《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第01話 自殺を覚悟した探索者!(表紙有り)
騒がしい喧噪の中に一人、取り殘されたようにして俺は立っていた。去年、區畫整理されたばかりの道路の上を有象無象の人間と、自車が通過していく。
時刻はもう21時を回った。晝夜問わず、ダンジョンに潛り続ける『探索者』たちにとって、日沒など気にしない。激しい雨の中で傘を差しながら、裝備が濡れないように防水ケースにれて、大勢の人間が俺の前を歩いていく。
「ねえ、あの子さ」
「関わんなよ。家出とかだろ」
「傘もささずに……」
時折、そう言った聲が聞こえる。
しかし、それは雨音と共に掻き消え喧噪の中に沈んでいくのだ。
服の濡れなどとうに気にしていない。
頭にあるのは、これから終わりゆく自らの人生だけ。
「あぁ……」
天を仰ぐ。降りしきる雨が、を伝って、溫を奪っていく。
「いったいどこで」
誰に聞かせるでもない聲は、
「間違えたんだろうなぁ……」
雨の中に消えていく。
二年前、ほぼ同時に七つの國に七つの隕石が落下した。それは、落下場所を通常の理法則が通用しない別の世界、通稱『ダンジョン』へと変化させた。
はじめは誰もれようとしなかった『ダンジョン』という未知の世界は、やがて人類を狂喜せしめた。
伽噺(ファンタジー)の中にしかあり得なかった無數の『モンスター』。
その『モンスター』が倒した後に殘す人智を超えた『ドロップアイテム』。
寶箱からもたらされる人類の文明をはるかに超える『超(オーパーツ)』。
そして、『スキル』によってもたらされる超人のような人間たち。
『ダンジョン』がもたらされた七か國は協議の末、『ダンジョン』を世界へ解放するかどうかを各國自に委ねた。俺が住む日本はアメリカからの圧力もあって、人々へとダンジョンを解放。それを皮切りにして様々な人間が「探索者」として生業を始めた。
まだ14歳だった俺は冷房をケチるためにいた家電量販店のテレビニュースでそれを見た。その時、雷に打たれたように「これだ」と思ったのだ。いや、「これしかない」といったほうが近いか。
まだ期だったため、簡単に年齢制限を掻い潛れた。それから単獨(ソロ)探索者として生計を立てていた。
それから、二年間。
「あぁ……」
待っていたのは、過酷なまでの「資本主義」だった。
「モンスター」に外の世界で作られた武は一切の効力を発揮しない。全ては「ダンジョン」の中で賄う必要がある。
俺と同じように、「ダンジョン」が金になることに気が付いた大企業は金にを言わせて「ダンジョン」の中から出てきた武や防、そしてスキルを覚えることのできる『スキルオーブ』を買いあさった。
まだ14だった時の俺に、素材を武に加工するもなければ伝手もない。周りが超課金裝備で挑む中、一人悲しくひのきの棒を振り回すことしかできなかった。
だが、中二の時に親から絶縁された俺は「探索者」以外の選択肢など無かった。無論、高校に通うお金も無いから、學歴は中卒。それでもずっと『探索者』として生きてきた。
それも今日で終わりだ。
最近とても調子が良かったものだから、今日はいつもより1階層深い4階層で「モンスター」を狩っていた。3階層の「モンスター」より強かったが、その分報酬も期待できる。
単獨(ソロ)だということに目を瞑っても、危機に陥ることは無い……はずだった。
気が付いたら、モンスターに囲まれていたのだ。こんな低階層で「モンスター」が一か所に集まる原因は一つしかない。
「モンスタートレイン」だ。
それは階層(エリア)の「モンスター」を集めて、他人にり付ける技を指す。それのほとんどは意図せず行われるものだが、今日俺が當たったものは違った。
『死漁り(スカベンジャー)』と呼ばれる犯罪者共がダンジョンの低階層にいる。彼らは初心者の『探索者』を相手に「モンスタートレイン」を仕掛け、死から裝備を奪い取り企業に売りつける。
俺は必死になって抵抗した。そして、命からがら逃げ出した。その時に、レベル3相當の治癒ポーションを使ってしまったのだ。
