「では、用意——始めッ！」

ギルド職員の聲で、ランク決め模擬戦闘が始まった。

勝てば、リリアが奪われた水晶珠を取り戻すことが出來る。

負ければリリアを奪われてしまう。

俺にも何かするつもりだろう。

奴らはA級パーティだ。

一方、俺たちは昨日組んだばかりの即席のパーティ。ランクも定かではない。

しかし、俺には確信があった。

フレッドさんはダテにギルマスをしているわけじゃない。

リリアもスキルの狀況を見て確信。決して弱くない。

「ハッ。こんなに綺麗な顔だったとはな。戻って來たら可がってやるぜ」

軽薄な挑発にリリアは屈しない。

リリアはキッとギザを睨み、剣を抜き近づいていく。

俺とリリアは、模擬戦闘の前に言葉をわしていた——。

＊＊＊＊＊＊

「フィーグさん。素晴らしいスキル【剣聖：風神】を授かったのに、

あの人たちの顔を見たら急に怖くなって——」

震えるリリアの手をそっと握る。

すると、彼はじっと俺と繫いだ手を見つめた。

次第に震えが小さくなっていき、消えていく。

リリアは昨日の出來事を思い出したようだ。

俺にスキルを上書きされる覚を。

「フィーグさん。私……」

「リリアは強いよ。もともと、この【剣聖：風神】はリリアのスキル【剣技】から生まれたもの。

ずっと努力してきたんだよね？」

「……はい。

フィーグさんを信じれば良いのは分かっているのです。

でもフィーグさんのように【剣聖：風神】を使いこなせるか……私の努力は正しかったのか……」

リリアは目を瞑りゆっくりと息をつき俺のに飛び込んできた。

彼の髪のから伝わる心地よい花の香りが、ふわっと俺を包む。

「大丈夫。

リリア、スキルの力を信じてしい。俺と、リリアの協力で今のスキルがある」

俺を見上げる彼の瞳が潤む。

「フィーグさん……そうですね。二人の……」

「リリアをげてきたあいつらに、本當の力を見せてやろう」

「……分かりました。

この授かったスキルと……私と、フィーグさんを信じています。

私は、負けません」

上目づかいに俺を見るリリアの瞳に強いが燈っていた。

作戦會議をする前のリリアとまるで別人だ。

俺とリリアを見るフレッドさんの、とても生暖かい目がめっちゃ気になった。

フレッドさんは俺たちを殘し「俺の存在忘れてねえ？」とつぶやいてから、ボリボリと頭を掻いて部屋の外に出ていったのだった。

＊＊＊＊＊＊

戦闘が始まった。

ギザがリリアに迫る。

でも、きっとリリアは上手くやってくれるだろう。

「【剣聖：風神】発！」

リリアの力強くも澄んだ聲が模擬戦闘場に響いた。

悠々と剣を構えるギザに突っ込んでいくリリア。

最初の一閃で、勝負の行方が分かる。

ヒュッ。

あっさりとギザの攻撃を躱し、距離を詰めるリリア。

リリアが戦闘の主導権を握っていた。

ガキッ。

剣と剣が差する。

しかし、ギザの首元にリリアの剣が迫っていた。

「なななななっっ。お、お前本當にあのリリアか？」

リリアは無言でギザに剣を振り下ろす。

「ひ、ひぃっ！」

けない聲を出すギザ。

俺とフレッドさんはその姿に安堵する。

「フィーグ、俺たちは俺たちの敵に目を向けようぜ」

「はい！」

目の前まで近づいてきた敵は二人。

「フィーグ、頼む！」

「了解！　フレッドさん、スキルメンテ行います。完了まで耐えてください」

「ああ、任せろ！」

俺を隠すようにして前に立ったフレッドさん。

彼はいつも、戦闘をするときは上半だ。

俺はフレッドさんのムキムキの背中にれる。

「いつもながら、微妙な気分になるなコレ」

フレッドさんのぼやきを無視して、俺は神を集中した。

「【スキルメンテ：診斷・複製・整備】【スキルメンテ：魔改造】を実行！！」

俺の聲に応えて、スキルが起する。

『

名前：フレッド

職種スキル：

