《【書籍化】 宮廷魔師の婚約者》8 新たな生活
こうして、宮廷魔師クインの弟子兼婚約者となってしまったメラニーは數日後には、王都の中心部に近いクインの屋敷に住居を移していた。
メラニーの叔父であるダリウスが両親になんと説明したのか分からないが、突然のメラニーの弟子りと婚約という話にも、両親はあっさりと承諾してしまった。
そしてあれよあれよと言う間に、クインとの婚約が正式に決まり、メラニーはクインの屋敷に住むことになったのだ。
スチュワート家の屋敷と違い、クインの屋敷には大きな研究工房が隣接して建っていた。
その規模はひょっとしたら、屋敷本よりも大きいかもしれない。
國の貴族でも、これほどの規模の工房を持っているのはクインだけかもしれなかった。
戦闘型の魔師として有名であるクインだったが、実は魔の研究の方にも力をれていた。
もっとも、本人は今は宮廷魔師としての本業が忙しく、殆ど研究をしていないと言っていたが、その設備は魔學校となんら遜もない充実度であった。
なかでもメラニーを喜ばせたのは、クイン自慢の研究材料の數だった。
工房の三分の一は、この研究材料で埋め盡くされていると言っても過言でない。
宮廷魔師として魔の討伐を主な仕事としているクインにとって、世界中の珍しい材料を手にれるのは困難なことでない。レアな魔退治に行けば、その魔の亡骸をそのままそっくり手にれることができるのだ。
そんなわけで、実は國の中でも、これ以上ない寶庫となっているのだが、世間知らずのメラニーはいまいちその価値が分かっていなかった。
人見知りのメラニーだったが、數日も過ごせばクインとも、屋敷の使用人とも、打ち解けることができた。
最初の數日はクインが工房の中を案し、設備の使い方や簡単な講義をレクチャーしてくれたが、すぐに王宮に呼ばれ、仕事へと向かってしまった。
そんなわけでメラニーはクインの屋敷で一人、クインから出された課題をやったり、書庫室の本を読んだりして過ごしていた。
もちろん形式的とはいえ、クインの婚約者なので、一応は花嫁見習いとしてお屋敷では扱われているが、使用人も良い人ばかりで、研究に沒頭するメラニーを責める人間はいなかった。
更に數日が経ち、クインから出された課題も終わってしまったのだが、肝心のクインはまだ帰って來なかった。
近くの魔討伐に向かったと聞かされており、當初は二、三日で帰ってくると言っていたのに、半月も経過してしまった。
せっかくクインの弟子になったのだから、せめてクインの役に立つことをしたいと思ったが、お屋敷のことは大抵使用人がやってしまうし、そもそもクインのこともあまり知らないので何が役に立てるかもわからなかった。
――ここでも私、役に立てないのね。
メラニーがしょんぼり落ち込んでいると、使い魔のメルルがすりすりとり寄った。
「メルル。めてくれるの? ありがとう。……あら?」
いつもとメルルののが違う気がして、メラニーはメルルのをマジマジと見つめる。
「……メルル。あなたひょっとして皮した?」
メラニーは急いで立ち上がると、自室のメルルの巣に向かった。
「うわぁ! 綺麗に皮しているわ!」
メルルの巣の中に殘っていたのは特大の大蛇の皮だった。
「これ、クイン様にあげたら喜んでくれるかしら?」
蛇の皮は研究材料の中でもかなり利用価値の高いものだった。
それもかなり良い狀態で皮しているので、きっとクインも喜んでくれるだろうと、メラニーは丁寧にその皮を箱に詰めた。
「うふふふ。クイン様、喜んでくれるかしら? ありがとう、メルル。皮して疲れたでしょう。今、餌をあげるね」
その日の夜、使用人からクインが帰ってきたことを告げられ、メラニーはいそいそと用意したプレゼントを持って、出迎えのために玄関ホールへと向かった。
階段を降りると、帰宅したばかりのクインがコートをいでいるところだった。
「……」
ここでふとメラニーはクインのことをなんと呼んで出迎えるべきか考えた。
普通だったら、「クイン様」だけど、私は弟子なのだから「お師匠様」と呼ぶのが正しいのかしら? いえ、待って。仮とは言え婚約者で、ここは住居のお屋敷だし、「旦那様」が正しいかしら?
悩みに悩んだ末、メラニーはクインにこう呼びかけた。
「おかえりなさいませ、旦那様」
階段を降りながら、クインににっこりと微笑みかけるメラニー。
しかし、クインの反応はと言うと……
「…………………………」
目を見開いて、その場に直するクインを見て、メラニーは首を傾げる。
――あ、あれ? 何かおかしかったかしら?
「え、えっと。すみません、クイン様。……旦那様だなんて、厚かましかったですよね。私はあくまでも仮の婚約者でしかないのですし。えっと、お師匠様と呼んだ方が良かったですか?」
メラニーがしょんぼりとを竦めると、クインがハッと意識を取り戻して、慌てて首を振った。
「……いや、その、うん、普通にクインでいい」
「は、はい。えっと、クイン様」
「ああ」
なんだか妙な空気が二人の間に流れた。
そんな二人を周りの使用人が生暖かい目で見守っていることにクインは気づき、気まずい様子で咳払いをした。
「……コホン。仕事が長引いて悪かったな」
「とんでもないです。お仕事なんですから、私のことは気にしないでください」
「そうはいかんだろう。わざわざ弟子として迎えれたんだ。どうだ? 課題は進んでいるか? 分からないことがあったら」
留守であったことに気を遣ってくれるクインに嬉しいと思いながら、メラニーは笑顔で頷いた。
「大丈夫です。無事に終わりました」
「そうか。終わったか。………………え? 終わった?」
「はい。とても面白い課題でした。私、魔法陣の課題なんて初めてで、上手く出來ているかわかりませんが、一応ちゃんと発したんですよ。転移魔って意外と複雑なんですね。私、あんなに頭を悩ませたの初めてです。最初、ティバム式を現在使われているガサンドラの式に組み込んでみたのですが、上手くいかなくて。でも、アントルの空間結界の法則を使えば上手くいくことに気付いて、式を分解して組み直してみたら上手くいったんです! それで、更に重いものを転送できないかと思って……」
「………………」
「……クイン様?」
表を固まらせて微だにしないクインにメラニーは首を傾げた。
もしかして、あんまりペラペラ喋るから呆れられたかしら?
そうだとしたら、とても恥ずかしいわ。
顔を赤くさせて俯くメラニーに、クインは意識を取り戻し、慌てて言った。
「あ、いや。なんでもない。後で見せてもらおう」
「はい! 採點よろしくお願いします。あ、そうだわ。クイン様」
「……な、なんだ?」
「プレゼントです!」
メラニーは後ろ手に隠していた箱をクインに差し出した。
「お世話になっているお禮です。開けてください」
「……気を遣わないでいいのに」
そう言いつつ、メラニーが何を用意してくれたのだろうと、クインは興味津々に箱を開けた。
「メ、メラニー? ……なんだ、これは?」
箱の中を見たクインの聲がひっくり返る。
「メルルの抜け殻です。すっごく綺麗に剝けたんですよ?」
「……そのようだな」
「クイン様?」
「……いや、ありがとう。メラニー。重寶させてもらうよ」
「はい!」
クインの笑顔は引き攣っていたのだが、それには気づかないメラニーは嬉しそうに返事をしたのだった。
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