《優等生だった子爵令嬢は、を知りたい。~六人目の子供ができたので離縁します~(書籍化&コミカライズ)》おまけ(後編)その後のお話
エディーは、食堂を出てミカエルを探していた。
ミカエルをあんな風にしてしまったのは、自分の所為だとなからず責任をじている。エディーには、五人の子供がいるが、どの子も自分の子だと思える事がなかった。
それは、自分の所為なのはわかっていたし、その事に対して別にどうとも思っていなかった。子供から、父親として扱われる必要をじていなかったから。
でも今思うと、父親になんかなりたくなかったのかも知れない。
そんな時に、唯一ミカエルだけは父親として見てくれていた。
ミカエルが、セレスティーヌと距離を置いた時に、実の母親の元に訪ねてくるようになった。だから自然とミカエルとは、よく顔を合わせる様になって會話をする事が増えた。
父親として慕ってくれていたのかは分からないが、自分の子供なんだと思える瞬間が増えて嬉しかった。
だから調子にのって、余計なアドバイスをしてしまった。別に悪気なんて全くなくて、自分ではそれが本當に良い事だと思っていたのだ。
だから、ミカエルにとって悲しい結末になってしまい、申し訳なく思っている。ミカエルは、まだまだ若い。自分の様になってしくない事だけは伝えなければと思った。
ミカエルの部屋を覗いてみたが、いる気配がない。困ったなと思っていたら、アクセルが様子を見に來てくれた。
「父上、ミカエルはいましたか?」
エディーは、首を振っていないと伝える。アクセルが、暫く考え込む。
エディーは、アクセルの様子を見ながら頼もしい男に育ったものだなと心する。
難しい試験を突破して王宮の吏になり、複雑な環境で育った五人兄妹の一番上として皆から頼りにされている。今だって、ミカエルを心配して様子を見に來てくれた。
そんなアクセルを思うと、今でも自分の子供だと信じられない。
「父上、どうかしましたか?」
エディーが、アクセルをじっと見ていたので不思議そうにしている。
「いや、アクセルは立派になったなと思って。僕の子供だと信じられないよ。アクセルだけじゃなくて、五人ともみんなだけどね」
エディーが、ちょっと自分を皮った笑顔を溢す。
「父上……。いい加減、ちゃんとして下さいよ……。でも、父上が父上だったから、僕達は五人兄妹になったんです。複雑な環境だったけど、別に不幸せじゃないですよ。みんな、それぞれ幸せに暮らしていますし。ミカエルだって、ただ失しただけです」
アクセルが、珍しく父親と面と向かって話をする。息子とこんな風に話をする事も、今まで全くなかった。
セレスティーヌがいなくなってから、ブランシェット家も変化があった。これが良い事なのか、エディーにはまだ分からない。でも、嬉しく思うのは事実だった。
「そうか……。アクセルは大人だな。もしかしたら、庭でも散歩しているかも知れないから、探して見るよ」
エディーは、そう言ってアクセルの肩をポンポンと叩いて玄関の方に向かった。
エディーが庭に出ると、街燈が所々に燈り夜の庭を照らしている。空を見ると、夜空に星が瞬いていた。
雲がなくて、月も綺麗に見えている。日中は溫かくなったが、まだ夜は寒い。
上著を著てくれば良かったとし後悔しながら歩いていた。庭の中央までくると、ベンチが置かれた開けた空間に辿り著く。
そこで、ミカエルが一心に自分の剣を振るっていた。エディーは、その景を見て男の子だなと思った。
ミカエルは、今までずっとああやって辛い事を乗り越えて來たのかも知れない。そう思ったら、嫌な事から逃げてばかりいた自分のけなさを改めて恥じた。
「ミカエル!」
エディーが、ミカエルに聲を掛ける。
ミカエルが、父親に気づいて振るっていた剣を下ろした。
「父上……」
「ミカエル、僕のけない話を聞いて貰えないか?」
