《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第05話 素材を売る探索者!
「お疲れ様です。し早かったですね」
時間は夕刻。もうしすれば、ダンジョンから上がってくる探索者たちでギルドが騒がしくなる頃合いだ。ハヤトは他の探索者より1、2時間ほど早い時間帯でいているため、混雑に巻き込まれなくてすむ。
「はい、今日はし調子が良くて」
「では、売卻素材を置いてください」
ギルドはその名の通り、支援機構だ。企業と提攜している探索者は、100%の値段で企業に素材を売卻できるが、企業と提攜できないハヤトのような探索者でもいくばくかの手數料を取るが、素材を企業へ売ってくれる。
ハヤトはポーチから様々なドロップアイテムをカウンターに置いていく。
「ゴブリン・ソーサラーに、ゴブリン・ファイターの魔石ですね。えっ、コボルト・リーダーの魔石まで……? いったいどうしたんですか。ハヤトさん」
「その……調子が良くて」
「では大きさと重さを測定しますね」
魔石は様々な用途がある。醫薬品、工業品、そして発電施設の燃料。今の文明にとって、魔石は切っても切れない関係にりつつある。
咲はハヤトから魔石を預かると、測定機にかける。
「はい。結果でました。手數料を引いて7426円です」
ゴブリン・ファイターの魔石が大500円くらいだ。
「なっ、7000円も……」
「ええ、凄いですね。ハヤトさん、今までで一日最大で幾らでしたっけ?」
「……3000円とかです」
「じゃあ一気に倍近く稼いだわけですね。凄いじゃないですか」
「7000円って俺の一年分の食費じゃないか……」
《えっ、あぁ。そういう計算するんだ……。……ん? じゃあ、一か月の食費が600円……?》
ヘキサは自分が地球に來るまでに覚えてきた常識と照らし合わせて、彼の言っていることが噓だと一瞬疑ってしまった。あの生活を見た後なら、その言葉が真実だと思わざるを得ない。
「またまた~。ハヤトさんは冗談がお上手ですね」
「はははっ。そうですかね」
《何を笑ってるんだ、ハヤト……》
ドン引きしながら決済を見つめるヘキサ。
現金がハヤトの口座に振り込まれた後、彼は探索者証(ライセンス)をリーダーに読み込ませた。ピッ、と心地よい電子音と共にダンジョンからの退出が認められる。
それだけではない、これで彼にはポイントが付與されるのだ。ハヤトは今、Dランク探索者。ポイントを稼ぐことでランクと、そしてランキングが上昇する。
國際(I)探索者(E)支援(S)機構(O)が定めるこの『世界探索者ランキング(WER)』は、全ての探索者が屬している。それは半年に一度更新され、世の中の全ての探索者の指針となり、また企業にとっても有力株の掘り出し指針となるのだ。
ちなみにハヤトのランキングは34萬8千746位。下位25%という雑魚も雑魚の位置だ。
「これでしはランキングも良くなりますかね」
「ふふっ。なると良いですね」
上位數千位以にると、企業に広告の打診ができる。そうなれば、生活もかなり安定するのだけど。
《おいおい、生活の安定なんてつまらないこと考えるなよ》
ふと、ヘキサが哂った。
《お前の目標は、ダンジョンの踏破(とうは)。そうだろう?》
(……まだ、決めたわけじゃない)
《ははっ。まあ、嫌でも向かうことになるよ。ダンジョンにな》
(…………)
それにハヤトは何も言わず、夜に狩りをする夜行の探索者たちとれ替わるようにして、ギルドを後にした。
《もう家に帰るのか?》
「いや、ちょっとニュースを見ていこうかなって」
《ニュース?》
ヘキサは首を傾げる。ニュースと言っても、ハヤトは電子デバイスを持っていないし、家にテレビは無い。だからと言って彼の家には新聞を買っている形跡はなかった。
それなら、いったいどこに……。
一方のハヤトはヘキサがそんなことを考えているとは(つゆ)ほども考えず、ギコギコと音を立てて自転車を漕ぐ。今にも沈みそうな太がまぶしい。
《おい。どこに行くんだ?》
「家電量販店」
《……は?》
そういうと、道路脇にある家電量販店へとハンドルを切って駐場に自転車を止めると慣れた足取りで店を進むと、テレビコーナーへと足を進める。
《お前、まさか……》
ハヤトはテレビコーナーの前で立ち止まると、さもテレビをするかのような表で夕方のニュースを見始めた。
《せこっ!》
(節約と言ってくれ)
午後のニュースと言っても家電量販店で流れているのはワイドショーだ。事件だけでなく、蕓能関係やゴシップまで幅広くやっている。
『今日のゲストは、なんとあのアイドルクラン『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』の方々が來てくださいました!』
司會がそう言うと、五人のたちがってくる。
《クラン?》
キャスターの言葉に疑問を覚えたヘキサがぽつりと口にだした。
(常識は覚えてきたんじゃなかったのか?)
《いや、概念自は知ってるが……》
仕方がないので、ハヤトがヘキサに説明した。
クランとは、探索者たちが力を合わせダンジョンを攻略するために作られた一つのグループみたいなものである。いわば探索者だけの企業だ。攻略する者、報を集める者、裝備を集める者、様々な役職に分かれてダンジョンを攻略していく。海外には數百人も探索者が在籍するクランがあるとか、ないとか……。
《あの戦乙‘s(ヴァルキリーズ)は》
(さっき言われた通り、アイドルと探索者の両方やってる人たちだよ。全員去年から始めたのにBランク冒険者なんだけど。……ははっ。笑っちまうよな)
《僻むな僻むな。去年から始めたってのにもう前線攻略者(フロントランナー)なのか。凄いな》
前線攻略者(フロントランナー)とは文字通り、ダンジョンにおいて攻略最前線を行く者たちである。並々ならぬ危険と共に、莫大な報酬が約束される探索者たちの花形だ。
(なんでも『これは売れる』と思った事務所の社長が金にを言わせてオーブとか裝備とか買いあさったらしいぜ? でもそのおかげで、今じゃあ時の人。いや、時の人たちって言ったほうが良いのかもな)
《いくらを與えられても、結局のところは自分の力だろうさ。へぇ、小娘ばかりだと思ってたが、案外骨のあるやつらなのかもな。お前と一緒で》
(…………へへへ……)
そう言って顔を赤らめるハヤト。
もしかしてコイツ、チョロいのではないかと思い始めるヘキサ。
テレビによるとなんでもそろそろ二枚目のアルバムを出すとかで、
(こんなに近いのに雲の上の世界みたいだ)
ワイドショーに出ている『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』の攻略報を見ながら、ポツリとハヤトはそう思った。
彼たちも探索者ということは、ハヤトと同じくダンジョンに潛っているということだ。けれど、あそこにいるのは人々の憧れ。2年間も3層で燻っているようなハヤトとは天と地ほどの差がある。
《大丈夫。お前ならいけるさ》
しかし、ヘキサは思念のままハヤトの肩を叩いた。
(そうかな)
《そうだとも》
(へへっ……)
《だが、それよりも》
(ん?)
《お前はもうし普通の生活を送ることを意識したほうが良いな》
(…………宇宙人にそれを言われんの?)
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