《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》67 二つの人生
広大な小麥畑を眺めながら、國王のマークスと王妃のアレシアが寄り添うように立っている。
「これからはもう飢える者はいなくなるはずだ」
「やっとここまで來ましたね」
「アレシアがいてくれたおかげだ」
「あなたの努力があったからだわ」
すぐ近くに立っているのは十歳のナイジェルとエミーリアだ。二人は仲の良い両親をニコニコと眺めている。子供たちは母が広大な畑に雨を降らせるところを今か今かと待っていた。
「雨よ、降れ」
アレシアが両腕を空に向かってばして唱えると、銀にる優しい雨が乾燥した麥畑に降り注いだ。
「わあ!あんな遠くまで!すごいよお母様」
「ナイジェル、魔法を使っている時に話しかけちゃだめよ」
「エミーリアは口うるさいんだよ」
二人はまだ畑に雨を降らせることを許されていなかった。ドバンと塊で水を落としてしまっては作が臺無しになるからだ。
「ナイジェル、エミーリア、あなたたちもやってみる?最近は王宮の庭では功しているものね」
「いいのですか?!」
最初にエミーリアが両腕を上げて目を閉じる。呪文は唱えない。アレシアの雨にそっくりな優しい雨が降り出した。範囲はアレシアよりだいぶ狹い。しばらくしてナイジェルと代した。
同じく無言で空に腕をばすナイジェルはエミーリアよりかなり広い範囲に雨を降らせることができた。エミーリアがし悔しそうだ。しばらくしてアレシアがナイジェルに聲をかけた。
「はい、その辺でいいわ。畑は十分潤ったみたい。二人ともありがとう。さあ帰りましょう」
「はーい。お母様、帰りの馬車であのお話をして?隠し部屋を見つけたときのお話」
「エミーリアはその話が大好きだな。もう何度も聞かせてもらっただろう。モーシェ叔父上が頭を突っ込んでお母様を慌てさせるところが好きなんだよな」
「ちょっと!それを今言わないでよ」
周りで護衛している兵士たちが笑いたいのを我慢して聞いている。
マークスとアレシアは手をつないで馬車に乗った。
アレシアが馬車の窓から外を見る。
國の四分の三が乾燥地帯だった貧しい國ラミンブは、十三年かけてかな國へと変貌を遂げつつある。水路と井戸が整備され、もう飲み水に苦労することはない。以前のイーサンのように水がなくて死にかける子供はいないはずだ。
嬉しい驚きもある。
アレシアが王妃になったあたりからぽつりぽつりと魔法使いの登録があったのだ。
登録に來た者の親たちはアレシアが王家にも國民にもけれられて大切にされているのを見て名乗り出る勇気を得たと言う。事は上手く回り始めるとどんどんいい方向に進むものだとマークスとアレシアは喜んだ。
「いずれあなたがナイジェルに王位を譲ったら旅をして回りたいわ」
「ああ、そうしよう」
マークスは即答した。
「國の隅々まで、いいえ、外國の景も見て回りたい」
「それが君の願いなら必ず葉えよう」
「ファリルが大人しいままだといいけれど」
「第一王子が國王になってからは愚かなことはしてきていない。さすがに周辺國全てを敵に回すような愚かなことはしないよ。私はあの時の言葉に噓はないと思ったよ」
ファリル王國では八年前に前國王が病沒し、第一王子だったファサールが王になった。
ファサール王は直々にラミンブ王國を訪れて頭を下げて絹布を売ってくれと頼んできた。すでに絹布のことは知っていた。まだ二歳の一番下の息子が重病だという。マークスは人払いをしてアレシアと三人で長いこと話し合ってから絹布を渡した。それ以來ラミンブではファリルによる事件はひとつも起きていない。
ヘルード第四王子の現況は教えてもらえなかったが「アレにはもう決して迷をかけさせない」と約束してくれた。
「お母様、隠し部屋のお話をして!」
「はいはい、そうだったわね」
自分が今世では人に守られされていることを謝しながら暮らしている。
マークス國王は賑やかな馬車の中で楽しそうに聞き役を務めていた。話を聞き終えたナイジェルが質問してきた。
「お母様、そういえばお母様はどうやってお父様と出會ったの?」
「ああ、まだ話したことがなかったわね。ギルがまだ王太子殿下付きの従者で我が家に來てね、たまたまプティユを作っていた時だったからご馳走したんだけど」
「アレシア、昔の話は恥ずかしいんだが」
「あら。兵士のアルさんの話もなかなか面白いのに」
「アルさんて誰?」
「アレシア、その話はもういいだろう」
王家の四人を乗せた馬車は今日は離宮に帰る。國の管理する桑畑は毎年しずつ増えていた。
アレシアが降らせる雨の範囲は二十歳になったあたりで広がるのが止まった。最終的な雨の範囲は直徑四千メートルほどだ。
