《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》32 友人からのお見舞い
本日二回目の更新です。
「マークス。果を持ってきてくれたの?ありがとう」
「さあ母上、しでも口にれてください」
王妃ベルナは上半を起こし、クッションにもたれて差し出された皿を見た。
「味しそうね」
「はい。どれも味しいはずです。お好きなをどうぞ」
大皿の上には食べやすく皮を剝いてカットされた果が何種類も載せられていた。気たっぷりのポンカ、ねっとりした果のネクタ、大粒の完した桑の実、甘酸っぱそうなサンザシや香りの良い青ブドウ。
王妃は「ではポンカを」と言ってマークスが持っている皿からポンカを選んで口にれた。
「ああ、味しい。久しぶりに味しいを食べたような」
しばらくしてから後ろで侍たちがホッとため息をつく。
「どうした。母上はそんなに召し上がれなかったのか?」
「いえ。王妃様は召し上がったあとで、その……」
「吐いてしまうことが増えたのですよ」
「母上……」
「でもこれは不思議と吐き気が起きません。ありがとうマークス」
「このくらいのこと。また持って參りますから」
王妃はひと口ずつ全部の果を食べて満足そうにクッションにもたれた。それを見てマークス王子は皿を侍に渡して「し下がっていてくれ」と人払いをした。
「大切な話ですか?」
「はい。母上、何も聞かずに私に任せていただけますか?」
王妃は優しい顔でうなずいた。それを見たマークスは上著のポケットから折り畳まれた白い布を取り出すと、それを王妃の頭にそっと二回巻きつけた。王妃は何も聞かず、指先で頭に巻かれた布をる。
「ずいぶん上等な絹ね」
「快癒の願いが込められた布です。私の友人が贈ってくれました」
「まあ。お前にそんな友人がいたのですね」
王妃の顔が嬉しそうに綻《ほころ》ぶ。
「あなたはずいぶん早くから政務に攜わっていたから。友人と言えるのはギルくらいかと思ってたのに。でもギルは友人じゃ……え?あら?」
王妃が大きく目を開けてベッドの隣に座っているマークスの腕をギュッとつかんだ。
「どうされました?どこか痛いのですか?母上!」
「消えたわ。消えたのよ。長いこと頭の中に居座っていた頭痛が。すっかり消えたのよ!吐き気も綺麗さっぱりだわ。どういうこと?マークス、あなた一何をしたの?」
布を巻いた當人のマークス王子がしばらく目をパチクリしていたが、やがてゆっくり笑い出した。
「これはこれは……」
「マークス?」
「母上、この布のことは誰にも言わないでいただけますか。父上にも侍たちにも弟たちにもです。友人と約束したんです。この布のことは誰にも言わないと。それにしても僕もここまでとは思いませんでした」
王妃が恐る恐る絹布を頭から取り外してしばらく様子をうかがっている。
「布を外しても痛みも吐き気も戻らないみたい。奇跡よ。マークス、どういうことか説明してはくれないの?」
「僕も詳しいことは何も知らないんです。痛みが戻らないなら外しておきますね。それを巻いたままでは侍たちが怪しみます。痛みが戻るようならまた巻いてみましょう」
マークスはそう言って絹布を畳んでポケットにしまい込んだ。
「ああ、マークス。痛みがないってこんなに素晴らしいことだったのね。頭痛が消えたら逆に今までどれだけ苦痛だったか、思い知らされるわ」
「母上。本當に良かった」
マークスが王妃の手を握って微笑む。母の顔がずいぶん良くなっている。
「マークス」
「はい、母上」
「私、とんでもなくおなかが空いているわ。飲みと食べを運ばせて。とにかくたくさん食べたいの。も乾いて死にそうよ」
マークスは笑い出し、笑いながら涙ぐんだ。
「ええ、母上。すぐに運ばせましょう。おなかが驚かないようにらかいものからにしましょうか」
痩せて骨張っている母が笑っている。こんな笑顔を見るのはいつぶりか。マークスは廊下に控えていた侍たちに
「母上の食が戻られた。飲みと食べをしずつ々運ぶように。母上の好を選んで。いや、そこは料理長に任せる」
「はいっ!」
侍が二人、できる限りの速さで歩いて廊下を離れて行く。おそらく一人は廚房に、一人は國王陛下に報告に行くのだろう。
「転ぶなよ」
そう言いながら目から溢れた涙を指先で拭う。
「アレシア。君はいったい何者なんだ」
王妃は運ばれてきた消化の良さそうな食事をモリモリと食べている。駆けつけた國王がオロオロしながら妻の食事の様子を眺めている。
「ベルナや。急にそんなに食べて大丈夫なのか?食べ過ぎじゃないのか?吐き気はしないのか?」
「ふふ。陛下、これでもまだ足りないくらいですわ。でも、今はこれくらいで我慢しなくてはなりませんね」
最後に溫かくて甘いココナツミルクを飲んで、王妃は「食べたら眠くなりました」と言ってパタリと寢てしまった。
「マークス、何があった?」
「いえ、私にもさっぱり。母上と二人でお話していたら急に痛みが消えたようですよ」
「そんなことがあるだろうか」
「あるんですね。私も驚きました」
その頃。廚房では全ての片付けが終わり火も落としたところでまた料理を出すよう命じられた料理長のセネシュが、完食されて戻された皿を見て侍を質問攻めにしていた。
「間違いなく王妃様が召し上がられたんだな?殿下じゃなくて。全部か?全部王妃様が?え?あんたは見てない?なんだよ。どっちなんだよ」
「王妃様が味しかったと。明日の朝食が楽しみねっておっしゃってました」
「はああああ。良かった。良かったなあ、おい!」
日に日に食が細くなっていく王妃殿下が食事を楽しみにしてくださるとは。セネシュは久し振りに晴れ晴れとした顔で笑い出した。
翌日、マークスはギルに手紙を屆けさせた。
「とても謝している。お禮をしたい。なんでもしいを用意する。そしてあの布のことを知りたい」と言う容の手紙だったが、ギルはアレシアに丁重にお禮を辭退されたと言って帰ってきた。
「これを殿下に」と手紙を渡された。アレシアからだ。急いで手紙を開いた。
「王妃殿下のお役に立てたのなら私はそれで十分です。このまま布のことはにしてください。私のみはそれだけです」
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