《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》テレポートの可能
その日の仕事終わり。
俺らは総務省の講堂に帰ると、早百合部長に挨拶をしてから帰ろうと思ったのだが、部長は難しい顔をして宙に視線を走らせていた。
おそらく、使用者にのみ見えるAR畫面でメッセージを読んでいるのだろう。
話しかけるのはまずいかとも思ったが、空気を読まない子、詩冴が聲を上げた。
「難しい顔してどうしたんすか早百合ちゃん?」
――早百合ちゃんて、相手は一國の僚なんだけどな……。
本人がフランクなので、俺も割と馴れ馴れしく接してしまうも、ちゃん付けをする勇気はない。
けれど、早百合部長は気にした風もなく、俺らへ向き直った。
「燃料が問題でな。日本の石油の備蓄は7か月分。10月までならもつが、経済産業省の話では11月以降の不安から石油製品の値上がりが始まっているらしい。このままでは、オイルショックの時のように買い占め行為が始まるぞ」
凜々しい貌を悩ませ、早百合部長は腕を組みあごをなでた。
「石油って稲の能力で作れないのか?」
「殘念だけど、私の能力も萬能じゃないわ」
申し訳なさそうに、稲は眉を寄せた。
「私の実力だと、數種類の原子や分子の結合はできないのよ」
「ようするに、金原子だけを集めて結合させて金塊は作れるけど、酸素と水素を結合させて水を作ることはできないってことか?」
「うん、石油の主分は炭素と水素の化合の炭化水素だから。修行不足でごめんね」
「いやいや、稲が謝るならタクシー野郎の俺は焼き土下座だからな。むしろ稲は稼ぎ頭だからな。俺なんて生産ゼロで、あ、なんか自分で言っていて悲しくなってきた」
「こらこらハニー、そんな落ち込まないの、えーっと」
俺がちょっとネガティブになると、桐葉が舞を呼びつけた。
「舞いる? いたらちょっと來てしいんだけど」
職員に果報告をしている生徒たちの中から、舞、それに続く形で麻彌、真理がこちらに歩いてきた。
「どうしたの桐葉さん?」
「ちょっとハニーの能力をサイコメトリーしてくれない? ハニーのテレポートに、他に使い道見つかるかもしれないでしょ」
「それってアポートのこと?」
「アポート?」
舞が首を傾げると、桐葉も一緒に首を傾げた。
「うん、最初にハニーくんをサイコメトリーしたときにわかったんだけど、訓練で能力をばしたら、モノを送るテレポートだけじゃなくて、遠くのモノを呼び寄せるアポートもできるみたいなの」
「何それ凄い。ねぇハニー、それで地下の石油をアポートすればいいんじゃない?」
途端に、全員の表がハッと変わった。
「それは良いな。その方法ならば、採掘設備を建造することなく、石油のみを採掘できる」
早百合部長に、稲が語気を強めて同調した。
「それに、含有量、濃度も関係ないですよね」
「うん? ミイナちゃん、どういうことっすか?」
「あのね、地下資源はみんなそうなんだけど、鉱脈っていうのは資源の塊がプールみたいに溜まっているわけじゃないの。もちろん例外はあるけど、多くは不純が大量に混ざっていて、製作業が必要なの」
「そうなんすか!? 油田て、溫泉みたいに掘り當てたらブシャーっと出るんじゃないすか?」
「あれは石油じゃなくて原油で不純だらけだし、オイルサンドっていう原油を含んだ石の油田もあるの。日本には多くの油田や鉱山があるけど、どれも一トン當たりの資源含有量、つまり濃度が薄くて採算が合わないものばかりなのよ」
「だが、奧井育雄のアポートならば、そうした採算を度外視して、製後の石油のみをアポートできるかもしれないということだ」
「おぉ、ハニーちゃんすごいっす!」
興する詩冴の橫を通り過ぎて、麻彌がちょこちょこ歩み寄って來ると、無言で俺の裾を引っ張った。
