《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》ハチミツの君
その日の夕方。
仕事が終わった俺、桐葉、峰、詩冴、舞、山見、有馬の七人は、スーパーで食材を買うと、詩冴の家に集まった。
詩冴の住む社宅のリビングのテーブルには、以前も作ったハニートーストと、口直しの紅茶が並び、みんなで談笑に花を咲かせていた。
三人寄ればしいとは言うけれど、六人も集まれば騒がしくて當然だ。
もっとも、桐葉と山見はほとんど喋っていないけど。
「それで映畫見ているときにポテチ一袋食べちゃったんすけど、この短時間で200キロカロリー摂取したのかと考えると罪悪が半端ないんすよねぇ」
「あー、それわかるなぁ」
「舞さんもそういう経験あるんだ。まぁ私もだけどね」
詩冴の話に舞が同意して、峰が照れ笑う。
「ご安心を。世の男はが思っているほどガリガリ好きではありません。多おがついても問題ありません。むしろ過度なダイエットでバストが痩せることを危懼すべきです。そうですよね、奧井さんっ」
――なんで俺に振るんだよ!? そしてその達溢れる瞳はなんなんだよ!
有馬はクールで、山見同様に基本が無表なのに、瞳の奧から伝わってくるが半端じゃない。
ちなみに、山見は小さな口で、ハニートーストをリスのようにもちもちと食べ続けている。可い。
「それより詩冴、親に許可とかいいのか?」
「あー、シサエの両親は數日に一回しか帰らないから気にしなくていいっすよ」
この広い社宅に事実上の獨り暮らしか。
中學時代からそんな環境なら、彼のかまってちゃんも、當然かもしれない。
「そういえばキリハちゃんの能力ってなんなんすか? 戦闘系っすよね?」
期待通り、詩冴が遠慮なしに聞いてくる。
「それは……」
桐葉は、逡巡するように、舞たち警察班へ視線を巡らせた。
どうせもうバレているから、と迷っているのかもしれない。
でも、その迷いを踏み潰すように、俺が口火を切った。
「桐葉の能力はハチの力を再現するホーネットだよ。空を飛ぶわ蝋で相手の自由を奪うわ糸でブン回すわ、どこぞのアメコミヒーローかってレベル。坂東っていうアイスキネシストが俺に絡んできたときも、一方的にボコって最後は毒針でKOだよ」
「ハ、ハニー……」
「なのにみんな桐葉のことを毒針が怖いとか言うんだぜ、酷いだろ?」
桐葉が、ぎゅっとくちびるをくしてうつむいた。
すると、五人は同時に行った。
「「「「「あー、あるあるぅ」」」」」
「……え?」
きょとんとする桐葉の前で、有馬はキリっと告げた。
「念寫でカンニングやリベンジポルノをしているとも葉もない噂を立てられました」
続けて、探知能力者の山見がお人形さんのような無表で、聲にトゲを含ませた。
「わたしのあだ名、警察犬でした。失禮です」
「わたしなんてみんなにるなとか言われたよ……」
サイコメトラーの舞が肩を落とすと、
「能力者あるあるだよねぇ」
と峰が同した。
「そうそう。人気者になる人でも、誹謗中傷かやっかみのどっちかは絶対言われるっすよねぇ。シサエも『うるさい』とか『うざい』とか『話が長い』とか言われてクラスの打ち上げやクリスマスパーティーはいつもハブられましたもん!」
「うん、お前のそれは違うんじゃないかな。あと山見はテーブルの下で何しているんだ?」
「え? わっ!」
桐葉が視線を落とすと、山見がテーブルの下から顔を出して、膝の上に座ってきた。
同じ高校一年生なのに、桐葉と山見では、大人と子供ほども格が違う。
山見は、ちょこんと座ると、桐葉の満なに、後頭部を埋めた。
それから、のほほん、とリラックスし始めた。
「桐葉はいい匂いなのです」
「そりゃリアルに蜂の匂いがするからな。髪と目のも、能力の影響らしいぞ」
山見は桐葉の艶々の亜麻髪にれ、手遊びを始めた。
けれど、桐葉はそれを許さなかった。
「勝手に座らないでよ」
そう言って山見を抱き上げ、冷たくも床に下ろした。
山見は、表を変えずに、しょんぼりとしたオーラを出した。用な子だ。
能力のせいで嫌な目に遭ったのは、桐葉だけじゃない。同じ能力者同士なら、そして詩冴たちとなら、桐葉も友達になれると思ったけど、考えが甘かったか。
俺が自分の無力に失すると、桐葉は椅子から立ち上がった。
「ハニー、さっきスーパーでホットケーキの材料買っていたよね?」
「ん、ああ」
「貸してくれる? ボクのハチミツたっぷりケーキ作るからさ。それでみんなに、ボクの蜂と銀蜂養蜂場の蜂、どっちが上かわからせてあげるから」
「キリハちゃん蜂作れるっすか!?」
「當たり前だろ。他にも容にいいローヤルゼリーやプロポリスも作れるよ。ローヤルゼリーは酸味が、プロポリスは大人の苦味と甘味が特徴なんだ。キミたちにもごちそうするよ」
桐葉の申し出に、勢は盛り上がる。
一方で、桐葉は表を作らず、無想に尋ねた。
「ねぇ、キミたち、ハニーの友達なの?」
「當然っす! シサエたちはハニーちゃんのズッ友っすよ!」
「……そう、ならボクの……だね」
。
友達とも、ただの同僚とも取れるグレーゾーンの単語。
けれど、桐葉がみんなのことを仲間だと認識してくれたのは、一歩前進だと思う。
とりあえず、今はこれでいい。自然とそう思えた。
無意識に、俺は口元が緩んでいた。
「ハニー、桐葉におっぱい枕をするようお願いしてしいのです」
――ん?
「ハニーさんはいつも桐葉さんの手料理を食べているのですか?」
――あれ?
「ハニー君、くれぐれも節度を持った同棲生活を心掛けてね」
「いやおい! なんでお前らまでハニー呼びなんだよ!?」
「ほえ? なんでって友達の兄弟をお兄さんとか弟さんとか呼ぶ覚っすかね」
「なんで桐葉基準なんだよ!?」
鋭くツッコむも、詩冴はを反らして回避のジェスチャーを取った。
そしてこの日以降、ハニーは俺のあだ名になった。
山見の犬扱いと、どっちが酷いだろうか。
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