《【書籍化決定】婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。》25
サルジュの調子が悪そうで心配だったが、彼はアメリアと一緒に學園に行くというので、そのまま向かうことにした。
學園に著けばユリウスがいる。彼に任せれば大丈夫だろう。
到著してサルジュと別れ、教室には行かずにそのまま職員室に向かう。あらかじめユリウスが説明してくれたらしく、授業には參加しなくとも構わないこと。自習室を自由に使ってもよいことを伝えられた。
一年生で試験をけるのはアメリアひとりのようだ。頑張れと激勵されて頷く。
そのまま自習室に向かい、時間まで集中して勉強をした。
マリーエが教えてくれた試験のための問題だったが、思っていたよりも簡単に解けてしまったことにし戸う。
學園にるまで家庭教師からと獨學で勉強していた容は、思っていたよりもずっと高度なものだったようだ。
それでもまだ、サルジュまでは屆かない。
最終的なアメリアの目標は特Aクラスに合格することではなく、サルジュに追いつくことだ。
もっと広く深く、知識を高めなくてはならない。
午後の授業時間も終わったようなので、參考書ではなく専門書を借りようと、図書室に向かうことにした。
自習室を出ると、隣の部屋からも人が出てきた。上級生らしく知らない顔だったが、向こうが軽く會釈をしたのでそれに倣う。
この學園にってから、一般生徒と挨拶をわしたのは初めてかもしれない。
もしかしたら、日常を取り戻すことができるのではないか。そんな期待をしだけ抱いてしまう。
だが、背後からあまり好意的ではない視線をじて足を止めた。
振り返ると、面倒なことになりそうな予がする。
そのまま立ち去ろうかと思ったが、向こうから聲をかけてきた。
「あの」
呼び止められて、アメリアはゆっくりと振り返る。
両手をきつく握りしめ、必死な様子で聲をかけてきたのは、なかなか可憐な容姿をしただった。
肩くらいまでの艶やかな茶の髪に、緑の瞳。
その姿には見覚えがある。
図書館でリースと遭遇したときに、彼が連れていた令嬢だ。たしか、カリア子爵家の令嬢のセイラという名だったと思い出す。
まだ授業は終わったばかりで、たくさんの生徒が周囲にいる。そんな中で聲を掛けてくるとは思わなかった。
「はい。何か用でしょうか?」
困したように答えると、セイラは思いきったようにアメリアに告げる。
「……リースを、解放してあげてください」
彼の第一聲は、直球だった。
「解放?」
アメリアは困しながら首を傾げてみる。
「私達のことを、許せない気持ちはわかります。どんな償いでもするつもりです。だから、もうリースを苦しめないでください……」
思い詰めたような瞳に、勇気をふり絞ったような口調。
もしかして彼はリースの共犯者ではなく、周囲の人達のように、彼の噓を信じ込んでしまっているのではないか。
アメリアでさえ、そんなことを考える。
だが、彼は二度もリースと一緒にアメリアの前に現れた。何も知らないはずがない。
エミーラのことで、アメリアにサルジュやユリウスが味方になったことを知り、自分達が不利になったことに気が付いたのだろう。
「あなたはどなた?」
「……」
周囲から聞いただけで、彼から直接聞いたことはない。そう思って尋ねると、泣き出しそうな顔をされてしまう。
これでは、まるでアメリアが彼を苛めているようだ。
「……ごめんなさい」
彼が泣き出す前に、先に謝罪をした。
「本當に知らないの。だから教えてほしい」
セイラはそんなアメリアの言葉を完全に否定した。
「そんなはずがないわ。だってリースがあなたに手紙で謝罪をしたと言っていたもの。私とのこともきちんと説明して、許してもらえるまで謝るからと言っていたわ」
周囲の生徒達がざわめいている。
ここで否定しなければ前に逆戻りだと、アメリアも聲を上げる。
「私が聞いたのは學園のある噂だけで、肝心のリースからは何も聞いていないわ」
「噓よ。じゃあどうしてリースから逃げたの? 話し合いもさせてくれないって、彼は困っていたわ」
「そんなの、當たり前でしょう?」
冷靜にならなければと思っているのに、答える聲が震える。
學してから今までのことがひとつずつ思い出されて、涙が零れそうになる。
「どうして私がいない間にあんな噂を広めた人と會いたいと、話し合いがしたいと思うの? もうリースなんていらない。私だって婚約を解消したいの」
だが、アメリアとリースの婚約は家同士が決めたこと。
アメリアが嫌だから、リースが他に好きな人ができたから。そんな理由で解消することはできないのに。
「アメリア」
タイミングを図っていたのか。リースがふたりの傍に駆け寄ってきて、セイラを庇うように前に立つ。
「もうやめてくれ。君をせなかったのは僕が悪いが、セイラに罪はない」
「……リース、ごめんなさい。私のせいで」
リースとセイラはアメリアの目の前でそっと寄り添い合った。
あらかじめ、ふたりで申し合わせていたのだろう。
「何を言っているの? 私はリースのなんか必要としていない」
「だが、土魔法は必要だろう? そのためにレニア伯爵は、サーマ侯爵家に多額の金を払って僕を買ったのだから」
「ひどいわ。お金でリースを縛り付けるなんて」
セイラがリースに抱きつき、非難の目をアメリアに向ける。
レニア伯爵家が元々優れた土魔法の遣い手であったこと。これが先々代當主の結婚によって失われたことは、有名な話だ。
金の力でするふたりを引き裂いたのか、と誰かが呟き、それをきっかけに周囲がざわめいていく。
何も言えなくて、アメリアはを噛み締める。
父が土魔法にこだわっているのは本當のことだ。
さらに父は、リースとの婚約のためにサーマ侯爵家に多額の金を支払っている。
けれど貴族社會ではよくあること。むしろ向こう側が婚約を盾に、資金提供を願ったのだ。
何も言えないアメリアに対して、セイラが勝ち誇ったように笑った。
その瞬間。
「……どうするの? このままだと、せっかく流した噂が無駄になるわ」
そんなセイラの聲が聞こえてきて、思わず顔を上げる。
だが、目の前にいるセイラも戸ったような顔をして周囲を見渡している。
し離れたところに、もうひとりのセイラがいた。
彼はリースの膝の上に座り、甘えるようににり寄っていた。
そんなふたりの姿を見て、周囲からも驚きの聲が上がった。
(これって……)
ユリウスの再現魔法かと思った。
だがこれはただの映像ではなく、もうひとりセイラがいるかと思ったほど鮮明なものだ。
「あのが學する前に徹底的に噂を流して、孤立させるまでは上手くいったのに。どうしてあのふたりが、味方をしているの?」
憎々しげに言うセイラに、可憐なの面影はない。
「私はリースと暮らせるなら、正式な結婚じゃなくてもいいよ。むしろ実質的な妻は私で、あのには領地のことを々とやらせればいいじゃない。レニア伯爵家って、結構お金持ちみたいだし」
そう言って笑うセイラの姿に、現実の彼が青ざめた。
「う、噓よ。私はこんなこと言っていない……」
そんなセイラに口づけながら、もうひとりのリースは言う。
「そうだな。向こうは何が何でも土魔法を取りれたいだろうから、もっとアメリアを追い詰めて、懇願させればいい」
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