「ここが市場かぁ」

「活気があるでしょ？」

「あっちの方に、アタイが良く行く店があるよ」

私はエルダさんとラベンテさんと一緒に、街の市場まで來ていた。

リトル君はお仕事があるみたいで、お屋敷にいる。

「んなお店がたくさんありますね」

右も左も、ズラリと屋臺が並んでいた。

これなら、食材探しには困らなそうだ。

「メルフィーちゃん、どういう料理を作るの？」

「薬膳料理を作ろうと思うわ」

「「薬膳料理ぃ？」」

二人は揃って、素っとん狂な聲を出した。

その反応が面白くて、私はちょっと笑った。

「笑ってないで教えてよ～」

「あはは、ごめんなさい。健康に良い食べを使った料理のことよ。食材の組み合わせを工夫するだけで、の調子が良くなるわ」

「そんな料理があるんだ」

「アタイも初めて聞いたよ」

「スパイスが結構大事なんです」

し歩いてみると、獨特な辛い匂いがしてきた。

香辛料を扱っている店だ。

東の方の特徴的な飾りがしてあった。

私はさっそく、中にっていく。

「こんにちは、ちょっと見せてもらっていいですか？」

「いいよいいよ、好きなだけ見ていってくれ」

たぶん、専門店なんだろう。

んなスパイスが売っている。

特に、東の方の品が富だった。

「たくさんありますね」

「ああ、自慢の品ぞろえさ」

珍しい香辛料が、たくさん揃っている。

その中でも、に良いを選ぶ。

「メルフィーちゃん、すごい真剣な目をしてる……」

「狙った獲は絶対に逃がさない、すご腕のハンターってじだね……」

二人はボソボソ話しているけど、よく聞こえなかった。

スパイスは味が強いけど、適度に使えば良いアクセントになる。

「あっ、これは五香《ごこうふん 》ですね！　すごい、こんなものまで売っているなんて！」

「メルフィーちゃん、五香ってなに？」

「五種類のスパイスが混ざったよ。シナモン、クローブ、ウイキョウ、八角(はっかく)、花椒(かしょう)の組み合わせが有名かしらね」

「それを料理に使うのかい？」

「スパイスって、お薬みたいな効果があるんです。クローブはを溫めるし、花椒は臓の調子を整えてくれます」

「「へぇ～」」

「お嬢ちゃん、よく知っているね。そんなに詳しい人は、なかなかいないよ」

お店の人は、心したように笑っていた。

そのとき、片隅に赤くて小さな野菜が置いてあるのに気づいた。

唐辛子だ。

「味つけは、唐辛子でピリ辛風味にしましょう。が溫かくなるしね」

やがて、頭の中にレシピが浮かんできた。

「このスパイスを使って、薬膳スープを作ります」

「でも、この香辛料って香りが強くないかい？」

「嗅いでいるだけで、くしゃみが出そう」

「上手く使えば、大丈夫ですよ」

ということで、私はひとしきり香辛料を買った。

これだけ揃えれば十分だわ。

いくら薬膳料理といっても、おいしく作ってあげたい。

あとはお屋敷にある食材で作ろう。

□□□

「さて、じゃあさっそく作りましょう。といっても、煮込むのがメインなんだけど」

お屋敷に帰ると、私は手早く準備を終えた。

エルダさんとラベンテさんも、ぜひ見學したいということで、キッチンに來ている。

「アタイにも見せとくれ」

「メルフィーちゃん、どんな料理にするの？」

「鶏をメインに使って、スパイスを溶かしたピリ辛スープよ」

お鍋に油を引いて、薄切りにした生姜とにんにくをれる。

あとはネギも加えようかしら。

を溫めるし、邪気を追い払う効果があるからね。

ネギはザクザク切って、お鍋にれる。

それから火をつけて、香りを出していく。

そして、唐辛子を丸ごとれた。

「唐辛子は切らなくていいの？」

「食べにくくないかい？」

「うん、これでいいの。切ってしまうと、辛くなりすぎちゃうから」

鶏は細かく刻んで、小さいお団子みたいにした方が食べやすいかな？

切っただけだと、ルフェリンさんも食べるのに苦労するかもしれない。

が弱っているだろうし。

私は底が深いに刻んだ鶏と塩をれ、よくみこんでいく。

そのまま、ネバネバしてくるまで続ける。

「ずいぶんとしっかりやるんだね、メルフィーちゃん」

「念りにするほど、舌りが良くなるんです」

「「へぇ～」」

途中で卵をれて、さを整える。

やがて、ちょうどいい合になった。

お団子は、小さめに作っておこう。

そのうち、水が沸騰してきたので、五香をしずつ加えていく。

香辛料はクセが強いから、味見しながら整えないとね。

クローブのほんのり甘くて、渋い香りがかぐわしい。

私は味見をしてみる。

香辛料のピリリとした辛さが、に活力を與えるようだ。

一口飲んだだけで、がポカポカしてきた。

し塩味を足したら完だ。

「結構赤いスープだけど、辛くないかい？」

「大丈夫です。見た目よりは辛くないですよ」

辛いといっても、ちょっぴりだ。

これなら食べやすいと思う。

「さっそく、ルフェリンさんに食べてもらおう」

「「頑張れ、メルフィー（ちゃん）」」

二人とも、私を送り出してくれた。

私は出來上がったお料理を、お庭に運んでいく。

ルーク様が興味深そうに眺めてきた。

「ほぅ……なかなか味そうじゃないか。見たことない料理だな」

「これは薬膳料理といって、に良い食材を集めたスープです。辛そうですけど、見た目ほどではありません」

「ふむ……」

ルーク様は今にも食べ出しそうだった。

あの、これはルフェリンさんのなんですけど……。

食べられないうちに、ルフェリンさんの前に出した。

「はい、どうぞ。“ピリリと辛い鶏団子の薬膳スープ”です」

『おお、食をそそる良い香りだ。いいな、この匂い』

ルフェリンさんは、お鼻をヒクヒクさせている。

とそこで、私はあることに気がついた。

「あっ、しまった！」

「どうした、メルフィー」

「うっかりして、普通のお皿に盛ってしまいました。食べにくいですよね？　すぐに盛り直します」

「別に問題ない」

「え？」

「あれを見ろ」

『これは味そうだな』

ルフェリンさんは、普通にスプーンとフォークを握っていた。

「に、人間みたいですね」

「あいつは意外と用なんだ」

フェンリルが食を使えるなんて、初めて知った。

『じゃあ、いただきます、ア～ン』

ルフェリンさんは、薬膳スープをゆっくり口に運んでいく。