【モンク：強化】：LV59

【モンク：格闘】 ：LV60　《【注意！】：暴走間近》

』

スキルが暴走間近じゃないか！

危ないところだった。

俺は素早く【複製(コピー)】と【整備(メンテ)】を行い、続けて【魔改造】を実行した。

《【魔改造】を実行します——功しました》

フレッドさんのスキル、【モンク：強化】【モンク：格闘】が魔改造されたようだ。

《【モンク：強化】は【完全裝備】を用いて魔改造され【モンク：金屬筋(メタルマッスル)】に超進化しました》

んんっ？

リリアと同パーティだから、彼のスキルを用いて魔改造した？

メタルマッスルという言葉の響きがヤバそうだが……。

今にも細の剣士とスキンヘッド神がフレッドさんに武を振り下ろそうとしている。

俺は、【スキルメンテ：上書き】を実行した。

すると、ビクビクッとフレッドさんが震える。

鼻のを広げ興している。

「ふっふがっ。こ……このスキルは……【モンク：金屬筋(メタルマッスル)】起ッ！」

『【モンク：金屬筋(メタルマッスル)】：LV59 （絶好調）』

フレッドさんのびと同時に、むき出しの上半がを反し始める。

さすがだ。一瞬にして理解、スキルを発させている。

フレッドさんの皮は金屬のような銀に輝き、剣士の剣と神の戦(メイス)を軽々とけ止めた。

キィィィィィン！

銀のにぶつかり大きな音を立て、火花と共に弾かれる剣と戦。

「「何ッ！！！！？？？　なっ何だ……そのは！？」」

痩せ剣士とスキンヘッド神が驚く。

モンクという職階級(クラス)はを強化、固くすることができるという。

でも、これは聞いていた話以上だ。金屬製の剣や戦をあっさり弾いた上、刃こぼれもさせている。

「コイツは——すげぇ！　フィーグ、ありがとな！！！」

化時はけないがすぐに解除して戦っている。

化解除時にスキが生まれるようだけど、それを突くだけの力は奴らに無さそうだ。

喜々ととして剣士の懐に飛び込んでいくフレッドさん。

彼の顔は、歓喜に満ちている。

一方、二手に分かれスキンヘッド神が俺に突っ込んできた。ニヤリと舌なめずりをしている。

さっきフレッドさんを毆った男だ。

「フィーグ、お前はボンクラと聞いている」

「聞いているって誰に？」

「チッ」

こいつらは、何者かに命令され俺たちを襲っている。

模擬戦闘にかこつけて俺たちをボコボコにするつもりだろう。

「あなたたちを倒して、依頼主を聞きたいですね」

「お前やリリアみたいなボンクラが俺たちを倒す？

笑わせるな！」

俺だってリリアとの付き合いは短い。

でも、笑ったり泣いたりしている姿を見てきたら……そして、その能力の高さに気付いたら、とてもボンクラなどと言えないだろう。

「……リリアの何が分かる？」

「分かるさ。俺たちはA級冒険者だからな！

お前みたいな底辺以上に分かるんだよ。

いいだろう、オレがお前に指導(レクチャー)してやる」

「そうですか。ありがとうございます」

「これは訓練じゃない。試験とはいえ戦闘だからな。何でもアリだ。

卑怯とか言いっこなしだぜ」

「わかりました」

俺は【スキルメンテ：試行】によりスキルを起する。

《——【モンク：格闘】は【剣聖：風神】を用いて魔改造され【モンク：闘神】に超進化しました——》

俺は大きく息を吸い、ぶようにスキルの名を呼んだ。

「スキル【モンク：闘神】起ッ！！！！！」

「と、闘神……？」

『【モンク：闘神】：LV99　（絶好調）』

スキンヘッド神は額に汗をかき一歩下がった。

威勢は完全に消えている。

息を整えると俺は神の懐に飛び込む。

スキンヘッド神のきが、まるでふざけているように、ひどくゆっくりに見えた。

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