《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第02話 と出會ちゃった探索者!
やってきたのは大きな橋の上だった。眼下には真っ黒に染まった川と海が見えそうで見えない。夜の闇に埋め盡くされた真下は、正確な高さを鈍らせていた。
ハヤトは落下防止のための柵を乗り越えて、吹き付ける風の中、目を瞑る。雨粒が彼のを叩きつけた。
「……死にたくねぇなぁ」
死にたくない。
死にたくないが、生きていたって仕方ないのだ。
生きて、生きて、生き延びて、何になるのだ。「ダンジョン」に潛れず、碌(ろく)な技(スキル)も持っていない中卒一人、どうやって暮らしていけるというのだ。
一度、生活保護を給できないかと思い、市役所にも行ったが、市役所職員はひどくめんどくさそうな顔をして親が生きているとの理由で拒否した。児養護施設に行ったこともあったが、働いているから無理だと一蹴された。
「……チクショウ」
気が付けば、思わず涙が溢(あふ)れてきた。
俺はいったい、なんのために生きてきたんだ。
この激の二年間を、なんのために生き延びたんだ。
それはもう、分からなかった。抱いていた理想は消えた。夢は現実に潰えた。
「チクショウ……」
俺は死ぬ。今日ここで。
そう意識した瞬間、足が震えるのが分かった。全から玉のような汗が噴き出て、視野が狹窄(きょうさく)し、背筋に冷たいものが走った。
だが、その意志は固かった。
「チクショウっ!」
三度目の宣言と共に飛び降りた。ぶわり、と真下から吹き上げる風がを舐めた。すぐに重力の魔の手がハヤトのを引いた。見る間に闇が迫ってきた。
死。
剎那、ハヤトの脳裏を駆け巡ったのはこれまでの人生だった。
生まれた時より、才能は無かった。
両親は一年後に生まれた弟と妹を溺(できあい)した。與えられた課題が満足にこなせないと、毆られた。蹴られた。食事を抜かれた。夜の山に置き去りにされた。無関係な場所へと捨て置かれた。
そんな自分を見て、弟はひどく嘲笑(ちょうしょう)した。
家に居場所は無かった。だから、逃げ出した。
復讐がしたかったわけじゃない。見返したかったわけじゃない。
「……俺は、認めてほしかったんだ」
ぽつり、と本音がれた。両親に認めてほしい。そんな子供みたいな思いでここまで走ってきた。
もし、自分が死んだというニュースが走れば両親はどんな反応をするだろうか。しは悲しむだろうか。それとも、厄介払いができたと大喜びするだろうか。
水面が迫ってきた。橋から水面までの高さはおよそ15m。死ぬには十分な高さだろう。
すぐに訪れる終わりに備えてハヤトは目を瞑った。
剎那、襲ったのは衝撃。だがそれは、水面に激突したそれではない。
ハヤトの心臓部を狙うようにして、謎の飛翔が彼のを貫いた。
見る者が見れば気が付いただろう。それは隕石だった。
とても小さな流れ星。
《良い人生だ。悲しみと哀れみに満ちた救いのない人生だ》
それはハヤトの心臓部を覆うように粘のに変化すると、傷口を塞いだ。
ハヤトは一連の出來事を本能で察知(さっち)し聲の主を一目見ようと目を開けて、そして息をのんだ。
そこに居たのは、息も止まってしまうほどのだった。流れるような黒い髪に、黒真珠のように煌めく瞳。はあたたかな白で、健康的なのが程よくさしている。まるで神々が作り出した造形かのように、完璧だった。
だが、一つ気になるのはその姿が半明だということだろうか。
《よぉ、隨分悲慘な人生歩んできたみたいじゃないか》
そのが喋っているとは思えないほど汚い言葉遣いで彼は言った。
「あ、あんたは……」
《私はヘキサ。お前の救いだ》
「……救い?」
《ああ。だって、お前ずっと心の中で言ってただろ。死にたくないって、助けてくれって》
「…………」
《だから、救いだ。そして、この星。地球にとっても救いである》
「……は?」
《詳しい話は落ち著いた場所でしよう。まずはお前に授けた『プレゼント』を開いてくれ》
「……プレゼント?」
《ステータスを開くんだ》
不思議に思ったが、彼の言葉には思わず従ってしまうような、魔力があった。
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天原(あまはら) 疾人(はやと)
HP:15 MP:26
STR:12 VIT;10
AGI:09 INT:11
LUC:01 HUM;42
【アクティブスキル】
『武創造』
【パッシブスキル】
『スキルインストール』
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「……なんだこれ」
知らないスキルが二つも追加されていた。
《プレゼントと言ったろう? 簡単だ。たった三つのステップさ。一つは、狀況を確認する》
彼の言葉と共に、止められていた時間がき始め、重力によってが引かれる。
《二つは、スキルが自で発し》
“狀況確認完了”
“【落下衝撃減】【強化Lv3】【水面歩行】をインストール”
“発します”
そして、ハヤトは水面に著(・)地(・)した。そう、文字通りの著地。
何度か確かめるようにして、水面を踏む。わずかに波紋が拡がるものの、足は絶対に水の中には沈まなかった。
…………どうなってんの?
