《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》主人公!

この方が【戦いやすい】だけだ。

「坂東君の目的は? 私をどうしたいの?」

「んなもん決まってんだろ。オレと奧井、どっちが上か、お前の下半に刻み付けてやるんだよ。そんで、お前にはオレをバカにした罪を償わせてやるよ。謝しな。お前みたいに顔とカラダがそそるだけの八方人が氷帝と恐れられたオレの優秀なDNAを貰えるんだ。ありがたい話だろ」

「悪いこと、する気なんだ」

「いやよいやよも好きのうちか? お前だって、本當はオレに襲われるのを期待していたんだろ? 喜べよ、オレのモンスター級のでガン突きして頭ん中パーになるまで種付けしてやるよ」

「う~ん、それはやめたほうがいいと思うなぁ。だって私強いから。たぶん、運部の男子1000人が同時に襲い掛かっても、10秒かからないと思うよ」

脅しではない。

稲は、質を高速で分解し、再構築できる。

地面を鋭利な石の柱に再構築して、地面から突き出させるなど朝飯前だ。

1000人の男子が彼に襲い掛かれば、串刺し死の森ができるだけだ。

「なら教えてやるよ。オレの力はそこら雑魚の10000人分だ!」

剎那、坂東の足元から、氷が地を奔ってきた。

「わおっ」

稲は、軽くジャンプして、それをやり過ごす。スポーツ萬能の彼にとっては、朝飯前だ。

氷はどこまでも広がり、公園中の地面を覆いつくしていく。

まるで、アイススケートリンク上にいるような気分だ。

「へぇ、結構出力あるんだねぇ。でも、氷じゃお姉さんに勝てないぞ」

稲は、靴先で、足の下に広がる氷をトンと叩いた。

――もちろん殺したりなんてしない。先端の丸い石の柱をみぞおちに叩き込んで、怯んだところを警察に通報させてもらうからね…………え?

稲は、驚愕の瞳で地面を見下ろした。

力が発しない。

靜寂の中で、坂東が邪悪な笑みで口角を上げた。

「氷の下の地面から石の槍でも出そうとしたか? それともオレの氷そのものをどうにかしようとしたか? でも殘念だったな、お前の能力は使えねぇよ!」

「ど、どうして、坂東君、何かしたの?」

指でデバイス畫面をタップすればバレるので、小聲による音聲作で、通話アプリを起させながら、稲は時間を稼いだ。

警察が來るまではおよそ5分。それまで、坂東を抑えておけるか。

「単純な話だ。お前ら変化形の能力は、超能力に干渉できないんだよぉ!」

「そんな!?」

初耳の話に、稲が驚くと、坂東は機嫌を良くした。

「オレよぉ、ガキの頃から々な能力者とバトって來たんだよ。その中で、ったモノの形狀を変えられるって、まぁお前の下位互換みたいな奴がいたんだけど、そいつ、オレの氷を変形させることができなかったんだよ。その時に知ったんだよ。オレらの能力の法則って奴を。つまり、この公園にはもう、お前の味方はいないんだよ、どこにもなぁ!」

稲は息を呑みながら、助けを求めるように、周囲へ視線を巡らせた。

地面が、噴水が、木々が、みるみる氷に侵食され、覆われていく。

まるで、公園そのものが稲の心であるかのように、氷の浸食に比例して、彼は恐怖に駆られた。

今まで、彼が平靜でいられたのは、いざとなればいつでも勝てるという安心があったからだ。

だが今は、まるで安全裝置を外して撃鉄を起こした銃を突きつけられてから、自分が防弾チョッキを著ていないことを知ったような覚にも似た危機があった。

――そんな、何か、何かないの!?

土でも石でも木でもなんでもいい。だが、つかめるものは空気しかない。

空気を再構築して、坂東の周りから酸素を無くすか。いや、稲のレベルでは、まだ気の再構築はできない。

手持ちの荷服も、武になるものはない。

能力を完全に封じられて、稲は震える聲でんだ。

「警察を呼んだわ。早く逃げないと、氷帝の経歴に瑕がつくわよ!」

「男の癡話喧嘩に警察が介するかよ。民事不介って言葉知らないのか?」

やはり、今の坂東に話は通じない。彼は、自分に都合のいい妄想の世界で生きているのだ。

いや、今に限らず、坂東亮悟という男は、元からそういう気質があった。

彼も、一般常識は知っている。

けれど、超能力者の自分は選ばれし特別な存在で、周りが自分にかしずくのが當たり前。

親が子に、教師が生徒に【懲罰権】を持つように、自分は他人を、たとえば奧井育雄をどうしようが自由で、それは上級國民たる自分の権利だと思ってきた。

今は、そうした思想が発しているのだ。

稲は素早く振り返って走り出した。

靴底を分解再構築して、らないよう北海道仕様にしたおかげで、思い切り走れた。

「逃がすかよぉ!」

パチンと、指を鳴らす音が聞こえた直後、背中に當たりをけたような衝撃が走って、稲は大きく前のめりに転んだ。

「きゃっ!」

氷に打ち付けた手と顔に、斬りつけるような冷たさが刺さった。

バスケットボール大の氷塊が、カーリングのストーンのように、目の前をっていく。

痛い。上半に力がらない。

背骨が折れてしまったのではと錯覚するような痛みで、稲はその場にうずくまってしまう。

「はは、いい格好だな。そのまま寢てろよ、いや、自分から服をいだら、しは優しくしてやるよ」

――いやだ。

冷たい氷の上で、稲は絶しながら涙腺を熱くした。

こんなのはいやだ。

自分はこれから幸せになるんだ。

もう噓をつかなくていい人たちと、大好きな人たちと、自分の居場所になってくれる人たちと、楽しい思い出を作っていくんだ。

間違っても、こんな男に汚されるようなことには、ならないはずなんだ。

「オレの初めての相手になれることに謝しな!」

人型の寄生蟲も同列の存在が、確実に迫ってくる。

警察が來るまで、あと4分。

坂東は4分後、警察に逮捕されて牢獄行きだ。

でも、自分が犯されるには十分な時間だ。

こんな男に、を見られる。

こんな男に、初めてを奪われる。

こんな男に、伝子で汚される。

そんなことになれば取り返しがつかない。過去は変えられない。殘りの人生を、どんな顔でみんなと過ごせばいいのか。

――奧井君……。

優しい彼の顔を思い浮かべながら、稲はんだ。

「奧井君! 助けて!」

「こんな時に他の男の名前呼んでんじゃねぇよ! 腳開け!」

「いやぁあああああああああああああ!」

坂東の手が足首にれようとして、稲はを引き裂くような悲鳴を上げた。

その直後、坂東の姿が消えた。

いや、50メートルほど遠くにいた。一瞬前と、同じポーズで。

何が起こったのかわからない。

助かった。いや、時間がびただけだろうか。

心臓が恐怖で震え、戸いながら上半を起こすと、頭に優しいぬくもりがれた。

「もう大丈夫だ」

誰よりも聞きたかった溫かい聲を見上げて、稲は安堵で大粒の涙を流した。

「バトル漫畫なら最強チートのテレポーターが助けに來たぜ」

「奧井君!」

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