《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第33話 地獄へ向かう探索者!
24階層は「館」エリアと呼ばれるダンジョン唯一の人工で作られたエリアである。道幅は2mほどでエリアは迷路のようにり組んでいるため見通しは悪く、敵(モンスター)と出會った場合、逃げ出すことは困難だ。館エリアと呼ばれる所以(ゆえん)はまさに道端にかかっている無數の絵畫(かいが)だろう。エリア全がうっすらとした照明に照らされているため、エリア全が薄暗い。
その中にハヤトの探索者証(ライセンス)から警告音が響き渡る。
それはともすると単獨(ソロ)で10階層にったときの警告音にも聞こえた。だが、違う。もっと本能の奧底に響き渡るような恐怖の音だ。
『ハヤトさん! 今24階層にいますよね!?』
ふと警告音が鳴り響いている探索者証(ライセンス)の音が止まると同時に咲の聲が響いた。かなり音質は悪いが、聲が聞こえないほどではない。
「咲さん? 何かあったんですか?」
『ああ、良かった。無事なんですね。たった今、ギルドから急警報が発令されました。Bランク以下の探索者はすぐに帰還してください!!』
急警報とは、ダンジョンになんらかの異変が発生した時にギルドが発令する警報だ。これを聞いた探索者は速やかな帰還が推奨される。そうでない場合は命の保証ができないのだ。
ただ、それにしてもBランク以下というのは穏やかではない。Aランクの探索者は日本に100人程度。一握りの數ない人間がたどり著ける極地である。そんな人間しかダンジョンにれない? 何が起きてるんだ。
「何が、起きたんですか」
『落ち著いて聞いてください。「ヴィクトリア」が壊滅。現在、ユウマさんとシオリさんに急連絡を取っています。二人とも五日間の制限で今日はダンジョンに潛ってないんです!!』
「ヴィクトリアが壊滅!? ダイスケさんは!!?」
あり得ない。初めて聞いた時、ハヤトはそう思った。
「ヴィクトリア」は前線攻略者(フロントランナー)のためだけに作られた攻略クランだ。クランメンバーはダイスケと久我が二人して篩(ふる)いにかけた猛者だけのはずだ。それが壊滅……? それは質(たち)の悪い冗談じゃないのか?
『連絡を取っていますが、返答はありません。ただ、金屬音が聞こえるだけで……』
「……ッ!!」
『ハヤトさん! ここは一時撤退を!!』
咲の言葉が頭を幾度となくめぐりまわる。
死んだかも知れない? あの、阿久津大輔が?
『世界(W)探索者(E)ランキング(R)』78位の化けが死ぬ? そんなこと……。
“【気配察知】【広域索敵】【地図化】をインストールできます”
“インストールしますか? Y/N”
ハヤトは流れるように“Y”を選択。
「すいません。確認してきます」
『ちょっと!? ハヤトさん!!?』
ハヤトはそう言うと探索者証(ライセンス)を防の中に押し込んで、スキルを発した。ばっ、と両目に24階層の地図が表示されると【広域索敵】の範囲にった敵が地図上に表示。それと同時に【気配察知】でじ取った他の探索者たちが地図上に表示された。
《ハヤト! 右上だっ!!》
ヘキサの言葉に弾かれ、視線を上げた先に探索者が30人近く固まっているのが見えた。「ヴィクトリア」は大所帯。これくらいの人數で攻略することは當然、考えられる。
「行こうッ!!」
ハヤトは撤退をび続ける咲の言葉を無視して地図の右上に向かった。
自分の知り合いが死んでいるかも知れないという現実がハヤトの心臓を激しく叩く。知り合いが死ぬかも知れないという恐怖は探索者なら、當たり前の覚だ。だが、ハヤトは久しくそんなことを忘れていたのだ。
それは偏(ひとえ)に阿久津大輔が『WER』100位以という事実ゆえにだ。
そんなもの、しょせん人の決めたものに過ぎないというのに。
「変だな……。モンスターがいない……?」
ハヤトは薄暗い廊下を疾走しながらそう口にだした。【広域索敵】のおかげでモンスターの位置は手に取るように分かる……はずだったが、地図の右上に行けば行くほどにモンスターの數は減っているのだ。
反対に左下にはモンスターが集結している。まるで、何かから逃げ出すように……。
《次を左だ!!》
「おうっ!!」
