《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》エプロンよりワイシャツエプロンのほうがいいか
舞たちをテレポートで送り屆け、途中、何度か峰のところへ寄ってインゴットを倉庫へテレポートさせてから、俺と桐葉が最後に送るのは、今日も詩冴だ。
いつも自分が最後だとわかっている詩冴は、ちょっと遅めの重役出勤で講堂に顔を出した。
「どもどもーっす、イクオちゃん準備はOKっすか?」
「おう、ちょうど詩冴の番だぞ」
「じゃあ早速、ワオッ、誰っすかその亜麻髪」
「ああ、こいつは」
「おーっとみなまで言わないでください。シサエにはわかりますよ。さてはその子がイクオちゃんのボディーガードっすね」
キラリン、と目をらせて、詩冴は両手で拳銃の形を作った。
「正解だよ。針霧桐葉ってんだ。今日からこいつも一緒に周るから、よろしくな」
「な、なんとっ。つまりこの金髪ボディーを毎日拝めるんすね。キリハちゃん、仕事が終わったらオジサンの家で一緒にお風呂にるっす」
「110番すんぞおい」
オヤジ化する詩冴をけん制しながら、俺は軽く安堵していた。
詩冴と桐葉は、どっちも小悪魔系だ。
ダブルで俺をからかってくるのは困るけど、いい友達になれるだろう。
「というわけでよろしくっすキリハちゃん♪」
詩冴が手を出すと、桐葉は言った。
「いいよ、そういうの」
――え?
「ハニー、早くテレポートしようよ。仕事が遅れるよ」
にべもない桐葉の態度に、詩冴は一瞬笑顔を怯ませながら食い下がった。
「冷たくしちゃいやっす。ていうかハニーってなんすか? 二人とも早くもそういう関係っすか?」
「ボクはハニーのことが好きなんだ。ハニーも、ボクをしてくれている」
「イクオちゃんてば手が早いっすね。じゃあシサエとも仲良くするっす♪」
「いらない。友達とか、邪魔なだけだから」
冷え切った言葉に、詩冴は笑顔を強張らせた。
俺は、すぐにフォローにった。
「おいお前何言ってんだよ。さっきはみんなとあんなに……」
――いや……違う。
さっきの、桐葉の言を思い出して、俺はそのことに気が付いた。
有馬には、俺に近づかないほうがいいと言われて対応しただけ。
山見には、俺を蹴るのをやめさせるために聲をかけただけ。
舞には、能力を盜み見たお詫びとして俺をサイコメトリーさせようとしただけ。
騒いでいたのは舞たち三人と俺で、桐葉は、俺からの問いかけにしか答えていなかった。自分の能力を明かした後は、特にだ。
「さ、早く行こうかハニー」
「あ、ああ……詩冴」
「う……うい」
俺が手を差し出すと、詩冴は困り顔で俺の手を握った。
その後の仕事は、粛々と進められた。
◆
「ス、スゲェ……」
その日の夜。
俺は目の前に広がる、高級マンション然としたリビングに、目を丸くしていた。
広さはうちのリビングの四倍。床はフローリングで左半分には象牙の絨毯が敷かれ、そこに足置き付の高級ソファとマーブル柄のテーブルが用意されている。まさか、大理石?
フローリングの方にはカウンター付きの対面キッチンが設えられ、広々とした空間は、家族みんなで調理ができそうだった。
「これが高級僚用の舎? 高級僚ってみんな、こんないい生活してんのか? じゃあ、政治家用の舎はどんだけだよ」
「ボクはハニーと一緒ならどこでもいいけどね。住む場所にこだわりないし。でも」
窓際に立って、眼下に広がる東京の街並みを見下ろしてから、桐葉は亜麻の髪を翻して、くるりと振り返った。
「いけないことしていても、邪魔はらなさそうだね」
口元に指先を當てながら、ニンヤリと口角を上げて、桐葉は妖しく笑った。
「い、いけないことはいけないことなんだからするなよ」
的な妄想を振り払いつつ、俺がけん制すると、桐葉は機嫌よく、弾むように歩きながら、距離を詰めてきた。
「あれれぇ? いいのかなぁ、本當にいいのかなぁ? いけないことしなくても」
「お、俺をそこら辺の男と一緒にするなよ。これでも俺は理で生きてる文明人だぞ。子と同居するからっていやらしい期待なんてするかよ」
桐葉は制服のブレザーをぎ捨て、ワイシャツ姿になった。
大きく膨らむのラインを目で追ってしまい、俺は慌てて顔を背けた。
けど、視線だけは逸らせず、橫目で彼のワイシャツ姿を視界に収めてしまう。
「ふ~ん、文明人、ねぇ……」
半目の可いジト目で上半を橫に倒して、下から俺の顔を覗き込んでくる。
彼の亜麻の髪が幕のように垂れて、揺れる様にも魅力をじて俺の心の琴線は嫌でも揺さぶられた。
すると、彼の顔に笑みが咲いた。
「にひひ、そういうことにしといてあげる♪ ボクはハニーの彼だからね。ハニーのことを信じてあげるよ」
俺が敗北に打ちひしがれるのとは対照的に、桐葉はキッチンへ向かった。
「じゃあ荷はおいおいテレポートさせるとして、まずはご飯だよね。お腹空いたでしょ?」
「まぁな」
時計の針は、夜の十八時を余裕で過ぎている。
「待っててね、今、カレー作ってあげるから」
桐葉はワイシャツの袖をまくりあげると、エプロンを著た。
エプロンならぬワイシャツエプロンは、思いの他ドキドキした。
家庭科の調理実習を彷彿とさせる格好なのに、それを家庭で見ることの特別のせいだろうか。
こう、の奧にぐっとくるものがある。
――いいな。こういうの。
ここへ來る前にスーパーで買った材料をキッチンに広げて、桐葉は手際よく調理の準備を始めていく。
俺が、どうしてこんなラブコメ漫畫みたいな展開になっているのかと言えば、話は一時間前にさかのぼる。
この數日で東京、神奈川に続き、埼玉の外來生も一掃した俺、桐葉、詩冴が峰を伴って総務省へ帰ると、早百合部長が言ったのだ。
「ところで奧井育雄、アフターも貴君の監視が必要なのだが、針霧桐葉を貴君の家に住まわせる事は可能か?」
「どこに可能をじたんですか!?」
「そうか。では針霧桐葉、貴君の家に奧井育雄を住まわせる事は可能か?」
「あの親じゃ無理だよ」
――親と仲悪いのかな?
「そうか、では仕方ない、高級僚専用の舎がある。今日からそこに住むと良い。それなら一日中監視できるだろう?」
「えっ!?」
「ハニーと暮らせるの? やったね♪」
「えぇっ!?」
というわけだ。
「なぁ桐葉、調理、俺も手伝おうか?」
「だーめ。ハニーとの共同作業もいいけど、まずはボクの手料理を味わってしいの。ハニーは好きに待っててね」
家庭的な優しい笑みでそう言われては反論できず、俺は仕方なく、テレポートで自分の家に戻り、荷をまとめることにした。
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