《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第36話 自覚が無い探索者!
「それで、倒しちゃったんですか? 53階層の階層主(ボス)モンスター」
「おう」
「男の子ですねえ。ご主人様も」
ハヤトとエリナが居るのは市の中核醫療病院。「ヴィクトリア」壊滅の知らせをけたあと、様々なAランク探索者が救援に駆け付けたが、事態は既に収束しておりそこにいるのは瀕死の探索者たちだった。
その後、すぐに救急隊が派遣され彼らは大病院へと搬送されることになったのだ。勿論、ハヤトもその例にもれず一緒に搬送された。
右腕は砕骨折。全のが裂け、圧だって異常値を計測しっぱなしだったためである。流石にダイスケや久我、また『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』よりは軽傷だったが、だからと言って無視して良い傷ではない。
「はい。むけましたよ。あーんしてください」
「あーん」
流石は料理スキル保持者。持ってきた果ナイフでものの十秒かからず林檎の皮をするすると剝いてしまっていた。
「どうです? おいしいですか?」
「果がに染みるぅ……。うーん、やっぱり俺は林檎が好きだよ」
「……ご主人様が何年林檎を食べてないのか私は存じ上げませんけど林檎は味しいものですよ」
「うんめぇ~」
「未來の海賊王みたいなリアクション取らないでください」
しみじみと林檎の味を噛みしめていると、ハヤトが院している部屋の扉が開いた。
「いよォ! 元気にやってるか」
「団長、うるさいですよ。やあ、ハヤト君」
「ダイスケさんに久我さん!」
ヴィクトリアの二枚看板が見舞いにやってきた。ダイスケの怪我は完治しているが、久我の怪我はLv4の治癒ポーションでは治らず、まだ三角巾で右腕を吊るしていた。
「巷(ちまた)じゃお前の噂で持ち切りだぜ。攻略クラン『ヴィクトリア』を壊滅させた化けを倒したのがDランクの探索者だってんだからな。はい、これ土産な」
そう言って果詰め合わせを渡してくるダイスケ。病院食はあんまり味しくないからこういうのは助かる。
「あ、どうも……。って、そんなじになってるんですか? まあ、確かにテレビでも取り上げられてましたけど」
昨日、病室にあるテレビをつけたら「謎の探索者、ヴィクトリアを救う!」とテロップが踴っていた。恥ずかしくなってすぐに消したが。
「全國ニュースになってますからね。かなり有名ですよ、ハヤト君」
「へぇ……」
病室はハヤトだけの個室なので、テレビもあるのだが付けることはほとんどない。日がな一日、ヘキサかエリナと喋っているからだ。
それにネットもないので、自分がどれだけ有名になったのかあまり実がないのである。
「さっきお前の部屋から出てきたのは……ありゃ誰だ?」
「『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』の誰かのご両親らしいです。娘を助けてくれてありがとうって言われましたよ」
「はははっ。まあ、そうなるだろうな。んじゃ、お前の周りにあるこの土産の品って……」
ハヤトのベッドの周りには様々な見舞いの品が置いてあった。先ほどの『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』のメンバーの両親からもらった品も勿論あるし、そもそもメンバーからのものもある。
「ええ、まあ、その関連のですね」
昨日なんかは蕓能事務所の社長がやってきて直々に謝を伝えられた。
「気持ち良いだろ」
ダイスケはそう言って笑うと、席にどかっと座った。対照的に久我は靜かに座る。
「エリナちゃん、俺にも林檎くれや」
「はい。どうぞ」
どこから取り出したのか、リンゴにそれぞれ楊枝(ようじ)が刺さっており久我とダイスケに差し出される。エリナ、なんて良く出來た子!