エディーが、ミカエルに近づいて訊ねる。
ミカエルは、し考えて上がっていた息を整えるとベンチの方に向かった。エディーは、了承と捉えてミカエルの隣に腰かける。
エディーは、目の前に広がる夜の庭を眺めながらゆっくりと話出す。
今、自分は毎日がとても辛いんだと。セレスティーヌとの事があってから、彼のアナと、エディーなりに向き合い話し合いを続けている。
今までの様に、好き勝手して暮らす事は出來ないと何度も話をした。自分を束縛して、縛り付けるのも止めてしいと言った。
生まれて來た子供の事は、どうするのかと話をしても、公爵家の娘なのだから大丈夫と繰り返す。
なんの教育も出來ない、母に任せっきりにして自分は自分を著飾る事だけに夢中になっている。
エディーは、こんな自分の思い通りにならない生活を送っていて、気が変になりそうなんだと溜息を零す。
「父上は、何が言いたいんですか?」
ミカエルが、父親の言いたい事が分からずに眉間に皺を寄せている。
「今までの僕はさ、こんな事からはいつも逃げていたんだよ。逃げる事になんの戸いも嫌悪もなくて、それが當たり前だったんだ」
エディーは、組んだ膝の上で手を握っている。しの沈黙があって、エディーは続きを話し出す。
「セレスティーヌに言われたんだよ。頬を引っ叩かれてさっ。僕が、嫌な事からずっと逃げて來たって。でも、人生の殆どは嫌な事とやりたくない事から出來ているんだって。世の中の人は、それを必死でこなしながら生きてるんだって。それが実を結ぶ瞬間があるから、幸せをじるんだって。僕はさ、そんな事考えた事もなかったよ。だから僕は、いつも何かが足りないと思って生きてきたのかって思ったんだよね」
エディーが、自分に語りかけているみたいに話している。
「そうだとしたって、好きな気持ちが無くなる訳じゃないじゃないか。セレスティーヌが、他の男と幸せになる姿なんて見たくないんだよ……」
ミカエルが、ポツリと零す。
「セレスティーヌは、嫌な事に目を逸らさずに生きて來ただよ。出來ない事なんてないって言っていた。事は、やるかやらないかなんだって。やったらやった様に出來て、それを積み重ねて、大人になっていくんだって。僕なんかよりも、數倍格好良いよね。大人になるって、大変だよ」
エディーが、おちゃらけた笑顔を向ける。ミカエルは、面白くなさそうにふてくされている。
エディーは、セレスティーヌから言われた言葉を何度も自分の中で繰り返した。あんなに必死に、真剣になって叱られた事が初めてで。この言葉からも逃げたら、本當に自分はこのままだと思った。
だから、毎日嫌で嫌で仕方ないけれどアナと向き合っている。
ミカエルにも、セレスティーヌのこの言葉を教えてあげたかった。
エディーが、ベンチから立ち上がる。
「僕はさ、セレスティーヌからもういい加減、逃げるなって言われたからさっ。僕なりに頑張っているって話だよ。以上、僕のけない話でした。じゃーね」
エディーが、背中越しに手を振って立ち去って行く。
殘されたミカエルは、ベンチに座って空を眺めながら、父親の話を思い返していた。
「お母様、とっても綺麗。聖様みたい」
フェリシアが、セレスティーヌのウエディングドレス姿を見て興している。
今セレスティーヌは、エヴァルドとの結婚式の準備を終えて、新婦の控室で待機していた。
その姿は、凜とした冴えるようなしさで誰もが見惚れる程のしさだ。真っ白なマーメイドラインのドレスに、マリアベールと呼ばれる後頭部だけを包み込むベールを付けている。
手元には、大のユリのブーケを握りしめていた。
「もう、フェリシアったら大げさよ」
セレスティーヌが、し恥ずかしそうに微笑んでいる。
「お母様、大げさではないわ。本當に素敵。オーレリア様の見立てなのでしょう?」
セシーリアも、セレスティーヌの姿を見てうっとりしている。
