「悪くはないが……二人とも倒れられてしまったらのう」

言葉を濁す大神様に私は微笑みを返す。

「大丈夫です。私に備わっている聖屬の魔力量に関しては大神様が一番よく知っておいでのはずです」

「じゃが。クラリッサが何を見たのか聞いたうえでのほうがいいんじゃないかのう」

聖だけではなく、魔力を使いすぎて気絶した人を回復魔法で無理に起こすのは決して褒められた方法ではない。見かけは回復したように思えても命をめる危険があるからだ。

もちろん私の力を使えばそれも修復できるけれど、最終手段にしたい。

「クラリッサ様のおのことを考えると、回復魔法で目覚めさせるのは避けた方がよいのでは。それから、私にはリルもいます」

『ます！』

私の肩から下りたリルが得意げにお腹をさらす。かわいい。

「そうか。萬一魔力が盡きても、フェンリルが魔力を満たす、と」

『そうだよ。セレスティアのまりょくをいっぱいたべてるから、だいじょうぶだよ』

「はい。大神様、許可を」

「……あいわかった。許そう、聖・セレスティア」

大神様が承諾を下さると、クラリッサは數人の神たちによって醫務室へと運ばれて行った。

それを見送ってから、私は祭壇の前に跪き手を組む。

見えるものはわかっている。けれど、町を消さずに殘す方法はないものだろうか。私の人生はループ5回目。どれも違う人生を選んできたように、あの辺境の町の未來も変えられたらいいのに。

聖屬の魔力を流すと、暗闇がしずつ薄くなって映像が見えてきた。ざあざあとした雑音が聞こえて、その映像に関わる詳細な會話までは聞こえない。

し不思議な覚の先に見える映像に神を研ぎ澄ましていると、この星のはるか遠くにある彗星から欠片が切り離された。覚から見て、今よりし後の出來事になるのだろう。

その欠片はぐんぐんとを帯びながらこの國に向かって落ちてくる。抵抗をけても燃え盡きることはない。辺境のサシェと呼ばれる町に向かって落下する。そして。

――空の真ん中で何かに當たって々に弾け、しゅわっと消えた。

「あれ？」

見えたものがこれまでに知ったものとはあまりに違うので、私は素っ頓狂な聲をあげてしまった。

いざというときに私に魔力を渡そうと一緒に祭壇の前に座り込んでいたリルが鼻先までやってきて、首を傾げる。

『どうしたの、だいじょうぶ、セレスティア』

「ええ、問題ないのだけど」

『うん。まりょくもぜんぜんへっていないね』

「ええ、そんなじがする。だって元気だもの……でも」

答えかけたところで、大神様が私の視界に割りこんできた。

「もう見えたのか」

大神様は驚きに目を丸くしている。そういえばそうだ。『先見の聖』が力を使うときは、數日間この聖堂に籠って祈るのが當たり前なのだから。

クラリッサも、三日ほど前からを清めてこの聖堂にこもりきりになっていた。私がすぐに未來を見られるのは、聖屬の魔力が強いからなのだろう。

「はい……あの」

「何を見たのじゃ」

「……三日後に、辺境の町サシェに彗星が落ち……」

ます、でいいのかな今のは？

私が見てきた過去4回のループでは、彗星は落ちた。けれど、今見た未來では落ちていなかった？　ていうか、彗星の欠片が々に砕けて消えていたような？　これは、町が守られるっていうことなのかな。

迷っているうちに、大神様は顔を真っ青にしてんだ。

「これは一大事じゃ。……急ぎ國王へ知らせを！」

聖堂のり口近くにいた數人の神が外に走っていくのが見える。確かに、こんなに大きな『予言』だ。一刻も早く王宮に知らせなくてはいけない。

「あの……大神様。彗星が落ちたかどうかはわからないのです」

「どういうことじゃ？」

「町の上空に星が現れた後、何かに當たってしゅわっと消えてしまいまして」

「……なんと。そうなのかのう」

「……はい、そうなのです」

「もしかしたら、それは」

大神様と二人で首をひねっていると、トラヴィスの聲がした。いつの間にかこの聖堂に到著していたらしい。

「王國騎士団の鋭部隊によるものかもしれないな。攻撃魔法同士でも、同じ威力のものがぶつかれば相殺される。それを応用して彗星をはね返そうとしたのかもしれない」

「トラヴィス。確かに理論上は可能かもしれないがのう」

「サシェの町の住民を避難させて、安全を確保したうえでなら試してみる価値はあるかもしれないですね」

「よし。ではその未來も王宮に伝えよう」

大神様とトラヴィスの會話を聞きながら、私はなんだか腑に落ちていなかった。

だって、そんなことができるのならどうしてこれまでのループではその方法をとらなかったんだろう。ただ思いつかなかっただけ？