《【最強の整備士】役立たずと言われたスキルメンテで俺は全てを、「魔改造」する!みんなの真の力を開放したら、世界最強パーティになっていた【書籍化決定!】》第47話 婚約破棄

俺は【王族:前衛舞踏《コンテンポラリー・ダンス》】をエリシスに上書きする。

そして、起

「あっ……んんッ……これは?」

「元々は君のスキルだ。さあ、踴ろう」

俺は一歩踏み出しエリシスをリードする。

「はい!」

二人で同じ方向に駆け出した。時に穏やかに、時に激しく。

息がぴったり合ったそのダンスに、次第に周囲の目が集まってくる。

兇悪な武(釘バット)を振り回し、激しい言葉を振りまくとは思えない、しなやかさ、振る舞い、所作。やっぱエリシスは貴族令嬢なのだと思い知る。

凄い。知と気品に溢れる素敵な令嬢なのだと思う。

でも……この踴りはいったい?

激しい。周りが音楽に合わせているのに対し、この踴りはどちらかというと攻めて、音楽を引っ張る印象だ。

「エリシス、周りで踴っている人のとちょっと違うような?」

俺が問いかけると、エリシスの瞳は潤んでいた。今にも泣き出しそうなのを、歯を食いしばり堪えている。

足を踏んだわけでもないのに、どうしたんだ?

「はい……お父様とお母様が……教えてくださった……。それが完璧に……うっとりするような気品や、しなやかさもも備えていて」

「ご両親のしてくれたものが、エリシスの中にスキルとして殘っていたんだね。同じものが今、俺の中にもある」

「かつて、お父様とお母様はこうやって踴っていらしたのでしょうか?」

「うん。きっと、そうだよ」

「……フィーグ様。この授けてくださったスキル、素晴らしいです。大切にしますね」

笑顔を取り戻したエリシスと、周りの男のペアをうように足を進める。

時々エリシスの腰を持ち、高く掲《かか》げたり、くるりと回ったりする。

なるほど。

エリシスの底知れぬは、このダンスが元になっているのかもしれない。

「ああ……曲が終わってしまう……」

エリシスは名殘惜しそうにしつつも、ラストを決めた。

ふう、と俺は一息をついた。

同時に、わあっと歓聲が上がった。

見ると、周囲の人たちが、俺たちに向かって拍手を送ってくれていた。

部屋の最奧には楽を持っている人たちがいたのだが、その代表のような人も何か言葉を発しながら、拍手をくれていた。

思わず注目を集めていたようだ。

ほとんどは、エリシスに向けてなのだろう。

正直なところ、彼は貴族社會にいたほうが輝けるのではないだろうか。

そう思うほどに、気品に溢れているように思う。

……今は。

「あの二人、すごかったな……あのダンスは新しい。熱的で新鮮だった」

「可らしいし、お淑やかで……エリシスという名前なのか? 妻にしたいところだけど、あれほどのダンスだ。私には無理だ」

概ね、れ聞こえる聲は好評のようだ。

一部、忌々しい顔で俺たちを見ている者もいるようだが、気にするほどでもない。

再び音楽が流れ、一時中斷したダンスが始まる。

俺とエリシスは、壁際に戻り一息つく。

☆☆☆☆☆☆

「ふいーっ。し疲れた」

「そうですか? 私はまだまだ大丈夫です」

「エリシスはすごいな。どこにそんな力があるんだ?」

木製とは言え、釘がたくさん打ち付けられたバットをあれほど振り回していたのだ。

これくらい朝飯前なのだろう。

などと、エリシスと話していると……。

「やあやあ、エリシス。久しぶりだね」

苦蟲を噛みつぶしたような表で、一人の貴族令息と思われる男が現れた。

令息と言っても三〇代後半から四〇代くらいだろうか?

