《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》31 三年後

第一王子マークスがエドナ王を連れてあの農園に行った日から三年が過ぎた。

マークスは三年経った今でもあの庶民の味と農園の人々と関わった楽しい時間のことをしばしば思い出す。

「アレシアは元気にしているだろうか」

すこしぼんやりしてから機の上を片付けて立ち上がった。

夜もだいぶ遅い。母に付いている侍たちはまだ起きているだろうか。いや、不寢番がいるか。

「寢る前に母上の容を聞いてこよう」

マークスの母である王妃は半年ほど前から頭痛が続いている。発作のような頭痛は次第に頻繁になり、痛みも強くなっているらしい。最初は神的なものと思われていたが、最近はめまいや吐き気、手足の痺れも出てきているとのこと。ただの頭痛でないことは明白だった。だが醫者は痛み止めを出す以外は何もしない。おそらく何もできないのだ。

マークスが王妃の部屋に向かうと、夜遅い時間にもかかわらず侍たちがざわついている。皆一様に表い。

「何かあったのか」

「殿下!王妃様が部屋の中でお倒れになりました。今、醫者を呼んでおります」

走り出したマークスが母の寢室のドアを開けて中にると、護衛の騎士が母を抱え上げてベッドに寢かせたところだった。

「母上!」

「マークス。悪いわね、こんな夜遅くに。迷をかけます」

「頭が痛いのですか?」

王妃はふるふると小さく顔を左右にかした。

「もう大丈夫よ。足がもつれたの」

「醫者が來るまでに何かしてしいことは?」

「ないわ」

母はずいぶん痩せてしまい、首や腕のすじが目立つ。食が落ちているのだ。

「何か食べたいものがあれば運ばせますよ」

「大丈夫。顔を見せてくれてありがとう」

眠りたいのだろうか。やはり頭が痛いのだろうか。母の顔が悪い。

やがて醫者が來て「薬を出しましょう」と言う。母が眠るのを待って部屋を出た。薬はずっと飲んでいるはずだが、母の病狀は悪化する一方だ。

王妃付きの支度専門の侍が追いかけてきた。

「殿下。王妃様は果ならしは食が進まれるようです。廚房に伝えてもよろしいでしょうか。お食事擔當の方に申し上げたのですが、擔當外のことに口を出すなと叱られたものですから」

「ああ、許す。私の命令だと言えばいい」

「ありがとうございます」

自室に戻りながらあの農園のことを考えた。母はあの農園の果を食べたことがあったろうか。あのネクタやポンカ、桑の実を食べさせてやりたいと思った。

(母上との約束を破ることになるが……許してもらおう)

翌朝。

「ギル、あの農園で果を手にれて來ようと思う。母上に食べさせたい」

「……」

ギルが何かを言いたそうに自分を見たまま返事をしない。

「なんだ?」

「私が一人で行った方がよろしいのでは?」

「それは、まあ、そうだが。いや、やはり自分で行く。何もできないならせめて自分で行って果を手にれたいのだ。あそこの果味しいからな」

三年ぶりにマークス王子とギルが農園を訪れたので、り口近くの畑にいたイーサンは驚いていた。

「突然來て悪いな、イーサン」

「いえ……。今日はどのような……」

「果しいんだ。々な種類を」

「では今急いで」

それまでマークス王子の後ろに控えていたギルがヒョイと顔を出した。

「ねえねえイーサン、アレシアちゃんとチャナちゃんは元気?」

「え?はい、元気です。チャナは今、桑の葉を採りに行ってますけどアレシアならそこの小屋に。おーい、アレシア!アレシアったら!」

「いやいや、いいんだ、元気ならばそれで……」

マークス王子が慌てていると近くの小屋の扉が開いて聲が聞こえてきた。

「はーい、なあに?……あっ」

三年ぶりに見るアレシアが出てきて驚いた顔で自分を見ている。

「久しぶりだな、アレシア。突然來てすまない」

アレシアは記憶にある姿よりもずいぶんと背が高くなっていた。茶のふわふわした髪は長くびて背中に垂らしている。顔がスッキリと小さくなって顎が細くなり、目が大きくなったように見える。全の雰囲気がらかくなってすっかり娘らしい。とても綺麗になっていた。

アレシアは金の星が散る青い目を丸くして自分を見ていた。困しているようだ。

「もう來ないと手紙に書いたのに來たのは事があるんだ。母上にどうしてもここの果を食べさせたいんだよ。母上は調子が芳しくなくてね」

アレシアの顔がし曇る。

「そうでしたか。王妃様が」

「果ならどうにか食べられるらしいんだ。僕が知っている限りでここの果が一番旨い。だから買いに來たんだ」

相変わらずストンとした簡素な服を著たアレシアが家にって籠を持ってきた。果樹畑に行きかけてからチラリと考え込むような表で自分を振り返った。

「どうした?」

「いえ、なんでもありません。行って參ります」

急いで果をもいできたらしく息を弾ませたアレシアが籠にポンカやネクタなどをれて戻ってきた。

「なるべく味しそうなのを集めてきました。うちの農園からのお見舞いの品とさせてください」

とアレシアが差し出す。

ギルがお金を払おうとしたがけ取らず、ギルはお禮を言ってそれを抱えて馬の方に向かった。ギルはまるで気を利かせているかのようにそのまま背中を向けて馬をでている。

いつの間にか彼の両親とイーサンの両親がし離れた場所で心配そうにこちらを見ており、自分と目が合うと頭を下げた。それを見たアレシアが彼らの元に駆け寄り、何かを話し合っていたが引き返して來て最初に出てきた小屋にり、また走って戻って來た。

「これは私たち全員からのお見舞いの品です」と言って白い布を手渡してきた。

「急いで使い方を説明します。どうぞしっかり聞いてください」

「殿下、アレシアちゃんが綺麗になってましたね。あれから三年ですから十四歳ですね」

「ああ、そうだな」

「チャナちゃんに會わなくていいんですか?」

「チャナに?なぜだ?」

「あー、なるほど」

「お前、何を言ってるんだ?」

「いえ、なんでもありません」

マークス王子は一人で納得している風のギルを従えて王宮を目指した。

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