「私、王宮よりも離宮が好き。農園の食事が味しいんだもの。おばあさまが作ってくれるサンザシ飴、毎日でも食べたいわ」
「エミーリアはサンザシ飴が大好きよね」
「僕は鶏を甘辛く焼いたのが好きだな」
マークスとアレシアは向かいの席ではしゃぐ子供たちを笑顔で眺めていた。やがて子供たちがはしゃぎ疲れたらしく互いの頭をくっつけ合って眠ってしまった。すぐに馬車の外に優しい雨が降り出した。
この二人が雨を降らせるならばこの國はあと數十年は潤う。その間に國が魔法使い無しでもやって行けるようにするのはこの子達の課題になるだろう。
マークスがアレシアの肩を抱きアレシアはマークスの手に自分の手を重ねた。
「この國が長する足掛かりはアレシア、君が作った。子供たちの代にはもっと繁栄するだろう」
「この國の歴史の一部になれたことが誇らしいわ。いろいろと厄介だった私を選んでくれたあなたのおかげです」
優しい顔でそれを聞いていたマークスが真面目な顔になる。
「アレシア、ずっと聞きたかったことが三つあるんだが」
「三つも?なにかしら」
「君、エイタナの墓に毎年命日になると花を屆けさせてるそうだね。時には墓參りもしていると聞いているよ?ずっと不思議に思ってたんだけど、君はエイタナとはそれほどの知り合いじゃなかっただろう?」
アレシアがピクリといた。
「それはいつかお話しするかもしれないし、しないかもしれません。それよりあなた、それを知っていてずっと私に尋ねなかったの?」
マークスがまた優しい顔になる。
「アレシアが自分から話してくれるのを待ってたんだけどね」
「十年以上も?気が長いというか我慢強いというか。で、二つ目は?」
「君は僕が知り合ったころからずっと人のために役立とうとしてた」
「そうね」
「なぜ?」
アレシアは隣に座って自分を覗き込んでいるマークスを見上げた。
「それはね、最初の質問の答えと重なるのよ」
「エイタナと関係あるのか?」
「エイタナそのものではないのですが」
「三つ目は隠し部屋だ。君、本當はあの存在を知っていたんじゃないのか?」
「うふふ」
「まさかこれもエイタナと関係があるのか?」
「エイタナとは直接関係はありません」
「まだ教える気はないのか?」
「ええ」
憎しみと恨みで幕を閉じた人生と、に満ちあふれた二つの人生のことをどう説明したものか。
「いつかお話しできる日が來るかもしれないけれど、もしかしたらお墓まで抱えて持っていくかもしれないの」
「……そうか」
「こんな答えで許していただけるの?」
「もちろんさ。嫌がる君を問い詰めるようなことを私がするわけがないだろう。私はプティユを食べたあの日からずっと君に……いや、このへんでやめておこう」
し照れたような顔のマークスにもう一度肩を抱き寄せられ、アレシアはマークスの肩に頭をのせて目を閉じた。
「私をしてくれてありがとう」
つぶやいた聲は小さかったが、マークスの耳に屆いたようだった。肩に回された腕がギュッとアレシアを引き寄せた。
あらすじの欄にも書きましたが、このお話にイラストをつけていただいて本になることが決まりました。コミカライズも決まったそうです。
お読みくださり応援してくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。
++++++++++++++++++
最後まで読んでくださってありがとうございました。たくさんの方にブックマークや評価を頂いたことがとてもとても勵みになりました。
また、誤字報告は毎回「今度こそあの赤い字が表示されないように!」と思いながら書いていましたが、記録は取っていないものの印象としては5勝61敗くらいだったでしょうか(T ^ T) 進します。
次の作品も近いうちに公開できればと思っております。その際はまたお付き合いいただけると幸いです。
守雨
【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺愛が待っていました