これは諸刃の剣だった。探索者はとても殉職率が高い。そのため、「ダンジョン」に潛る際には互助組織である「日本(J)探索者(E)支援(O)機構(S)」通稱「ギルド」から深度に応じた治癒ポーションを持っているかの確認がるのだ。
俺が持っていた治癒ポーションは、一つだけ。それを失った以上、俺はもう「ダンジョン」に潛ることはできない。潛れないということは金を稼げないということ。
それはつまり、死だ。
貯金なんてない。稼いだ金は「ダンジョン」に潛るために片っ端から使い倒した。
「……真面目に、やってきたんだけどなぁ」
そう思って、自らの「ステータス」を開いた。
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天原(あまはら) 疾人(はやと)
HP:35 MP:26
STR:12 VIT;10
AGI:09 INT:11
LUC:03 HUM;96
【アクティブスキル】
『治癒魔法Lv2』『強化Lv1』
【パッシブスキル】
『索敵』
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最大でもギリギリ二桁、運(LUC) に至っては3である。
人間(HUM)は低ければ低いほど強いので、96は當然雑魚である。
深いため息をついて俺は歩き始めた。向かう先は海。
いつかはこうなるんじゃないかと思っていた。その時に備えて、一番人に迷をかけない死に方を探していたのだ。
投げする。それが俺の出した結論だ。
「俺の人生、なんだったんだよ……」
聲がれる。だがそれも、この街の誰にも屆かない。
夢と希にあふれるこの「ダンジョン」傘下の街の中では。
夢遊病のように歩いていると、目の前の赤信號が目にった。
しかし、今俺が居るのは橫斷歩道。
「……ッ!」
パッシブスキルの「索敵」が、こちらに向かってくる自車を検知した。
……轢(ひ)かれるッ!
瞬時に構えたが、運転手はすんでのところでハンドルを切った――それが悪手だった。
車の先にいたのは小さな。背格好からして小學生。傘で視界が隠れたの子に激突したのだ。
「……まずい」
撥ね飛ばされたがボールのように跳ねると、頭から赤いが川のように流れ始める。一瞬遅れて、通りが悲鳴に包まれた。
「……俺のせいだ」
雨でる道路を踏みしめて事故現場に近づく。
「大丈夫よ、大丈夫よ!!」
母親が、ぐったりと力したのを抱えて激しく振る。
「……すみません」
駆け寄って頭を下げた。
「この人殺しっ!」
近づくと同時に、走ってやってきたさきほどの車の運転手に毆られた。その誹りを甘んじてけれると、俺はよろよろと起き上がってに近づいた。
「ちょっと、來ないでよッ!」
母親がのを守ろうと、引き寄せる。
「ごめんなさい。……でも、今の俺にはこれくらいしかできないんです。『ハイ・ヒール』」
その言葉で『スキル』が発。の傷がゆっくりと癒され、俺のをのに適合するように変換しながら輸する。
「……あなた」
それを信じられないような顔で母親が見る。母親だけではない。運転手も、通行人でさえも、信じられない表でハヤトを見ていた。
「スキル」を“外”で使うことは犯罪だ。
そうでなくとも、今回は醫師法17條。「醫師でなければ、醫業をなしてはならない」に違反する。故に、その両方に罰せられる。
だが、それはこれから死に行く者には関係のないことだ。
「……ごめんなさい。応急処置はしました。救急車を呼んだほうが良いです」
攜帯を持っていない俺に、救急車は呼べない。自分が引き起こした事故なのだから、最後まで責任を負うべきだと思うが、ここでゆっくりしてしまうと警察に捕まるかも知れないのだ。
だから、それだけ言い殘して、降りしきる雨の中をたった一人で海へと向かった。
その後を追う者はいなかった。
のーとん(@2PibUzSH3E4Wzig)さんから素敵なイラストをいただきましたっ!
とても可らしいイラストを描かれる方ですっ!!
ありがとうございます!
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