《【書籍化・コミカライズ】手札が多めのビクトリア〜元工作員は人生をやり直し中〜》30 酒場の長居と國王の調査
ノンナは今夜母屋の侍スーザンさんの部屋にお泊まりだ。今日はゆっくり飲める。
「やあ、いらっしゃい」
「いつもの蒸留酒を」
「はいよ」
琥珀の強い酒を運んだザハーロさんが私の前に座る。
「客席に座るなんて珍しいですね」
「心配なんだよ。ヘクターの居場所を聞かれた時からずっと」
「私の元はヘクターには知られてないから安心して」
「あんまり無茶はしないでくれよ。あんたが來なくなったら寂しいからな」
黒い目が本気で心配してくれているのを見て頭を下げた。
「ありがとうザハーロさん」
今夜はザハーロさんの店で初めての長居だ。
たまたま今日は客がないからカウンターに移して二人で當たり障りのない話をしながら飲んでいる。
カウンターの中に立っているザハーロさんが自分のグラスを眺めたまま小聲で話しかけてきた。
「ヘクターが赤のを探してる。赤、茶の目、口元にホクロ、細の」
「へえ」
「気をつけろ」
「なんのことかしら」
ザハーロさんは笑って自分のグラスに酒を注ぎ足した。
今夜は初めて食べを頼んでみた。
「なにか食べるもの、ありますか」
「ゆで豚とキュウリのサンドイッチとチーズをれた野菜のスープができるけど、どうする?」
「うわ、悩んじゃう。うーん……じゃあ両方で」
「はいよ」
手早く作って出してくれた軽食はどちらも味しかった。
「料理も得意なんてすごいですね」
「母親がいない家で育ったからな。簡単なものならなんでも作ってた。買うより安いだろ」
「そういうことでしたか」
私がそれだけ言ってグラスを傾けたら納得いかないような顔をされた。
「普通はここであんたが自分の生い立ちを語る番だろう」
「子供の頃から親元を離れて働いてきたから家のことはあんまり話すことがないの」
「……そうか」
私が食べ始めたら他に四人いた客たちが皆同じものを注文した。お酒を飲んでいると小腹が空く。人のを見るとつい食べたくなるのは皆同じらしい。
やがて他の客たちは帰り、客は私だけになった。
「今度ヘクターに頼み事があったら俺を介した方がいい。『あんなことができるだと知っていたら絶対に仲間に引きれたのに』って探してるそうだ」
「へえ。そうなんですか」
この人は死刑囚を獄させたのが私だと確信している。私がヘクターの居場所を聞いてから獄が起きたんだから當然だが。
「私のことを売らないの?」
「俺が売らないと思ってるからまた來てくれたんだろ?」
「そうね」
本當はし疑ってた。男の友は侮れないから。
さっきいた客たちはその手の人間じゃなかったから今は信用している。今夜の長居はザハーロが信用できる人間か、ヘクターに私を売ってないかを確認する意味もあった。
日付が変わってだいぶ過ぎた時間まで飲んで、帰ろうとしたらザハーロさんが家まで送ると言い出した。
「もう客もいないし、あんた、今夜は結構飲んでるだろう」
「家を知られたくないの」
「なんだよ、まだ信用してくれないのか」
答えるべきかどうか迷ってし歩いてから返事をした。
「ザハーロさんのこと、結構信じてるわ。でも他人を信じ切るとろくなことにならないもの」
「なるほどね。じゃあ、近くまで」
そう言って付かず離れずの距離でザハーロが付いて來る。まあいいか、東區にだって家は數え切れないほどある。會話するでもなく一緒に歩いた。南區と東區の區境(くざかい)でザハーロを振り返る。
「ここまででいいわ」
「ここまでって、東區じゃないか。あんたまさかお貴族様なのか?」
「まさか。じゃ、おやすみなさい」
「ああ、気をつけて帰れ」
塀を乗り越えて無事帰宅し、ろうそくに火を點けた。
床にろうそくと顔を近づけて足跡を確認する。ベビーパウダーは踏まれていない。異常なし。もはやこれは安心して眠るための儀式みたいなものだ。
私はドアに鍵をかけて夜著に著替え、顔を洗ってベッドにった。
あの兄妹は元気にやってるだろうか。
もうここから先は私は関われないし関わらない。
國王の自室。
「陛下、夜遅くに失禮いたします。ランダル王國の者から先程報告が屆きました」
「どうだった?」
「ビクトリア・セラーズは実在の人で、年齢も外見の特徴もほぼ一致しました」
