下だろうと、世界中の人々が待ちわびた聖様であろうとね」
答えはあっけなかった。
全から力が抜けていく。ぽすりと背もたれに寄りかかって、天井を見上げた。
「お父様が……本當のお父様だった……」
無意識に言葉がれる。嬉しいのか何なのかよく分からないがあふれてきて天井がゆらゆらと滲んだ。
ぽすっと頭に手が置かれて、隣を見ると殿下が穏やかな顔で「良かったね」とだけおっしゃる。私は頷き、
「はい……」
と言うのが一杯だった。頬に熱い涙が流れていく。長年心を蝕んで來たものが、溶けていくのをじる。
お父様には、理由も分からず嫌われていた。
私だってあの人には好きとも嫌いとも言い難いしかない。でも。でも。
「良かったです……っ!」
そう口にすると、呪縛から解き放たれた心地がした。
♢♢♢
「デューイさん。本日はありがとうございました」
「いえ。お役に立てたのなら何よりです。では、私はこれで失禮します」
鑑定を終えて政務室を出て行くデューイさんを皆で見送った。デューイさんは出て行く直前、綺麗な姿勢で禮を取りそれから私の目を真っ直ぐに見て來る。
「聖様、セシル殿下を――、弟分を、よろしくお願いしますね」
噓をつけない質を持つ彼が真っ直ぐに紡ぐ言葉。
殿下は不機嫌そうにふいと顔を逸らしたけれど、心の底では憎からず思っているのが分かる。
「はい。必ずやお幸せにして見せます」
デューイさんはにこりと笑って扉を閉めた。室に殘った私達は誰ともなしにため息をつき、力からそれぞれ近くの壁や家に寄りかかる。
今日の一部始終を見屆けた陛下は、それはそれは疲れたような聲でおっしゃった。
「……どうなる事かと思ったが……ひとまずは良かった、と。それしか言葉が無いな。ステラ・マーブルよ、疲れただろう。今日はもう休みなさい。王宮に部屋を用意する」
「まぁ……。ありがとうございます。とてもお言葉に甘えたい気分です……」
確かにドッと疲れが出てきた。大広間の聖域化とマロンとの出會いと、それと鑑定。今日は盛り沢山すぎて気力も力も追い付かない。
塔の階段もギリギリ上れるかなってくらいの疲労をじる。
「じゃあ、俺も今日はこっち?」
殿下が訊ねた。
「うむ。お前は聖と離れると元の狀態に戻ってしまうようだからな……。一人で塔に帰るのはやめておいた方が良いだろう。扉の部屋を二人で使うが良い。セシル、案してやれ」
「はーい」
扉。それって夫婦用のお部屋って事じゃ……。
ま、まぁ、塔の部屋も似たような作りだし、別にいい……のかしら。
「じゃあ早速行こうか。夜までゆっくり休もう」
「はい」
……ん? ちょっと待って。夜まで、って休憩にしてはし長いような。まだお晝前なのに。
「あっ」
そうだわ。私、殿下と約束したんだ。
鑑定が終わってし休んだら一緒に町に出てみようって。殿下はきっとそのおつもりで……。
どうしよう。黙って出るのは良くない気がする。
「……陛下。私、後で殿下とこっそりお城を抜け出して町を散策してきます」
「ちょ……なんで言うの……」
「だって何も言わずに出たらご心配をかけてしまうじゃないですか。それはいけませんよ」
「誰も心配なんてしないって。それに言ったらこっそりでも何でもないじゃないか……」
陛下はクックッと笑った。
「重要な報告に謝する。午後からは衛兵を何人か町へ遊びに出しておこう」
妹と兄、ぷらすあるふぁ
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