《【1章完】脇役の公爵令嬢は回帰し、本の悪となり嗤い歩む【書籍化&コミカライズ】》第22話 皇太子の訪問?
お茶會を終えて、私は馬車に乗って本邸へと戻ってきた。
はぁ、久しぶりのお茶會は楽しかったわね。
し面倒なことも起こったけど、それも含めて楽しめた。
あとでエイラ嬢とオリーネの関係がどうなったのか、アークラ侯爵家がディアヌ男爵家に対してどんなことをするのか、その結末を調べておきましょう。
すでにもう夕方くらいだけど、今日はもう特にやることはないわね。
一緒にラウロも本邸についてきてもらったけど、もうあの子達が待ってる家に帰ってもらってもいいかもしれない。
レオとレナもラウロのことを待っているだろうし。
そう思いながら、ラウロに差し出された手を握りながら、馬車を降りた。
すると本邸の方から、メイドのマイミが出てきて寄ってくる。
なんだか慌てているようだけど、何かあったのかしら?
「ア、アサリア様! ようやくお戻りになられたのですね!」
「ええ、ただいま、マイミ。久しぶりのお茶會はとても楽しかったわ」
「そ、それはようございました……じゃなくてですね! 大変なんです!」
「何かあったのかしら?」
マイミが一度本邸の方を振り返り、そしてし聲を抑えめで話す。
「こ、皇太子殿下が、お見えになっているんです」
「えっ? ルイス皇太子が?」
「は、はい、そうです」
それは私もし驚いた。
ルイス皇太子が本邸に來たことは一度もない。
會うとしたらいつも私の方から皇宮に行っていた。
まああちらは皇室で、こちらは公爵だから、私の方から伺うのは當たり前だとは思うけど。
それでも婚約者である私の家に迎えに來たりするのは、皇太子だとしても普通ならばしてもいいはず。
事実、回帰する前の皇太子はオリーネの家に迎えに行っていた。
私達はまだ婚約をしているけど、まさか皇太子が私の家に來るなんて。
だけど、急すぎるでしょ?
「皇太子が訪問する前に、何か連絡はあったのかしら?」
「い、いえ、全くありませんでした。一時間程前に、いきなりこちらに來られました」
「そう」
皇太子だからといって、訪問の約束を取り付けることなく來ていいはずがない。
どうやらまだ、ルイス皇太子はスペンサー公爵家を舐めているようね。
「要件はなんなの?」
「婚約者のアサリア様に會いに來たとのことですが……」
「ルイス皇太子がそう言ったの?」
「はい」
「それ以外の要件は?」
「特に何もおっしゃっていませんでした」
「そう」
本當に會いに來ただけ? 狙いがよくわからないわね。
だけど本邸まで來て、一時間も待っているのね。
私に會うために待ってくれているとも捉えられるけど、いきなり訪問して一時間も居座っているとも捉えられるわね。
まあどちらにせよ、私が會うしかないようね。
「わかったわ、とりあえず會いましょうか」
「はい……その、そろそろご夕食の時間ですし、皇太子殿下のご夕食も準備した方がよろしいでしょうか?」
そうね、普通ならこの時間に婚約者が來たのなら、一緒に夕食を食べて楽しく會話する流れでしょうね。
だけど……。
「いいえ、用意しなくていいわ。どうせそんな時間まで居座らせるつもりはないもの」
私はマイミにそう伝えてから、ラウロに話しかける。
「ラウロ、もうし付き合ってくれるかしら?」
「はい、もちろんです」
「私の後ろに控えていればいいから」
「かしこまりました」
そして私とラウロは、ルイス皇太子が待つ応接室へと向かった。
普通だったらお茶會などに著て行った服ではなく、もうし皇太子に會うための良いドレスを著るのだが、著替えるのも面倒ね。
本邸の一番豪華な応接室にルイス皇太子は通されたようで、そこへ著いて扉を開ける。
ルイス皇太子はソファに腰掛けていて、ってくる私をジロっと睨むように見てきた。
「遅かったな、アサリア」
……なんでこの人、いきなり訪問してきたのに不機嫌になっているのかしら?
「ルイス皇太子が突然、何の前れもなく訪問してきたからでは? 私はお茶會から帰ってきたばかりで疲れているのに、ルイス皇太子にこうして會いに來たのですが」
「お茶會に遊びに行っただけで疲れるとは、けないことだ」
はっ? 別に本當は疲れてないけど、なんでこんな人に嫌味を嫌味で返されないといけないの?
