《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》27.婚約破棄のと魔石の加工③
「み……みみ、魅了の効果を持つハーブ……というと、あの、昨日のレストランで使われていたのと同じもの……ですよね……」
私は努めて息を吐く。今ここで気絶したら不自然すぎる。大丈夫、あれはもう終わったこと。ここには私の好きなものしかない。だから大丈夫。何度も心の中で唱えて、安心する。
「ああ。でも、結局誰の仕業なのかわからずじまいだったんだ。犯人の目星は簡単についたけれど証拠がなかった」
「き、貴族子弟が通うアカデミーで安易に誰かを犯罪者扱いなんてできません。當然のことと存じます」
「……悔しいけどね。だから、この裝置をつくらせた。ちなみに、昨日のレストランには役人を送り込んだからじきに摘発されると思う」
そっか。そういう経緯でこの攜帯式の浄化裝置は考えられたんだ。私はまた息を吐く。何とかして、この話の流れを変えたい。
「レ……レイナルド様はどうしてそんなに錬金がお好きなのですか……」
「子どもの頃、魔法を見たんだよね」
「魔法を見た」
驚きで手元のノートにズルっとインクがびてしまった。
「そう。誰も信じてくれないけど、あれは魔法だった。みんな、魔法――霊、は消えたと思ってる。だけど俺は確かに見たんだ。あれはすごくきれいで、驚異的だった。」
「……あの。あの。だ、だから……最初に會ったとき、私に魔法が使えるのかを質問を」
あの質問には心底驚いた、だって、數百年前に消えたはずの魔法が存在することを前提にしたものだったから。
レイナルド様は一どこで魔法を見たのだろう。もしかして、私以外にも魔法を使える人がこの世界に殘っているのかな。
ものすごく気になるけれど、これ以上話を広げるのも躊躇われた。私はお兄様のように上手く話せないしごまかすことも出來ない。魔法の話からはしでも遠ざからなければ。
レイナルド様は軽く頷いたあとらかく微笑んで、私の顔を覗き込んできた。
「フィーネが俺個人のことを聞いてくるなんて珍しいね。いつも、研究に関する質問ばかりだから」
「あ……っ申し訳……おおおお王太子殿下に何てことを……」
「ううん。うれしいよ。やっと俺にも興味持ててきた?」
レイナルド様に興味。それがうれしいってどういうこと……?
告げられた言葉の意味がいまいちわからない私を助けてくれたのは、クライド様だった。
「あーもう、レイナルド。フィーネちゃん困ってるじゃん」
「何も変なことは言っていないけど?」
「普通に考えたらちょっとおかしいこと言ってんの。そういうこというのやめな?」
二人の會話に戸いつつ、私は現実逃避とばかりにもう一度魔石を眺める。これをレイナルド様が仰るように改良するなら、魔法を使わないといけない。レイナルド様がいらっしゃるところではできない。
「あの……レイナルド様。この魔石の加工については……し時間をいただいてもよろしいでしょうか。持ち帰って検討を」
「うん。フィーネなら、やっぱりできると思った」
「あ……っ、あの、できるかどうかはまだ」
「急がなくていいよ。……どうせ、アカデミーのあの日には戻れないから」
きっと、レイナルド様は一年前の婚約破棄のことを仰っている。今後、魅了の被害にあう人を減らしたいだけではなく、『フィオナ』を助けたいという思いも伝わってくる。
――優しい人。
その日、外が暗くなってアトリエを後にするとき。クライド様は私の近くにやってきて悪戯っぽく笑った。
「フィーネちゃん、気絶しなかったね。がんばったじゃん」
私は何も言えずに、ただ頷いたのだった。
◇
次の日。薬草たちの前にしゃがみ込む私の前には、なぜかまたミア様がいらっしゃった。
「ちょっと! あなた。私、試験に落ちたんだけど!」
「……」
「試験に、落ちたの!」
「……」
ちょっと意味がわからない。でも、ここは薬草園。気持ちを落ち著けてくれる効果のあるハーブがたくさんある。
私は無言で隣の畑に移し、葉っぱに顔を近づけた。ふう、なんとか落ち著いて息ができそう……。
「ねえ、聞いてるの? あなたが選んだ素材で私は試験に落ちちゃったの。もっときちんと勉強しなさいよ」
ミア様に『きちんと勉強しろ』と叱られる日が來るなんて思っていなかった。面食らった私は目を瞬く。
「あの。ししし試験、ですか……」
「そうよ。昨日、薬草の採取をお願いしたでしょう? あれ、私の試験用だったのよ!」
初級ポーションなど初歩の錬金の場合、魔力量か素材の質のどちらかに優れていれば生は功する。けれど、ほかのものになると魔力量ではごまかせない。
王立アカデミーで教える錬金は初歩のものばかりなので、魔力量にとても優れていらっしゃるミア様は優秀だった。けれど、ここでは別で。
「で……でででは、あの試験の方には……わ、私が採取したとお伝えいただいても問題な」
「そんなことできるわけないでしょう! だって、次にズルしたらクビって言われてるんだから!」
「ク……クビ」
「そうよ。いいわよね、あなたみたいな平民は。最初に求められるハードルが違って、ちょっと知識さえあればちやほやされるんだもの。気楽でうらやましいわ」
ミア様の出自を知っている私はし首を傾げてしまった。
前ならアカデミーの名前を聞くだけで震えていたのに、今はこうやってツッコミをれたくなる余裕まで生まれるなんて。ずっと引きこもっていた私だけれど、しずつ外の世界に慣れてきていることを実してうれしくなる。
「ねえ、どうしてちょっとヘラヘラ笑ってるのよ!?」
ご、ごめんなさい……!
この場をどう切り抜けようか困っていると、また遠くからネイトさんの聲が聞こえてきた。
「あっ、お前! また來てんのか!」
「やだっ。あの人ほんとうるさいわよね。じゃあね」
「あ」
ミア様はまたぴゅうと走り去る。本當に相変わらずでいらっしゃる。
そういえば、まだ鉢合わせしたことはないけれど、アカデミーで私に婚約破棄を告げたエイベル様も出仕しているのだった。
彼には……できるだけ會いたくない。
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