★ベリーズファンタジーから発売中です!★ 伯爵令嬢ロザリア・スレイドは天才魔道具開発者として、王太子であるウィルバートの婚約者に抜擢された。 しかし初対面から「地味で華がない」と冷たくあしらわれ、男爵令嬢のボニータを戀人として扱うようになってしまう。 それでも婚約は解消されることはなく結婚したが、式の當日にボニータを愛妾として召し上げて初夜なのに放置された名ばかりの王太子妃となった。 結婚して六年目の嬉しくもない記念日。 愛妾が懐妊したから離縁だと言われ、王城からも追い出されてしまう。 ショックは受けたが新天地で一人生きていくことにしたロザリア。 そんなロザリアについてきたのは、ずっとそばで支え続けてくれた専屬執事のアレスだ。 アレスから熱烈な愛の告白を受けるもついていけないロザリアは、結婚してもいいと思ったらキスで返事すると約束させられてしまう。しかも、このアレスが実は竜人國の王子だった。 そこから始まるアレスの溺愛に、ロザリアは翻弄されまくるのだった。 一方、ロザリアを手放したウィルバートたちは魔道具研究所の運営がうまくいかなくなる。また政務が追いつかないのに邪魔をするボニータから気持ちが離れつつあった。 深く深く愛される事を知って、艶やかに咲き誇る——誠実で真面目すぎる女性の物語。 ※離縁されるのは5話、溺愛甘々は9話あたりから始まります。 ※妊娠を扱ったり、たまにピンクな空気が漂うのでR15にしています。 ※カクヨム、アルファポリスにも投稿しています。 ※書籍化に伴いタイトル変更しました 【舊タイトル】愛されない妃〜愛妾が懐妊したと離縁されましたが、ずっと寄り添ってくれた専屬執事に熱烈に求婚されて気がついたら幸せでした〜 ★皆さまの応援のおかげで↓のような結果が殘せました。本當にありがとうございます(*´ー`*人) 5/5 日間ジャンル別ランキング9位 5/5 日間総合ランキング13位
8 96テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記
2021.05.17より、しばらく月・水・金の週三回更新となります。ごめんなさい。 基本一人プレイ用のVR型RPGを始めることになった女の子のお話です。 相変わらずストーリー重視ではありますが、よりゲームらしい部分も表現できればと考えております。 他作品に出演しているキャラと同じ名前のキャラクターが登場しますが、作品自體は獨立していますのでお気軽にお楽しみください。 モチベーションアップのためにも感想や評価などを頂けると嬉しいです。
8 185視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所
『視えざるもの』が視えることで悩んでいた主人公がその命を斷とうとした時、一人の男が聲を掛けた。 「いらないならください、命」 やたら綺麗な顔をした男だけれどマイペースで生活力なしのど天然。傍にはいつも甘い同じお菓子。そんな変な男についてたどり著いたのが、心霊調査事務所だった。 こちらはエブリスタ、アルファポリスにも掲載しております。
8 137BioGraphyOnline
BioGraphyOnline、世界初のVRオンラインゲーム 俺こと青葉大和(あおばひろかず)はゲーム大好きな普通の高校生、ゲーム好きの俺が食いつかないはずがなく発売日當日にスタートダッシュを決め、今している作業は… ゲーム畫面の真っ白な空間でひたすら半透明のウィンドウのYESを押す、サーバーが混雑中です、YESサーバーが混雑中ですの繰り返し中である。 「いつになったらできるんだよぉ!」 俺の聲が白い空間に虛しくこだまする。 BGOの世界を強くもなく弱くもない冒険者アズ 現実の世界で巻き起こるハプニング等お構いなし! 小さくなったり料理店を営んだり日々を淡々と過ごす物語です 9/27 ココナラよりぷあら様に依頼して表紙を書いていただきました! 2018/12/24におまけ回と共に新タイトルで続きを連載再開します! ※12/1からに変更致します!
8 170名無しの英雄
主人公アークと幼馴染のランはある日、町が盜賊によって滅ぼされてしまう。ランは盜賊に連れ去られるが、アークは無事に王國騎士団長に保護される。しかし… この作品は筆者の処女作です。生暖かい目で見てやって下さい(✿。◡ ◡。) *誤字、脫字がありましたら教えていただけると幸いです。 毎日0時に更新しています
8 87世界にたった一人だけの職業
クラスでもあまり馴染むことができず、友達にも恵まれず高校生活を送っていた高校二年生の主人公の柏沢蓮斗。そんなある日、クラスでいつも通り過ごしていると先生の魔法詠唱によって足元に魔法陣が現れた。魔法陣に吸い込まれた後、目を覚ましたら異世界の王宮の中にいた。皆それぞれ職業に目覚めており、主人公もまた例外ではなかった。だが、主人公の職業はー 異世界の複雑な事情に巻き込まれていく ストーリーです。 新作 「スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、超萬能スキルでした~」も興味のある方は見に來てください。 お気に入り1000突破! ありがとうございます!!
8 134