「ん、なんだ、しゃがんでしいのか?」
しゃがむと、麻彌は小さな手で、俺の頭をで始めた。
「ハニーさんいいこいいこです」
「いや、まだ何もしていないんだけどな……」
けど、麻彌が可いのでよしとしておく。
でも、もしも本當にそんなことが可能なら、願ってもない。
俺の力で燃料問題を解決できれば、もう、タクシー役なんて悩む必要もないのだから。
「しかし良いのでしょうか」
真理が、冷靜な聲で水を差してくる。
「そんなことをすれば、極論、金庫からお金を盜むこともできてしまいます。過ぎた力は人を疑心暗鬼にさせます。ハニーさんが政府から危険視されたら……」
さっきまで盛り上がっていたみんなの顔が、シンと落ち込んだ。
「おいおい、何暗い顔してんだよ。そんなの舞が毎日仕事上がりに俺をサイコメトリーすればいいだけだろ?」
「えぇっ!?」
舞が、素っ頓狂な聲を出す。
「それでだめなら日に二度でも三度でも、舞が俺に【盜みをしていないか】って條件でサイコメトリーすればいいんだ。ですよね?」
早百合部長に水を向けると、部長も頷いた。
「そうだな。うむ、上層部から何か言われたらそうしよう」
「あ、ああの、それはいくらなんでも、わたしがもしも魔が差しちゃったら……」
「いや、よく考えたら別によくないか? だって個人報も何も、舞は俺の名前も住所も知っているし、銀行の暗証番號がわかってもキャッシュカードがないと意味ねぇし。それ以外にも俺のメールアカウントとかパスワードとか間違って読み込んでも、舞なら悪いことしないだろ?」
「え? 暗証番號? パスワード?」
「え? 魔が差すって、そういうのを読み込んだらどうしようって話だろ?」
舞の顔が、一瞬で耳まで赤くなって目に涙を溜めた。
「~~~~~~~~ッッッ!? そそそそ、そうだよね! 普通そうだよねっ、うん、ごめんね変なこと言っちゃって」
まくしたててから、うつむいて両手を顔に當て、「うあぁ~~、わたしのばかばかばかっ」と言っている。舞は、何を読み込むことを想定していたのだろうか?
舞が麻彌に腰を抱かれ、真理に頭をなでられ元気づけられる中、早百合部長が俺に一歩近づく。
「もし、アポートを使えるなら、石油もだがメタンハイドレートを取り寄せてしいところだな」
「なんですかそれ?」
「大量の天然ガスを含んだ固形質だ。二酸化炭素排出量は石油の半分で環境にも優しい。日本周辺の海に埋蔵されているが、海中が邪魔でまともに掘削できないのだ」
「埋蔵量はどれぐらいなんですか?」
「回収率が3分の1でも120兆円分、國天然ガス消費量100年分の埋蔵量がある。ただし現在の技では年間1兆5000億円分を採掘するのが限界だ」
あまりに壯大な數字に、俺は軽く興した。
「つまり、アポートでこそぎ取り寄せられたら、単純計算でも日本は今後、300年間天然ガスに困らないってことですよね? 300年後には、天然ガスに変わる新エネルギーが使われているかもしれませんけど、輸出してもいいし、何より300年は大丈夫っていう安心は大きいです」
「うむ、國民の不安を解消するにはもってこいだ」
早百合部長が頷くと、桐葉がぐっと握り拳を作って気合いをれる。
「よし、じゃあ早速、今日からハニーの特訓をするよ」
「シサエも協力するっすよー♪」
「特訓って、能力ってどうやってばすんだよ?」
「だから特訓だよハニー。言葉のまま、アポートを使う努力をするのさ」
桐葉は、セクシーな笑みと共に両腕をの下で組むと、ぽよんと上に弾ませた。
「ボクのブラ、しいでしょ?」
「……え? えっ!?」
言葉の意味を理解して、俺は熱く固まった。
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