「ほぼ?」
報告に來た宰相が資料に目を落とす。
「ごく普通の平民のでした。父親は大工、母親は市場の売り子。が、十七歳で行方不明になり、十年間は行方不明でした。その間に長がしびたようです。両親は娘の失蹤後に離婚。両親は現在、所在不明です。なくとも出國はしていません。本人は記録通りにランダル王國から我が國に國しています」
「そうか。ご苦労だった」
國王がチリンとベルを鳴らすと侍がって來た。
「酒を」
侍は聲を出さずに頭を下げると手早くワインを注いで運び、瓶をグラスの隣に置くとまた隣室に消えた。
「そうか。実在していたか。十年間何をしていたのかは気になるところだが……」
自分が知っている限り、工作員や暗殺者に仕立てるには十七歳まで一般市民として育ってしまってからでは遅い。
が長しきる前に訓練しておかなければ厳しいのだそうだ。特には手遅れだろう。神面に関しても、男ともに小さい頃から組織と國家に忠誠を誓って命をかけることも躊躇(ためら)わないように育てないと、仕事を重ねるうちに神を病んで使いにならなくなる者が多いらしい。
「と言うことはジェフリーの惚れたは白か?まずは良かった」
翌朝、國王は第二王子を呼び出した。
「怪我の合はどうだ?」
「もうほとんど痛みもありません。ご心配をおかけしました」
「クラウディアが心配していた。あまり母親(あれ)に心配をかけるな」
「はい、父上。そういえばジェフリーが夜會に連れてきたの元はもう調べたのですか?」
國王がまじまじと第二王子を見た。息子には知らせてない。どこからかれたのだろうかと疑う。
「なぜそんなことを聞く?」
「嫌いのジェフリーが惚れたですから。どんな人なのかなと気になっただけですが」
「調べさせた。問題ない。ごく普通のランダル王國民だ」
「そうですか。わかりました。失禮いたします」
「セドリック」
「はい」
「ジェフリーのことはコンラッドが気にかけている。お前は余計なことはするな」
「はい、父上」
セドリック第二王子は靜かに父の私室を出た。そしてつぶやく。
「ごく普通?あれがごく普通とは父上の調査員は當てにならないんだな」
考え事をしたい時の常でセドリックは庭の目立たない場所にあるベンチに腰掛けた。
セドリックは運が得意で小さい頃から剣の腕も馬の扱いもも褒められ続けて育った。自分が王子であることを割り引いても指導者が全くの噓でお世辭を言っていたとは思えなかった。
相手が王子でも容赦しない厳しい指導者もいた。ジェフリーがいい例だ。そして彼にも褒められていた。
だから自分はそこそこ強いと思っていた。それがあろうことか二十代後半の華奢なに手も足も出なかった。あの日は人生で初めてというくらいに大きな衝撃をけた。
一度きちんと謝罪をしてから彼にの指導を頼みたいと思う。思うのだが。
(ジェフリーがうんと言わないか……。兄上が彼に尾行を付けた時もジェフリーは相當腹を立てていたからな。彼があそこまで強な言いをすることに兄上も驚いていた。やはりここはきちんと……)
「うん。謝罪はすべきだろう。あれは確かに僕が悪かった。だからと興味本位で甘く考えてしまった。まずはジェフリーに謝罪に行くことを伝えよう」
しかしセドリック第二王子はこの後、ジェフリー・アッシャーに氷のような眼差しで見下ろされ、
「殿下がなさったことは存じておりましたよ。殿下、私の大切な人に関わるのはいい加減やめていただけませんか。殿下の謝罪は私から伝えておきます。ああ、そうだ。今日は私が本腰をれて剣の指導をいたしましょう。さあ、遠慮はいりません。今からとことんお相手をさせていただきます」
と言われる羽目になった。
セドリックはその日、倒れ込んでも「まだまだ!」「もう一丁!」「そんなものですか!」と言われ続け、もう立ち上がれなくなるまで剣の指導をけた。
最後は模擬剣を合わせた狀態で後ろに押し飛ばされ、鍛錬場の地面に突っ伏した。
口にった砂をペッと吐き出したセドリックは
「やっぱりジェフに言うんじゃなかった」
とつぶやいてゴロリと仰向けになり、目を閉じた。
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