「ヴィクトリア(ウチ)からもお前に禮をしたいんだが、なんかしいもんあるか」
「しい、ですか……。うーん、今あんまりしいもの無いんですよねぇ」
「金は?」
「なんですぐお金の話になるんですか……。大丈夫ですよ。足りてますって」
「ホントかァ……?」
そう言って疑いの眼差しを向けてくるダイスケ。
だが、流石に今回ばかりは本當である。23階層の階層主(ボス)モンスターから手にれた果。あれは『スキルレベルの実』と呼ばれる世界で初めて見つかったアイテムで、食べた人間のスキルのレベルを全て一段階上げるという実だったのだ。
これが、アメリカのランキング上位者(ランカー)に高く売れた。なんと1070萬円である。
なんだかよく分からないままハヤトは『$10,700,000』と書かれた電子書類にサインした。ヘキサも咲もかなり大はしゃぎだったがハヤトからするとどうしてそんなに騒ぐか分からない値段である。
次に『忌の牛頭鬼《フォビドゥン・タウロス》』が落とした皮だが、こちらはなんと5000萬円で売れた。
なんでも皮一枚だけで戦車砲のエネルギーにも耐えられるだけの防弾を持っているらしい。こちらは防衛相お抱えの組織がほくほく顔で買い取っていった。後々、咲に聞くと向こうは5倍以上の値段を吹っ掛けられることを想定してハヤトに持ちかけてきたらしい。
ハヤトとしては5000萬も1億も現実味がないということで一緒の扱い。面倒な契約書を読みたくなかったのでさっさと決済を終わらせたのだ。
というわけで〆て1億3700萬円。來年、所得稅でかなりの額が持っていかれても懐はアチアチなのだ!
「というわけでお金には困ってないんですよね」
「うーん、そうなると何が良いかな」
「後日に出直しても良いんじゃないです、団長」
「そうすっか」
そう言って刺さっている楊枝を無視して素手でリンゴをかじるダイスケ。
せっかくエリナが出したんだから楊枝くらい使いなよ……。
「あ、そうそう。ハヤト君、來期から多分AランクかBランク探索者だよ」
「……はぇ?」
「僕は日本(J)探索者(E)支援(S)機構(O)に友達がいるから噂なんですけどね。そんな話を聞いたんですよ。ランキングも相當上昇するみたいで……。なんでもギネス記録に載るかもって、JESOはもっぱらの噂なんです」
「嫌だァ!! 目立ちたくないッ!!!」
「どうした、急に」
「俺、今目立つとヤバいんですよ!! なんとかしてくださいよ!! ダイスケさん!!!」
「んなこと俺に言われてもなぁ……。マスコミに圧かけられるほど力ないし」
「それより、どうして目立つとマズいんですか」
「俺一か月前に衆人環視の中でスキル使ってるんです! 有名になるとそのこと掘り返されるかも知れなくて……」
「馬鹿やったな、お前」
「だってこんなことになるなんて……」
あの時は自殺するつもりだったし……。
「だいじょーぶ」
ふと、ハヤトのびを聞きつける様にして扉が開いた。そこからってくるのはダウナー系の。
「ひッ! シオリッ!!」
「私に任せて」
「…………案があるのか」
「うん。來た警察を斬ればいい」
「ばかっーー!!」
どうしてそんなに脳筋なんだよッ!!!
久我もダイスケも大笑いである。
夜。世界は人工ので包まれる。
そこを行きかうのは無數の人と車。
大きなスクランブル差點には今話題のアイドルグループが映っていた。
彼が言うのは先日起きた凄慘(せいさん)な事件。そして、それを一人で解決した探索者の話。
ほとんどの者はそんなものには目をくれない。今朝のテレビでもスマホニュースでも繰り返されることによって飽和してしまった報はほとんどの者には屆かない。
だが、それを見上げるやせこけたが一人。そこに居た。
『私、気絶しててほとんど覚えてないんですけどぉー』
そこにある報は彼にとって未知のばかり。
「すごいなぁ……」
アイドルグループの中に、彼の素をしだけ知っている人間がいたので軽くだがその話になった。食うにも困るような狀況で探索者を続け、まったくの無名の探索者があの事件を解決したのだという。
「私も……お金があればなぁ……」
確かに、探索者は儲かる仕事だ。だが、それ以上に金がかかる仕事でもある。
夢を見るには厳しい仕事だ。
はそれが分かっているから、今日も同じようにして年齢を偽って働いている飲食店へ向かった。
があれば影もある。多くの人で溢れる通りの中、ちらりとディスプレイを見た年はそっとため息をついた。それは、呆れたのか。それとも驚いたのか。
「まだ生きてたのか。あの馬鹿」
年は、隠し持った刀を手に今日も魔を狩りに行く。
脳裏によぎったのはかつての兄の姿だった。
to be continued!!!
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