「そうなのよ! セシーリア。セレスティーヌったら、結婚式は初めてって言うから、私びっくりしちゃって。これは、最高のウエディングにしなきゃって張り切っちゃったの」
オーレリアが、興した面持ちでしゃべっている。
「そうなの、オーレリアったら強引で……。大人には大人にしか著られないデザインがある! って言って何著も試著させられたのよ」
セレスティーヌが、その時の事を思い出しているのか苦笑を滲ませる。娘二人は、その景が目に浮かぶのか可笑しそうにしている。
「だって、セレスティーヌに任せていたら歳がどうのとか、今更ウエディングドレスなんて恥ずかしいとか、どんどん地味で味気ないドレスばかり選ぶのよ」
オーレリアが、腕を組んで呆れたように言う。
「お母様らしい」
フェリシアが、可笑しそうに笑っている。
「もう、それは言わない約束でしょ」
セレスティーヌが、娘達に知られて恥ずかしくてオーレリアに怒っている。
「あら、お母様はそんな所が可いのよ」
セシーリアも、うんうんと頷いている。そして、みんなで笑い合った。
一息ついたフェリシアがポツリと呟く。
「それはそうと、お兄様達遅いわね」
セシーリアとフェリシアは、結婚式の一週間前からリディー王國に來ていた。
久しぶりに三人で、楽しく過ごす事ができた。兄達は、式に間に合うようにギリギリに來て、終わったらすぐに帰る事になっている。
アクセルもレーヴィーも當主であり、仕事をしているので自國を長い時間離れる訳には行かなかった。
「そろそろ著いても、いい頃ではなくて?」
セシーリアも、時計を見てフェリシアに答える。
時間を気にしながらも四人でおしゃべりしていたが、兄達が到著する事なく式が始まる時刻になってしまった。
「そろそろ私達は、教會の方に向かいますわ。必ず、お兄様達來るはずだから心配しないで」
セシーリアが言う。
「セレスティーヌ、貴方の子供達だものきっと大丈夫。今日のあなたは最高に綺麗よ。きっと人生で一番綺麗だわ。そんな場面に立ち合えて、私とても幸せよ」
オーレリアが、セレスティーヌに優しく語り掛ける。そしてセレスティーヌの娘二人と一緒に、控室を出て行った。
オーレリアの言葉を聞いて、セレスティーヌは自分の方こそ幸せだと思った。結婚式をするに當たり、本當に々な相談に乗ってもらった。今日と言う日を無事に迎えられたのは、オーレリアのおだった。に溫かい想いが満ちる。
暫くして、式場係がセレスティーヌを迎えに來た。式場係に、ドレスとベールが汚れないように介添えして貰いながら教會へと向かう。
教會の口には、エヴァルドが黒いタキシードにを包み張した面持ちで待っていた。
「エヴァルド」
セレスティーヌが、呼びかける。セレスティーヌの方を振り向いたエヴァルドは、目を見開いて驚いていた。
「セレスティーヌ、凄く綺麗です」
エヴァルドが、微笑む。セレスティーヌは、恥ずかしそうに「ありがとう」と言ってエヴァルドの隣に立った。
「エヴァルドもとっても素敵よ」
セレスティーヌが、エヴァルドの顔を見上げて言った。エヴァルドは、恥ずかしそうに俯いて頬を赤くしいる。
「僕は、きっと世界で一番幸せだよ」
エヴァルドが、嬉しそうな無邪気な笑顔をセレスティーヌに向けた。セレスティーヌは嬉しいのと恥ずかしい気持ちで、赤くなった顔をユリのブーケで覆って誤魔化した。
全ての準備が整い、式場係が教會のドアを開ける。パイプオルガンの音楽と共に、セレスティーヌとエヴァルドは教會に足を踏みれた。
中にり扉の前で二人一緒に一禮をする。
今日の式は、二人で話し合って二人で場する事に決めた。これから先ずっと、二人で一緒に歩んで行きたいからと相談して。
一禮して頭を上げたセレスティーヌの目に、ミカエルの姿が飛び込んで來た。
