《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第21話 ブラック労働は辭めましょう!
「おーい、早くこーい」
我先にと階層主(ボス)部屋の中にっていったダイスケにドン引きしながらハヤトも階層主(ボス)部屋にると遅れて背後の扉が閉まった。
「えぇ!? なんで準備も何も確認せずにるんですか!」
「ああ、説明してなかったな。今はヴィクトリア(ウチ)の恒例(こうれい)特訓『滝登り』の最中なんだ」
「なんですか、その鯉(こい)が竜になりそうな名前の特訓は」
「その名の通り、1階層から現在攻略されている23階層までぶっ通しで突破していく特訓のことです。これを乗り越えた団員は確実に強くなるので『滝登り』と呼んでるんですよ」
「はっ!? じゃ、じゃあ、この人たち1階層からぶっ通しで上がってきたってことですか?」
「そ。7時間休みなし」
「ブラックだ……」
「クランは會社じゃねえからな。労働基準法は通用しねえのさ」
そういってゲラゲラ笑うダイスケ。
……いつか絶対後ろから刺されるぞ。
「おらァ! お前らの大好きなワイバーンだぞっ!!」
ダイスケの後ろにいた四人組はダイスケの言葉にしだけ気合をいれた素振りをみせるとボロボロので空に向かって魔法スキルを使い始めたが……。
「……全然命中しませんね」
「あぁ、この特訓はアイテム止なんだよ」
「MPポーション無しですか?」
「ああ」
「裁判起こされたら負けますよ」
完全にMPを切らしたことは無いが、0に近づいていくときの気持ち悪さは嫌というほどこのに沁みついている。まさかその狀況で階層主(ボス)と戦わされているだなんて、(つゆ)ほども考えていなかった。
「攻略中にアイテムが無くなった時にモンスターは待ってくれないだろ?」
「…………」
「俺たちはアイテム切れで死んでいく探索者を嫌というほど見てきた。だから、ここでアイテム切れで戦っていくをに著けさせるんだ。もし、攻略中にアイテムが切れても死なないようにな」
「……攻略クランは大変ですね」
「ああ。けど楽しいぜ?」
ダイスケは戦っているクランメンバーから一切目を離すことなくハヤトと會話する。萬が一の事態が起きた時にすぐに助けにれるようにするためだろう。
ハヤトも時々忘れそうになるが、ダンジョンは死地だ。気を抜けばすぐにでも死んでしまうのがダンジョンだ。そんな中で他人の命を預かって攻略の最前線を走っているダイスケも冷靜になって考えてみれば十分に狂人の部類だろう。
「あの子、もう限界ですね」
ふと、久我が四人の中にいた一番背の高い青年を見ながらそう言った。その瞬間、青年は電池の切れた玩(おもちゃ)のようにがっくりとその場に倒れ込んだ。
「んー。こいつらには15階が限界かな」
ダイスケの言葉と共に一人、また一人と倒れていく。気力の糸だけで持っていたチームが、一人の退で次々と崩(くず)れていく。
「……ッ! 危ない!!」
泡を吹いたまま倒れているに向かってワイバーンが急降下を仕掛けた。その場の誰よりも先にいたのはハヤトだった。
“【神速の踏み込み】【軽量化】【一點集中】をインストールします”
“インストール完了”
踏み込む瞬間に【神速の踏み込み】を発。パッシブスキルの【軽量化】によって軽くなったハヤトのがスキルによって加速して、20mはあった距離を瞬(まばた)きの間に零(ゼロ)にした。
「ハァッ!!」
今まさにのを貫こうとしたワイバーンの(クチバシ)にハヤトの短槍が突き刺さった。タイミング良く【一點集中】を発。ズドンッ! 腹の底まで響く重低音。槍がワイバーンのを吹き飛ばして階層主(ボス)部屋の壁に叩きつけた。
それで、ワイバーンのHPが0になった。
ワイバーンはを黒い霧に変換すると、中にごとりと一際大きな鱗(うろこ)を落とした。
「どうだ、久我。しくなったか?」
「えぇ。是非とも、ウチの前線組にれたいですね。安定が増しそうです」
二人の會話は無視して鱗を拾った。
「……手柄奪っちゃいました。申し訳ないっす」
「死者はともかく怪我人くらいは予想していたが、お前のおかげでゼロだ」
「報酬くらいは支払ったほうが良いのでは?」
「久我の言う通りだな。ならそのドロップアイテムやるよ」
「いいんですか? 力を削ったのはヴィクトリアの方々ですけど」
「お前がいなきゃ、誰か死んでたかもしれないんだ。け取ってくれ」
「……そういうことなら」
あんまり否定しすぎるのもかえって失禮かと思い、ハヤトは素直にワイバーンの鱗をけ取った。
「ダイスケさんはこれからどうするんですか?」
「こいつらが目を覚ますまではここにいるつもりだ。幸いにして15階層(ここ)は不人気だからな」
「じゃあ、俺は先に降りときますね。今日は參考になりました」
「おう! いつでもお前を待ってるぜ。また連絡してくれ」
「はははっ。気が向いたら連絡しますよ。では」
ハヤトはそう言って介抱しているダイスケと久我に別れの挨拶を告げて階下に向かった。
《なぁ、ハヤト》
「……どした?」
誰もいない石造りの階段で16階層に降りている最中にヘキサがそう聲をかけてきた。
《……分かってるよな》
無言の圧力。
「……いや、セーフだって。止(とど)めは俺だったし…………」
《力の八割以上を削ったのはアイツらだぞ?》
「……地上の敵なら、俺一人で削れるから」
《はーやーとーくーん?》
背筋が凍るほどのしい顔でヘキサが嗤う。
《君は他人の力を借りて15階層を突破して満足してるわけだ》
「いや……違う……」
《その癖、味しいところをかっさらってドロップアイテムまで貰っちゃったもんねぇ》
「…………」
《…………》
ハヤトは黙ったまま16階層への扉をゆっくりと開いた。ヘキサはそんなハヤトの周囲をへらへらと笑いながら浮いている。
「…………分かってるよ」
《ほう? では、どうするんだ?》
「再走すりゃ良いんだろッ!? やってやるよこの野郎!!」
《15階層だけか?》
「……えっ?」
《ヴィクトリアのメンバーは地獄のような訓練を抜けていたよなぁ……》
「……あの、ヘキサさん?」
《やっぱり前線攻略者(フロントランナー)はあれくらいの特訓が必要だって思い知ったわけだよなぁ……?》
もうここまで來ると薄々、察するものがある。
「……一人でやるのは危険だと思うぞ。俺は」
ハヤトのせめてもの抵抗は、
《私がいるだろう?》
という、言葉によって完全に潰された。
《明日、1階層から15層まで『滝登り』だな》
「チクショー!!!」
び聲は虛しく16層に消えていった……。
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