はぁ、一時間も私に會うために待ってくれていたようだから、しくらい丁寧に接しようと思っていたけど、もういいわ。
私はルイス皇太子の対面のソファに座り、その後ろにラウロが控える。
「その男は誰だ?」
「私の専屬騎士のラウロです。ラウロ、ご挨拶して」
「……ラウロです」
ラウロはお茶會の時に令嬢達に挨拶をした時よりも、かなり適當に挨拶をした。
ふふっ、とてもいい判斷ね、また後でご褒をあげなくちゃ。
ルイス皇太子はラウロの挨拶に不快に思ったのか、眉を顰めた。
「なんだ、この騎士は。名乗り方もまともに知らないのか?」
「公爵家に訪問する際に何の連絡もよこさず、勝手に來て一時間も居座る客人にする挨拶としては、とても丁寧な方だと思いますが」
私はにこやかに笑いながらそう言った。
「なんだと? いつも君も皇宮に來ていたではないか」
「私がいつ、無斷で皇宮に行きましたか?」
「……」
何も反論出來なくなり、不機嫌な顔で黙り込むルイス皇太子。
はぁ、本當になんでこの人は來たんだろう。
私をイラつかせるために來たのかしら?
「それでルイス皇太子、今日は何のご用ですか?」
私は足を組み、ソファに深く腰掛けて背もたれにを預ける。
皇太子の前でする態度ではないが、まあ誰も見てないしいいでしょう。
あっ、ラウロがいたわね。まあ彼なら私の味方だし、誰にも言うわけないから大丈夫ね。
「その態度はなんだ? 淑として恥ずべき行為だぞ」
「先程も申し上げましたが、いきなり訪問してきた相手に対しては、最低限の禮儀だと思いますが」
「っ、いつからそんな無禮なことを言うようになったんだ、アサリア」
ルイス皇太子は不機嫌そうに私を睨みながらそう言う。
回帰する前は婚約者として、オリーネとの浮気を諌めようとしたり、婚約破棄をされたくないと思って、なかなか強気に出ることは出來なかった。
だけど私がいつまでも下手に出てご機嫌を伺っているなんて思ったら、大間違いよ。
回帰する前は、あなたが婚約破棄をする側だった。
だけどもう、その立場は逆転した。
私が下手に出る必要も、ご機嫌を伺う必要も、何もない。
むしろ私のご機嫌を取らないといけないのは、ルイス皇太子の方だ。
「さあ、いつからでしょう。私の婚約者が浮気をしたショックから、寢込んでしまってからでしょうか」
私が口元に手を持ってきて、目を伏せて悲しそうな表をする演技をした。
まあ寢込んだことなんて一度もないけど。
回帰する前は確か、使用人とかに當たり散らかしていただろうし。
さすがに信じなかったのか、ルイス皇太子は何も態度は変わってない。
だけど後ろにいるラウロの雰囲気が鋭くなった気がする。
もしかして私が寢込んだということを信じてしまったかしら?
あとで弁解しておこう。
「その時に思ったのです、私はなんて馬鹿だったんだろうって」
「どういうことだ?」
「私を尊重しない相手に、なぜ敬意を払って接していたんだと思いまして」
私はニヤッと笑いながら、ルイス皇太子にそう言った。
「相手がそのような態度を取るなら、私も同じような態度を取ります」
「……私は皇太子だぞ。公爵家の令嬢で私の婚約者だとしても皇太子に対して、そのような態度を取っていいと思ってるのか」
「あら、何度同じ話をすればいいのですか? ルイス皇太子、あなたはハリボテの、名ばかりの皇太子ですよ」
「っ! お前……!」
私の言葉にルイス皇太子はキッと睨んできた。
しかし何も怖くないし、むしろ私はさらに笑ってみせた。
「前のパーティでも話したでしょう? 私があなたの婚約者でなかったら、あなたは皇太子じゃないのですから」
「……」
何も言わないルイス皇太子。いえ、何も言えないだけね。
「ルイス皇太子のことですから、皇帝陛下に確認などをしたのでは? どうでした? あなたのんだ答えは、返ってきましたか?」
「っ……」
ふふっ、表が変わったわね。
やっぱり確認、もしくは皇帝陛下に直接言われたようだ。
スペンサー公爵家の令嬢である私と婚約をしたから、他の皇子達を差し置いて皇太子になれたことを。
「だからもういいのですよ、皇太子」
「……何がだ」
「あなたが私に構うことを、ですよ。私ももう、あなたに構いませんから」
もう私は、この人に何も期待していない、何もんでいない。
んでいることがあるとしたら、破滅ぐらいね。
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