セレスティーヌの五人の子供達が一列になって座り、拍手をして笑顔で迎えてくれている。
まさか、五人で來てくれるなんて思ってなかったので、セレスティーヌの目頭が熱くなる。
気付いたエヴァルドは、エヴァルドに摑まっているセレスティーヌの腕を優しく叩く。二人は、一瞬見つめ合った後、ゆっくりとバージンロードに足を踏み出した。
セレスティーヌは、式の間中、幸せでが一杯だった。
今日は、セレスティーヌの家族であるフォスター家も全員で來てくれている。セレスティーヌの大切な人達に見守られながら、結婚式を挙げられた事が今でも信じられない。
インファート王國での生活に疲れて、ただ自由になる為だけに國を出て來た。
なんて知らなかった自分が、生涯せる人を見つけられるなんて思ってもいなかった。この幸せに巡り合えた奇跡に謝を捧げたい。
無事に結婚式を終えたセレスティーヌとエヴァルドは、バージンロードを通って招待客に見守られながら退場する。
その後は、緑の芝生が綺麗な広場で招待客との立食パーティーだった。セレスティーヌは、すぐに子供達の元に向かった。
「ミカエル!」
セレスティーヌが聲を掛けると、ミカエルがセレスティーヌの方を振り返る。
「母上……」
ミカエルが、小さな聲で呟く。聲が小さすぎて、セレスティーヌには聞こえなかった。
「ミカエル? ごめんなさい、聞こえなかったわ」
セレスティーヌが、ミカエルに近づいて申し訳なさそうに謝る。
ミカエルは、拳を握ってセレスティーヌと目をしっかりと合わせた。そして、はっきりと告げる。
「母上、結婚おめでとうございます」
驚いたセレスティーヌの目から涙が溢れる。目の涙を拭いながら、謝を伝えた。
「ありがとう、ミカエル。お母様は、貴方みたいな素敵な息子がいて幸せよ。きっとここにいる誰よりも、お母様が一番幸せ」
ありったけの笑顔を、ミカエルに向ける。ミカエルも、笑ってくれた。
「じゃあ、僕は母上と同じくらいの幸せを見つけるよ。その時は、自慢しにくるからね」
「ふふふ。楽しみに待っているわ」
嬉しそうに笑うセレスティーヌの隣に、そっとエヴァルドが寄り添う。そして、優しく涙を拭ってあげた。
ミカエルは、その景を見て悔しいと思う。でも、母親の笑顔を見て思い出した。
ああ、なんだ。僕が大好きだった母上の笑顔だ。この笑顔が、ずっと見たかったんだ。僕だけのものになってしくて、頑張ったんだ……。
じゃあ僕はこれでいい。素敵だと思ってくれる息子でいい。僕は、逃げずに僕の幸せを見つけに行くよ。
ミカエルは、この時にやっとセレスティーヌを想う気持ちとさよならできた。
結婚式が終わって、セレスティーヌとエヴァルドは二人きりで夜の星空を眺めていた。
「エヴァルド、みんな大きくなっちゃったわ。嬉しいけれど、やっぱりちょっとだけ寂しい」
セレスティーヌが、エヴァルドの肩に頭を預ける。
「そうだね。大きくなる為に、無くなっていくものがあるって寂しいね。でも、変わらないものもあるよ」
エヴァルドが、セレスティーヌを引き寄せて腰に手を當てる。
「変わらないものって何?」
セレスティーヌが不思議そうに呟く。
「それはやっぱり、僕がセレスティーヌをしてるって事だよ」
エヴァルドが、誇らしそうに言う。
「もう、なによそれ。ふふふ。でも、じゃー私も同じかな」
セレスティーヌが恥ずかしそうに、エヴァルドの顔を見上げる。
エヴァルドが、ゆっくり自分の顔を寄せる。幸せな二人の頭上には、星の優しいが瞬いている。
きっとこの星の瞬きのような幸せが、これから歩む二人の道につながっている。
いかがでしたか?
登場人、一人一人のその後をほんのしですが書かせて頂きました。
面白いと思って頂けたら、☆☆☆☆☆の評価もお願いします。
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