ヘキサの指示に従ってハヤトが右に曲がった瞬間に出迎えたのは地獄だった。思わずハヤトの足が緩み、立ち止まってしまう。
「……なんだこれ」
廊下のいたるところにはべったりとが付著しており、所々に人の臓や骨、あるいは四肢の一部が見えている。
それは強引に引きちぎられたようにも見えたし、鋭利なもので斷ち切られたようにも見えた。
そして、その地獄の突き當りを曲がった時だった。
「ダイスケさんッ!!」
そこには死の山の中に一人、地面に橫たわり、壁に頭をついてぐったりしている様子のダイスケがいた。
「……ハヤト……か」
「すぐにポーションを!」
見るとダイスケの腹には大きな。何で開けられたのだろうか。上級者向け(ハイエンドモデル)の防が飴細工のようにひしゃげ、崩れていた。ダイスケの右手と左腳が無い。傷痕からは雑に千切られた痕か骨が付きだしていた。腹からあふれ出すが河を作って流れている。彼が生きているのは、ひとえにHPが0になっていないから。
ただ、ステータスの恩恵なのだ。
「俺の……ポーチに……」
「喋らないでください!」
ハヤトはダイスケのまみれになったポーチを持ち上げると中から一番の濃い治癒ポーションを取り出す。Lv5なんて初めて見た。
「落ち著いて。ゆっくり飲んでください」
ハヤトはダイスケの頭を持ち上げるとLv5の治癒ポーションをゆっくりとに流し込んだ。ダイスケは震えながらゴクリと、音を立てて治癒ポーションを飲む。その瞬間、彼の傷口がに包まれた。
人智を超えた治癒ポーションが効力を発揮。傷ついたダイスケのを治していく。
「何があったんですか」
ハヤトの言葉にダイスケは首を振った。
「分からない……。後衛のび聲が聞こえた後、振り向いた瞬間にしぶきが上がった。敵はその瞬間に中核に切り込んできた」
「……人間ですか?」
「いや、背丈が3mくらいあったからモンスターだろう……。とりあえず、俺は足止めして、久我と數人をあっちに行かせた」
「何か、あったんですか? 逃がすためですか?」
「『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』が、攻略に來てんだよ……今日はな。俺は、子供(ガキ)が居るから、分かるんだ。あの子たちの親の気持ちが。……とんでもなく、怖いだろうよ。自分の子供を死地においやって喜ぶ親なんて……どこにもいないからな……」
「何が起きて、こうなったんですか」
「……分からねえ」
分からない? そんなことあるのか??
「開始10秒で後衛が全滅した。すぐ事の狀況に気が付いた魔法職の奴らが詠唱を始めたがその前に斬り殺された。その後、無我夢中で戦ったが……気が付けばこの有様だ」
「……スキルは、ダイスケさんのスキルは使ったんですか!?」
阿久津大輔は“覚醒”と呼稱されるタイプのスキルを持っている。いや、これはダイスケだけではない。100位以に存在するあまねく超々高位ランカーたちは皆、己を現わすスキルを極めたスキルを持っている。
「……使う間もなく、これだよ。……まったくもって、面目ない」
「分かったからポーションを飲んでください!」
「……あとは自分で……飲める。ハヤト、頼みがあるんだが……」
「なんですか!」
「く、久我を……追いかけろ……。あの化けは……アイツらを追いかけて……」
「……ッ!」
「大人(親)に裏切られた……お前に……大人から頼むのは……卑怯だと、思うが……」
「……何を言ってるんですか」
「俺は……守れなかったから!」
その時、ハヤトはダイスケの目に涙が浮かんでいるのが見えた。
「お前しか、いないんだよ……お前だけなんだ!!」
「…………どうして、俺なんですか」
「俺には『ヴィクトリア』を守れなかったッ……。だから……もう、お前しか、頼れない……!」
「……っ」
ハヤトはダイスケに治癒ポーションをしっかり持たせると立ち上がった。
「分かりました」
ハヤトはダイスケが指した方角に向かって走り出した。自分にどうにかできると思ったわけじゃない。どうにか出來ると思い上がったわけじゃない。ただ、やらなければいけないと思っただけだ。
地図の先には、激しくき回る8つの人影があった。
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