《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第11話 新階層へ降り立つ探索者!
「……草原、かぁ」
第六層に足を踏みれて、最初に出た想がそれ。
《なんだ? そんな微妙な顔して》
「いや、もっと楽しい景かと思ってたから」
《不満か?》
「ファンタジー溢れる景が良かったよ」
《まぁ、確かにこんなWindowsXPの壁紙みたいな景は、ファンタジー溢れてるとは言えないしなぁ》
「分からないで例えるのやめてもらっていいですか」
《そっか……。最近の若いのはXPを知らないのか……》
「あなた宇宙人ですよね?」
そんなやり取りをしながら歩いていると、ふと地面がぼこっと膨らんでいる。
「……モグラ?」
近寄って確かめようと思った瞬間に、地面から巨大な(くちばし)をもったミミズが飛び出してきた。その大きさ2m近く、全を甲冑(かっちゅう)で包んでおり、黒りするそのフォルムはどこからどう見てもひどくいのが伝わってくる。
「……ワームか」
ワームは威嚇するように大きく吠えると、全を振るって威嚇。だが、その瞬間にワームの頭をハヤトの槍が貫いた。
「予備作が大きいな、案外倒しやすいぞ」
槍を引き抜くと、茶のが噴出。一撃で絶命したワームは黒い霧になって、ダンジョンに消えていく。
《まだ6層だからな。そこまで敵の強さは跳ね上がらないだろう》
「ん、なんか落としだぞ」
《甲冑か》
「軽いし、いな」
これは6層に出沒する「甲冑ワームの鱗」は、その特から防に利用される。初心者向け(エントリーモデル)の中でも高級品、あるいは中級者向け(ミドルレンジモデル)でも使用されることがあるほど、丈夫な素材だ。
もちろん命を預ける防に使われる分、買い取り査定は厳しい。1200円~35000円とかなりの幅がある素材である。ちなみにハヤトが手にしたのは24000円ほどで買い取られるほどほど上質な鱗である。
「攻略本には6層の敵は《甲冑ワーム》と《レッサー・トレント》。あとは《ウィード》くらいかな」
《ウィードってなんだ?》
「何か人型の草らしいよ? ほら、そこにいるような……」
ぱっと視線を上げると、そこには3の人型をした草。鞭のようにしなった腕がピシンピシンと地面を穿(うが)つ。
「……せい!」
スキルも使わず一突き。人型の草、ウィードの心臓部分を貫くと、モンスターはぐったりと倒れた。すると、周りの二が倒れたウィードに駆け寄って必死に救命活を開始。
心臓マッサージ、人工呼吸。お手本のような救助活が始まった。
「やりづら……」
顔はないから表は分からないものの、なんだか泣きながら救助活を行なっているようにも見える。倒した張本人からすると、嫌でも心を痛めてしまう。
《罠だぞ、それ》
「……罠?」
ため息をつきながらヘキサが言う。
《どう見たって罠だろ。ダンジョンから無限に湧き続けるモンスターが仲間の命の心配なんてするものか》
「非だなぁ……」
とは言うものの、ハヤトも二突き。倒れた仲間を助けようとするウィードたちは三人仲良く地面に転がると、黒い霧になって霧散した。
「うわっ、何にも落とさなかった」
《まあ、そういうこともあるさ》
初心者探索者がよく勘違いすることに、モンスターは絶対にドロップアイテムを落とすというものがある。しかし、それは大きな誤り。モンスターは一定確率でしかアイテムを落とさないのだ。
「チッ、しけてんな」
《次行け、次》
痛んでいた心はどこへやら。無駄なモンスターを倒してしまった探索者からはこんな悪態しか出てこない……。
「とりあえず今日中に7層まで行く」
《やる気だな》
「もうちょっとここで戦ったらボスに挑戦してみるよ」
《良い調子だ》
戦いの道を與えられた狩人は、意気揚々と下層へ潛る準備を整え始めた。
その日の累計報酬は6萬4756円。前日の三倍近くを稼ぐことになった。
「最近どうしたんですか、ハヤトさん。モンスタートレインにあってから、まるで人が変わったみたいですよ」
「いやぁ、調子がよくて」
「なんだか、昔のハヤトさんを見ているようです」
「……あの、恥ずかしいのでそのころの話は…………」
「えぇー。私は好きでしたよ、二年前のハヤトさん」
「いや、マジで黒歴史なんです……。勘弁してください」
《昔?》
ヘキサはそう聞き返して、読み取ったハヤトの過去を再び読み直した。
《ははぁ、なるほど……》
それでハヤトのことに納得がいったヘキサがにやけながらそう言った。
「すっごいギラギラしてましたもんねぇ……。中學生とは思えないほど、目が怖かったですもん」
「本當に……本當にお恥ずかしい限りで……」
実を言うと、ハヤトは二年前の一瞬だけ前線攻略者(フロントランナー)だったのだ。彼は5層までは誰よりも早く突破していた。しかし、當時の彼は中學生。14歳である。そんな男の子が前線攻略者(フロントランナー)なんていう甘(かんび)な名前を手にしてしまったのだ。
當然、イキった。そりゃあもう、當時の同業者からネットで散々悪口を書き込まれるほどにイキり散らした。それに廚二病が加わっているものだから、目も當てられないほどにイキったのだ。
結果として誰もパーティーを組んでくれなくなり、単獨(ソロ)攻略するしかなくなったのである。防もなく、武も己の拳だけという野蠻人スタイルが通用するのは4層のボスまで。
5層から先に彼は進めず、イキってた頃の反でボロクソ叩かれ沈む一方という悲しい過去を持っている。今では完全に自業自得だったと思っているが。
流石にあれから二年近く経ったので、探索者のほとんどはその事実を知らないし、當事者たちの多くも忘れているが、本人はそれを忘れることなく黒歴史として封印したのだ。
「昔は私のこと口説いてましたもんね」
とても懐かしい目で過去を振り返る咲。
「その節は……ご迷をおかけしました…………」
新卒でった職場で中學生に口説かれる気分はどんなんだったのだろうか。
「あら、責めてるわけじゃないんですよ? ただ、懐かしいんです。あの頃のハヤトさんが戻ってきたみたいで」
ふふふと笑う咲。いつもは小系なのに、今日はなにやら小悪魔系にも見える。
「いや、もう、マジで勘弁してください」
涙目になりつつあるハヤトにいじらしく咲が笑った。
「ふふふっ、じゃあここまでにしておきましょう」
「……うぅ、遊ばれてる……」
咲は微笑みながら手元の機械を作。ハヤトの口座に振り込みと、ダンジョン退室の処理を終わらせる。
「ねえ、ハヤトさん。あの時、私がなんて言ってたか覚えてます?」
「……『素敵な大人になれば付き合ってもいい』ってやつですか? 覚えてますよ」
ハヤトが咲を口説いていた時、咲はいつも笑いながら「素敵な大人になったらね」と流していたのだ。
「あと、二年ですね」
咲がそう言ってにこりとする。そのくるしさに思わずハヤトは、
「もー、咲さん冗談きついっすよ」
と言って、笑い流したのだ。
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