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落ち著いたエリシスは、俺たちに禮儀正しく頭を下げた。

「フィーグさん……。ありがとうございました。何より、聖職にして頂いて……謝しきれません」

「いや、エリシスの力だ。スキルの量、レベルとも聖になってないほうがおかしい」

さて、スカウトの時間だ。

俺のパーティに加してくれるといいけど、來てくれるだろうか？

「もしよかったら、エリシス、俺たちのパーティの一員にならないか？」

リリアもうん、と頷きながら後押しをしてくれた。

「【全大回復(マス・ヒール)】はすごいです。私からもお願いしたいです」

「エリシスは前衛と回復役を兼務できそうだ。もし君が探しているものがあるなら、俺たちも手伝うことができる」

エリシスは、両手のひらをの前で組み、瞳を潤ませて口を開いた。

さて……YESかNOか？

「……はい。わたくしも、是非フィーグさんとリリアさんとご一緒できればと思います」

迷った様子もなく、即決だった。

俺は拍子抜けをしてしまう。

「いいの？　っておいて何だけど、そんなにあっさり決めて。もうし考えてもらってからでも構わないよ」

「はい。私(わたくし)は、必要として下さる方の傍(そば)にいたいと思っています。

あ(・)り(・)の(・)ま(・)ま(・)をけれてくれる方の元に」

ありのままか。

最初はどうなるかと思ったけど、彼は戦闘中、絶好のタイミングで全回復魔法を行使していた。

むしろ前線にいる分、戦いの狀況が把握できて、味方のピンチを把握できる、かもしれない。

「ありがとう、よろしくな」

俺が手を差し出すと、エリシスは握り返してくれた。

無骨な釘バット(ヒャッハー)を持っている割に、しなやかでらかい手のひらをしていた。

「もし私がまた暴走したら、フィーグさんが治してくれるのですよね？」

「しょっちゅう暴走されても困るんだけど。最初會った時の口調というか暴言はヤバかった」

「あ、あれは本來の私の姿ではありません……たぶん」

エリシスは思い出したのか、顔を真っ赤に染め恥ずかしがっていた。

最初に會った時のアレは本當にスキル暴走の結果なのだろうか？

もしかして素では？　俺は疑ってしまう。すまん、エリシス。

エリシスは、俺を見上げて続ける。

「スキル以外のことも沢山の教えをフィーグさんは與えてくださったと思います。私にとって神のような存在です——」

な、何を言い出すんだ？

「——いえ、神以上の存在です。是非、お仕えさせていただければ」

「神って……いや、俺はただのスキル整備士だ」

エリシスは、短くなった釘バットを大事そうに抱えつつ、俺にひざまずき、祈りを捧げるような仕草をした。

は、恥ずかしいからやめてくれ。

「と、とりあえず、その釘バットというか釘棒(スパイクメイス)の修理は必要だな。ダンジョンの下層に降りたら敵が強くなるだろうし」

俺は、そう言ってダンジョンの奧を見つめた。下に降りる階段があり、壁には竜のエンブレムが描かれている。

どこかで見たようなエンブレムだ。どこだっけ？

思い出した。あの竜は……アヤメが普段著ている魔法學園の制服に付いていたものだ。

確かあの制服にも竜の紋章があったはず。この世界の創世神話に出てくる、伝説の竜とされているものだ。

でも、なぜ、こんなところに魔法學園の紋章が？

うーむ、帰ったらアヤメに聞いてみるか。何か知っているのかも。

どっちにしても、一旦ダンジョンの探索は後回しだ。

武も直さないといけないし、そもそもエリシスには先に解決したい問題がある。

「そうそう、フェルトマン伯爵のことだけど……」

その名前を出すと、エリシスの表が曇った。

フェルトマン伯爵の依頼をけている以上、キチンと決著を付ける必要があるだろう。

パーティに心置きなく加して貰うために。

「フェルトマン伯爵が……私を探しているのですか？」

「ああ。會いたいそうだ」

「そうですか……彼は、私をいらないと……婚約破棄をしてまで捨てたのです。治癒の能力が『足りない』と。彼の経営する診療所で役に立たないと言われました」

「なんだって？　じゃあ君はそのためにこのダンジョンへ來たのか？」

「はい。どうしてもあの男を見返してやりたくて。スキルの強化を行いたいと思って」

エリシスが簡単に事を説明してくれた。

——彼は貴族の出で爵位は男爵。彼の意思と関係なく、家の事により、フェルトマン伯爵との婚約が決まったのだそうだ。

し後に、両親が事故で他界したという。

エリシスの両親が経営していた診療所はフェルトマン伯爵が引き継ぐことになった。

その診療所にエリシスが通い、患者の治療をしていた。

しかしフェルトマン伯爵は一方的に婚約を破棄。

『役立たずなお前ではなく、聖を妻に迎える。診療所は彼に任せるので、お前は用なしだ。出ていけ！』

突然、そんなことを言われたのだという。

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