《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》43 ヘルードの見學

マークスたちに囲まれるようにしてヘルードの一行は王宮に戻ってきた。

「では殿下、申請をいたしますので明日朝には見學に參ります」

ヘルードは薄ら笑いをしながらそう言うと自分たちにあてがわれた部屋へと立ち去った。それを確認してからマークスは両親と話し合った。

「マークス、よくやった。下手すれば強引に中にられるところだった」

「油斷しました。農園に護衛を付けてはいたものの、こうも早く強引にくとは」

「陛下、アレシアだけでなくあの農園の者たちは皆が私の命の恩人です。どうか彼らをお守りくださいますようお願いいたします」

「ベルナ、お前の恩人は私にとっても恩人だ。いや、この國の恩人とも言えよう。あのような力があるのであれば尚更だ。全力で彼らを守らねばならん」

相談の結果、ヘルードの見學には護衛を十名引き連れたマークスが付き添うことになった。國王イザヤルは軍務大臣と宰相にアレシアの力を知らせて今よりも強固に守ることを提案したが、マークスは「それは今しばらく待ってください」と頭を下げた。

マークスはアレシアの力を知った宰相や各大臣たちがどう考えどうくかの見通しに不安があった。そしてき出した彼らを自分の力で止めることができるか、まだ完全な自信が無かった。アレシアの力は途方もない魅力がある。この國の実力者たちが我も我もとアレシアの力を求めてき出した場合に備えて彼らを制する策を練っておく必要がある。今知らせるのはまだ早い。

命に関わる病気や怪我を消せる布、それは夢のような代だ。誰だって命は惜しいのだ。特に金と権力を手にした者たちが唯一自由にならないのが病気や壽命なのだから。

その日のうちにマークスは農園に向かい、明日朝にヘルード一行が農園の『見學』に訪れることを知らせた。アレシアの父セリオは表は暗いながらも気丈に対応した。

「承知いたしました。では明日はハキームとチャナには休むよう伝えましょう」

「そうしてくれるとこちらも助かる。それでアレシア、ヘルードはおそらく雨の原因がアレシアかイーサンのどちらに原因があるかはわかっていないと思う。それについてはなにか意見があるか?」

アレシアはハッとした顔になり、イーサンを見た。イーサンも自分が狙われることを想定してなかったらしく驚いた顔になった。

「大人は除外されていると考えるべきなのですね?」

「ああ。彼が我が國に來てすぐにこの農園を訪れたのは、おそらくファリル王國の手の者から報告が行っているのだろう。あの雨がここ數年のものであることは知られているはずだ」

「どうしても雨のことを答えねばならない場合は、正直に私が原因だと申し上げましょう。イーサンを巻き込むわけにはいきませんから」

相変わらずアレシアは落ち著いている。マークスはその態度にかえって不安を覚えた。

「アレシア。僕が護衛とともに立ち會う。油斷はだがあまり悲観しないでほしい」

「はい、殿下。よろしくお願いいたします。それと、殿下にお話ししておくことがあります」

アレシアはある考えを話した。マークスはアレシアの考えを聞いて「うん。それがいい。必ずそうしてくれ」と同意した。

翌日の午前中。

農園の大人たちは仕事を休んでヘルード一行を出迎えた。

絹布の織り機、織った布、蠶は昨夜のうちにかにイゼベルの家に隠された。

「やあ、しばらくお邪魔するよ。なんだか隨分と大仰な警護も一緒だけどね」

ヘルードは華やかな容貌に想の良い笑顔を浮かべて農園を訪問した。

畏《かしこま》って出迎えた農園の者たちはアレシアを除いて皆一様に表い。アレシアだけは穏やかな笑みを浮かべて大人たちの後ろに控えていた。

「そこのお嬢さんと坊やに農園の中を案してもらおうかな」

「はい、殿下」

アレシアは丁重に返事をし、イーサンは無言でアレシアに並んだ。

ヘルードは終始上機嫌でアレシアとイーサンに質問しながら農園を見て回った。その後ろにはヘルードの護衛とマークス、及びマークスの護衛が付き従っていた。

ヘルードは農園の野菜や果に目を見張り、「これはまた素晴らしい出來だね」と本気で稱賛していたが、手にとって食べようとはしなかった。マークスとアレシアは顔には出さないものの安堵した。雨の効能はまだ知られていないということだろう、と。

ヘルードの見學は一時間もせずに終わった。

再びアレシアたちの家の前に帰り著くという段になって、ヘルードは突然護衛に離れるように命じ、そこで口調が一変した。ラミンブ王國側の護衛も仕方なく下がったが、マークスだけはその場に殘った。

「で?雨を降らせているのは君たちのうちどっちだ?」

突然の問いかけにイーサンが固まった。ちらりとアレシアの様子を窺(うかが)ってしまい、しまったとばかりに下を向く。それに対してアレシアは笑顔を崩さず「何のことでしょう?」という顔をした。それをじっと見ていたヘルードは鷹揚に微笑んだ。

「なるほど君か。君が雨を降らせているんだろう?隠したって無駄だよ。我が國は水に不自由はないけれど、君はなかなか可いし僕のそばに置いておくのもいいかもね」

ヘルードはそう言いながらアレシアの顎に指先をかけて顔を上に向けさせた。

アレシアは浮かべていた笑顔を消して無表にヘルードを見つめ返した。

「気が強そうなのも気にった」

そう言ってアレシアの腕を摑んで強引に引き寄せた。

マークスが「やめろ!」と語気荒く割り込んだのとヘルードを挾んだマークスの反対側からイーサンが止めようとして近寄ったのは同時だった。マークスが止めることができない位置でヘルードがイーサンのを靴の底で強く蹴った。イーサンには視線も向けなかった。

「ガハッ!」

大柄なヘルードにを蹴り飛ばされたイーサンはり口近くに置いてあった木製のベンチの端に背中から激しく叩きつけられた。

「イーサン!いやぁぁぁっ!」

「貴様っ!」

アレシアの悲鳴とマークスの怒號が響いた。

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