《最後にお前は助かるというわけだ。簡単だろ?》
「……はぁ」
《そう渋い顔すんなって、これからお前は英雄になるんだからさ》
「……英雄?」
《そ。まあ、歩きながら話してやろう。お前だっていつまでもここに居るわけにはいかないだろ? ハヤト》
それもそうだと思い、彼は岸に向かって歩き始めた。
「……俺の名前を」
《勿論、知ってる。さっきの衝突の時に頭ン中のぞかせてもらったからな。ついでにこっちに來るときに常識は方れてきたから大の話は通じるよ》
「なぁ……その、あんた、宇宙人か?」
ハヤトはよっこらしょと、川岸に上がって一息つく。
《その認識は間違いじゃないぜ》
「…………」
《どうした? 円盤みたいなUFOに乗ってくるとでも思ってたか? ご期待に沿えなくて、悪かったな》
そう言ってヘキサはけたけた笑った。その顔ですらも、思わず見惚れてしまうほどにしい。
「別にそれは良いんだけどよ……。その、地球にとっての救いってどういうことだよ」
《いきなり本題ってか。話の早い男は嫌いじゃないぜ》
「どーも」
《お前たちがダンジョンと呼んでいるがあるだろう》
「……あぁ」
今日の出來事を思い返してが堅くなる。
《ありゃ『星の寄生蟲』だ》
「……は?」
《文字通りの寄生蟲だ。その星の支配者にとっての『飴と鞭』を用意して適度に飼いならしたころに、側から星を喰らいつくす》
「…………」
《100層だ。ダンジョンが100層に到達した時、星の核(コア)は侵食され、星そのものが苗床になる。そうなりゃ終わりだよ。後は側から散させて、他の星目指して漂う隕石の群れ。宇宙の癌だ》
「…………」
《だから、私が來た》
どこに行くか迷ったハヤトは、とりあえず家に帰ることにした。
《そして、お前を選んだ》
「……どうして、俺なんだ」
《簡単だよ。理由は三つ。一つはお前が凡人だから。パッシブスキルの『スキルインストール』はアホみたいに容量(メモリ)喰うからな、すっからかんのお前がちょうど良いわけだ》
「なんつーこと言ってくれんだ」
流石に見ず知らずの相手にそんなことを言われると幾らハヤトでもむっとする。
《二つ目は、お前が弱いからだ。名を上げる英雄にはピッタリだろ?》
「……別に俺は」
英雄になりたいわけじゃない。
《最後にお前は、救ってほしがっていた。誰かに助けてほしいとんでいた。だから、私はお前を選んだ。安心しろよ、ハヤト。私は絶対お前を裏切らないから》
その言葉はとても暖かく、そしてくすぐったかった。
「俺は……ダンジョンを攻略するために助けられたのか?」
《そうだ。私はお前が適任だと思った》
ダンジョンのせいで自殺しようとしていたのに、ダンジョンのおかげで助かった。
その事実を喜べば良いのか、悲しめばいいのか分からずハヤトは閉口してしまう。
《一年だ》
「……は?」
《殘り一年で、ダンジョンはこの星の核にまで手をばす。そうなりゃ「バッドエンド」。だけど、それまでに並み居るダンジョンのボスたちを倒し、最奧に潛むダンジョンの核を壊せば「ゲームクリア」だ。ワクワクするだろ?》
「……しねーよ」
《んだよ。ノリの悪い奴だな。楽しんでいこうぜ。楽しんで》
「さっきまでの自殺志願者に何言ってんの」
《はははっ。ダンジョン攻略してれば嫌でも死にかけるぜ》
「……だろうな」
《なら、楽しまなきゃ損だろ?》
……そういうもんだろうか。
気が付けば止んでいる雨の中を、ハヤトはゆっくり帰路へとついた。
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