「フィーグ様、この人がフェルトマン伯爵です」

小聲でエリシスが教えてくれる。

そうか、これが依頼主か。

もっと若いと思っていた。なんせ、十六歳のエリシスと婚約するくらいだから。

でもまあ、貴族間ではよくある話なのかもしれない。

やや小太りで、それを豪華な服で隠そうとしているように見える。

見た目で判斷してはいけないとはいえ、その悪辣なオーラに良い印象を俺は持てない。

「あっ」

「あっじゃないわよ。フィーグ。勇者パーティの雑用から逃げられると思っているの?」

そうだ、俺をさんざんこき使っていた聖デリラ。彼は口撃を止めない。

「だいたい、なにこの? 貧相なをして。本當に聖なのかしら? どちらにしても、私の方が上よ。そんなより私がいいでしょう?」

確かに聖デリラの満と言っても良いかもしれない。

それにくらべ、メリハリのあるエリシアではあるが俺には貧相だとは思えない。

「おいおい、婚約者の私の前で他の男をか?」

フェルトマン伯爵は、わざとらしく言う。恐らく本心ではないのだろう。

自分から聖デリラが離れないと、そう信じているように思う。

権力に酔い、自分より地位の低い者は全て自分に従うと疑わない。

「まあいいじゃない。フィーグは勇者パーティの雑用係として必要なの。あなたの斡旋してくれたはすぐやめちゃうし」

「それはすまなかったな。まあ、この男なら……いいだろう。せっかくエリシスにお仕置きをしようとしたのに、目立ちやがって……私に恥をかかせてくれたのだからな。一生雑用係にしてくれ」

俺はエリシスと踴っただけなんだけど。

「で、本題だ。エリシス、わが元に戻ってこい。能力が不足していると言え、診療所で飼ってやることはできる。

冒険者などと危険を冒す仕事に就く必要は無いだろう」

「診療所は、婚約されたという、そちらの聖(・)(・)様(・)に行っていただけばよろしいのでは?」

先ほどまでのお淑やかさはどこかに消え、エリシスの聲に棘をじる。

暴走しなければ良いけど。

あれ?

ふと気付いたけど、エリシスの拳が握られ震えている。

願わくば、その拳がフェルトマン伯爵のアゴに炸裂しませんように……。

釘バットを置いてきて良かった。

「聖デリラには役(・)目(・)があるからな。そもそも、勇者パーティの聖殿にやらせるわけにはいかないだろう?」

「フェルトマン伯爵、あなたが別の聖に任せると言ったのでは?」

恐らく、診療所での治療という地味な仕事を、聖デリラが好まなかったのだろう。

だから、エリシスを戻そうとしている。

「ああ言えばこういう……口だけの使えないが何を言う。男か? そうだその男だな? 私というものがありながら、他の男にうつつを抜かすとは」

何言ってんだコイツ?

婚約破棄しておきながら、まだエリシスが自分に従うと思っているのだろうか?

フェルトマン伯爵が続ける。

「ふん。まあ、今のうちだ。私に……このフェルトマン伯爵に逆らっていられるのは。どうせす(・)ぐ(・)従(・)う(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)」

妙な自信を見せるこの男、何かするつもりなのか?

フェルトマン伯爵は、俺たちに背を向けた。

続けて、聖デリラを引っ張るようにして部屋の中央に歩いて行く。

「なっ、何よ?」

予想外の行なのか、聖デリラは戸いの表を見せている。

でも、フェルトマン伯爵はお構いなしだ。

「みなさん、お楽しみの所申し訳ありません。私の方から報告がございます」

ざわっとする貴族の面々。

俺とエリシスは顔を見合わせる。

「いったい何が始まるのです?」

「う……わからない」

もしこれが「婚約破棄イベント」ならば、パワー系令嬢のエリシスが伯爵をぶん毆るまでが様式

でもさすがに俺は口に出さない。

エリシス、普通にやりそうだからな。

続けて、フェルトマン伯爵は、聲を張り上げ言った。

「報告が遅れましたが、先日、あそこにいるエリシスと婚約破棄をしました」

やはり、夜會など人が集まっているときに婚約破棄を宣言するアレだ。

ざわっとする會場。視線がエリシスに集まった。

だけど、フェルトマン伯爵の続けての言葉に、彼に視線が戻る。

「次に、こちらの聖デリラ殿と婚約をさせていただきました」

ここまではよくある話だ。だが……。

「そして、本日、結婚するとの意思を王宮に伝えまして、即日認められたため、私たちは晴れて夫婦となりました」

え、そうだったのか。

ふうと、エリシスは息をつく。エリシスにとって、フェルトマン伯爵はもうどうでも良い存在なのだろう。

婚約破棄発言に、一瞬しんと靜まり返った貴族たち。

続けての結婚の報告にし穏やかな空気になった。

だが意外な反応を示すが一人いる。

「えっ?」

デリラだ。なぜか、びっくりした表で顔を歪めている。

當事者である聖デリラが、どうしてそんな反応をするんだ?

「「「「えっ?」」」」

デリラが驚くのを見て、ざわつく會場。

俺とエリシスは顔を見合わせ首をかしげた。

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