放課後になると、俺は峰、桐葉と一緒に総務省へテレポートしてから、海へ向かった。

俺の監視役なので、桐葉も峰の仕事容は知っているらしく、問題はない。

「次は誰を送るの？」

総務省の講堂に戻ると、桐葉が尋ねてくる。

「警察班だよ。探知能力者、念寫能力者、サイコメトリー能力者を各地の警察署に送り屆けるんだよ」

「あ、奧井くん、わたしたちいいかな？」

生徒たちの中から舞たちが進み出てくる。

舞の左右に立っているのは、黒髪をツーサイドアップにした、小柄でくるしい、山見麻彌（やまみまや）と、青みがかった髪をうしろでシニヨンにまとめた長のクール人、有馬真理（ありままりあ）だ。

山見は探知能力者で、有馬は念寫能力者だ。

彼たち三人の手にかかれば、どんな難事件でも赤子の手をひねるように解けてしまう。

「あれ？　そっちの綺麗な人は？」

「こいつが早百合の部長の言っていた、俺の護衛という名の監視役だ」

「え！？　の子なの！？」

「俺もびっくりだよ」

「ボク以外はみんな、政治家の警護任務を希したからね」

「人気ねぇなぁ俺」

そりゃまぁ、どうせ仕事をするなら、できるだけクラスメイトにマウントの取れる相手のほうがいいだろうさ。

同じ能力者の護衛なんて、學校で自慢にもならない。

「ん？　キミはボクじゃないほうが良かった？」

「いや、お前は悪い奴じゃないみたいだし、むしろホッとしているよ」

子に張り付かれるのは居心地が悪いけど、グラサンスキンヘッドのマッチョ軍人に監視されるよりは遙かにマシだ。

「ただ、からかわれるのは好きじゃないから、あまり悪ふざけはするなよ」

「ふ～ん、たとえばぁ？」

「ちょっ、顔近いから」

「キミは顔が赤いよ？」

まさしくからかうような聲音で、桐葉は距離を詰めてくる。

彼の満すぎるが、俺の板にれて、し潰れた。

俺が視線を落としてその事実を目視して息を詰まらせると、橫やりがってきた。

「それ以上、奧井さんに近づいてはいけません。彼は困っています」

聲をあげたのは、クール人の有馬真理だった。

古來から日本人の理想と言われる、濡れ羽と呼ばれる青みがかった髪をアニメのヒロインがよくやるシニヨンヘアーにまとめたクールビューティーで、その高貴な品格に溢れた大人びた貌は、桐葉にも負けていない。

総務省に集まった男子たちの噂にも、よくのぼる。

――いいぞ有馬。そのまま大人の見識でこの小悪魔を論破してくれ。

有馬は冷靜に、けれど強い意志のこもった聲で、教え諭すように語った。

「見たところ、貴は大変しく、そしてかなをお持ちです」

――うんうん……うん？

「そんな貴が迫れば、今年、１６歳を迎え旺盛であろう奧井さんは脳の視床下部を刺激され、が増大して理を司る前頭葉の働きが鈍り、若き衝由來の醜態を曬してしまうかもしれません。だから離れてください。ですよね、奧井さん」

真顔で俺に振り向きながら、親指を立ててきた。

俺は失のあまり、大きく肩を落とした。

――お前その顔でポンコツ系だったのかよ？

「なら、キミも育雄に近寄らない方がいいんじゃない？」

やや挑戦的な口調の桐葉に、有馬は首を橫に振った。

「いえ、私のように無想なが男の興味を引くはずがありません。男からされるのは、貴のように笑顔の似合うかと」

「あはは、そうやって褒められたのは初めてだよ。キミいい人だね。育雄と同じ匂いがするよ」

――え？　俺がこのポンコツと同類なの？

「奧井さんのような人厚い方と比較され、嬉しいです」

――それはイジられ役としての人か？

「へぇ、やっぱり育雄ってみんなから信頼されているんだ」

――そのみんなってどのみんな？　こういう時のみんなの意味を問いたい。

「はい、いつも奧井さんは素晴らしい人だと話しています、主に舞さんが」

「ふゃ！？　真理、それは言っちゃ」

有馬は肩越しに舞を振り返り、親指を立てていた。

――今のは舞の何をフォローしたんだ？

「そして山見は何をしているんだ？」

いつの間にか、小さな山見はちょこちょこと桐葉のの下にもぐりこみ、頭頂部で桐葉の下を持ち上げていた。

「すごく、大きいのです」

目を輝かせて、むふー、と息をついた。

「やめなさい」

テレポートで、山見を俺の橫に強制移させた。

「むぅっ」

「あ、こらやめろ。スネを蹴るな。ピンポイントに同じ場所を狙うな！」

――なんなんだ。能力者って馬鹿しかいないのか？

「キミぃ、ボクのおっぱいっていいからやめてくれるかな？」

山見はゼロ秒で桐葉に跳びついた。

「それでいいのかお前？」

「ボクの仕事はキミを守ることだからね」

――その守り方はどうなんだ？

舞が頭を下げた。

「ごめんなさい、わたしの友達が、えーっと、針霧桐葉さん」

「あれ？　ボク名前言ったっけ？」

「いや、わたしサイコメトリー能力者だから。らなくても見ただけで相手の名前と能力ぐらいはわかるんだ」

舞の言葉を引き金に、桐葉の顔から笑みが消えた。

ガラス細工のように無機質な視線に見下ろされて、舞は委した。

それで、俺はすぐに気づいて謝った。

「悪い桐葉。俺が言っとくべきだった。舞、桐葉は能力なんだよ」

「え！？　そうなの！？　ごめん、できるだけ能力は使わないようにしているんだけど、名前の確認で視界のほうはよく使うからつい」

慌ててまくしたて、舞は謝罪した。

対する桐葉は、酷く冷めきった顔で息をついた。

「まぁいいよ。どうせいつかはバレるんだし。ボクから説明するよ」

亜麻の髪先をいじりながら、桐葉は腕を組み、諦め口調で語り始めた。