《【最強の整備士】役立たずと言われたスキルメンテで俺は全てを、「魔改造」する!みんなの真の力を開放したら、世界最強パーティになっていた【書籍化決定!】》第35話 撲殺神

毆り聖職者(アコライト)という存在がいるということは聞いたことがあるけど、撲殺神と言った方が合っている。

まるでヒャッハーとぶあらくれ者のような言にリリアも引いているくらいだ。

「フィーグさん、貴族の男にエリシスさんに會わせる依頼ですが……大丈夫でしょうか?」

「そうだな。伯爵が今の荒ぶっているエリシスを知っているのか?

ものすっごーく不安になってきた」

「私もです——あっ」

リリアが軽い悲鳴を上げる。

見ると、エリシスが毆りつけた釘バットが、オーガのにめり込んでいる。

どうやらに食い込み、抜けなくなったようだ。

「ウエッ?」

額に青筋を立てて釘バットを引き抜こうとするエリシス。

鬼だ。

鬼の形相だ。

「ぐぬぬぬう!」

荒々しい聲とともに、スポッとエリシスが吹き飛んだ。

再び毆りかかるエリシス。

しかし……。

ボキッ。

釘バットが先端から三分の一くらいのところで折れた。

よりによってこんなタイミングで武が壊れるとは、運が無い。

そういえばエリシスはレベッカの裝備屋を訪れていた。

あの時、じいさんはスキルが暴走していたはずだ。

暴走したスキルで加工した武が壊れやすくなっていても仕方ないかもしれない。

だが、あの暴な振り回し方だと、じいさんのスキルと関係なく壊れそうだな……。

エリシスは鬼の形相のまま、折れた釘バットを呆然として見つめている。

まるで、悪夢でも見ているかのように釘バットを見つめたままかない。

「援護(カバー)します!」

リリアが駆け出す。

素晴らしいスピードでオーガに迫り、エリシスを庇うように間に立った。

俺は、真っ白になって突っ立っているエリシスの方に駆け寄る。

「大丈夫か?」

うっ、と頭を抱えて倒れそうになるエリシス。

を抱き抱え、俺は部屋の隅に移する。

キンッ、キンッと武がぶつかる音が響く。

リリアが応戦しているのだ。

リリアの腕前ならオーガくらいなら楽勝だろう。

ふと、腕の中のエリシスが俺を見つめていることに気付く。

「えっと……私(わたくし)は……?」

さっきまでのギラギラしていた目つきはどこかに消え、優しげで儚げな表をしている。

潤んだ瞳で俺をじっと見ていた。

「大丈夫か? 武が壊れたようだが?」

すると、はっと、何かに気付いたエリシスは周囲を見渡し、手にしているだらけの釘バットに気付いた。

「わ、私(わたくし)、ま(・)た(・)やってしまったのでしょうか?」

「また? 覚えていないのか?」

「はい……いつも夢中になると我を忘れて」

「夢中? 我?」

夢中……。戦闘になると、人が変わる人間も多いと聞くが、彼のそれは尋常じゃないな。

エリシスを立ち上がらせると、右腕がだらんと下に落ち、握っていた釘バットがぐしゃっと床に落ちた。

途端に顔を変え、右腕を押さえるエリシス。

「えっ……い、痛っ!」

「どうしました?」

「腕が……うでがッ……」

どうやら腕の筋を痛めてしまったようだ。

よく見ると、神著の破れたところから見えるに傷がある。

腕が腫れ始めている。

戦闘中に怪我をしたのかもしれない。

「きゃあっ!」

ドサッ。

リリアが悲鳴と共に吹き飛ばされてきた。

その先にいた俺は、リリアに押し倒された格好になった。

「いたた……」

「大丈夫か、リリア?」

「はい、平気です……キャッ! ご、ごめんなさい、フィーグさん」

「問題無い」

リリアはさっと俺の上から立ち上がり、オーガの方向を向いて構えた。

しかし、たかだかオーガごときにリリアの【剣聖:風神】スキルが負けるとは思えない。

「リリア、どうした?」

「フィーグさん、アイツら……切っても切っても治っていって……何か倒したのですが……」

見ると、サイコロ狀にになったオーガのが転がっている。

新裝備の剣の切れ味はさすがだ。もしかしてエンチャント【復讐者(フラガラッハ)】を使ったのだろうか?

それにしても、リリアさんも殺意強すぎませんかね?

そういえばエルフはオークやオーガを嫌悪・憎悪しているという話を聞いたことがある。

願わくは、それを人に向けないでほしいものだが……。

リリアの顔が悪い。

も武を持つ右腕を抱えている。

負傷しているようだ。武を持てないほどでは無いが、防衛に徹することしかできなさそうだ。

か倒したとは言え、リリアを負傷させるオーガの存在……なんか変だと思いつつ、違和の正がつかめなかった。

傷を治すポーションは、今持ち合わせが無い。

まずい。

オーガが俺たちの方に向き、歩き出している。

俺はエリシスに問いかけた。

「あの、薬かポーションは持ってないかな?

なら治癒系のスキルを使って——」

「それが、今スキルがうまく使えなくて……」

「えっ」

なるほど。十中八九、スキル暴走によるものか、何らかの制限をけているかだろう。

のスキルを診斷すればすぐ分かることだ。

エリシスは、々と諦めた様子で俺たちに頭を下げた。

「もうこうなっては……無理です。

私が囮になるので、お二人はお逃げ下さい」

「大丈夫だ。俺に任せてしい」

オーガと戦って負ければ命を落とすかも知れない。

かといって、投降すれば何をされるか……俺はともかくは食料にされるだけでは済まないだろう。

エリシスはそれを分かっていながら、申し出たのだ。

俺は彼の覚悟に応えるため、エリシスの肩を抱く。

そして、自信を持って彼に伝えた。

「大丈夫。今だけでもパーティを組もう。それでスキル整備(メンテ)をする。

リリアは、防衛に徹してフォローを頼む!」

「はい!」

リリアが俺たちの前に立った。

ちょっと辛そうだが、俺は俺の仕事をしよう。

パーティでの、俺の役割を。

俺はエリシアの手を繋ぐ。

「スキル整備(メンテ)発!」

「あっ……うっ……うん……ダメ……神に仕える私がこのような……」

をくねらせ、何か言っているが、気にしない。

俺は淡々とスキルを整備《メンテ》していく。

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