《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-1話 金持ち探索者!

「退院おめでとうございます!」

ぱんっ、と五畳半の部屋に間の抜けたクラッカーの音が響いた。

「三日しか院してねえけどな……」

《しかも無事なのにマスコミがうるさいとハヤトがごねたから長引いたんだしな》

「なんでも良いんです! さっ、ご馳走の用意ができてますよ! 食べましょ!」

「そうだな。食べよ食べよ」

そう言ってせっせとクラッカーのごみを片付けるハヤトとエリナ。ヘキサはぷかぷかと宙に浮くのみである。

「そいやヘキサさー」

《ん? どうした?》

「思念とかなんとか言ってたけど、実化もできんのか?」

《さぁ》

「さぁって……」

《私はこの星の生きじゃないからな。ここが生存可能領域(ハビタブルゾーン)なのかどうかは調べないと分からんし》

「調べてから來いよ」

《寄生すりゃどこだって生きていけるのさ》

そう言うヘキサは笑い顔。ハヤトの疑問なんぞはどうでもよさそうである。

「それにしても、この家……狹いな」

ごみを纏めてポツリとハヤトは呟いた。

「今頃ですか?」

《あの病室広かったな》

「んでも、著あるし……引っ越すのもなぁ」

「いやいや、事故件ですよ? なんで著がわくんですか……」

「エリナは幽霊怖いのか?」

「存在しないものが怖いんです!」

「大丈夫だって。出ても祓えるし」

「前もそんな會話しましたけど、あれってホントに祓えたんですね……」

「もちろん」

天原は払魔の一族。幽霊退治なんぞはお茶の子さいさいである。

「ここが五人連続で自殺したのはただの偶然。幽霊も呪いもなーんにもないよ」

《ほんとかぁ? お前、才能無くて家から追い出されてるんだろ。お前に見えないだけじゃないのか》

「あー。それは無きにしも非ず」

「あるかもしれないじゃないですか!!」

エリナは全を震え上がらせた。

「あ、そうそう。俺、防を新調しないといけないんだよね」

エリナが作ってくれたご馳走を平らげて、橫になったハヤトはポツリとそう言った。

《『忌の牛頭鬼《フォビドゥン・タウロス》』との戦いで完全に砕け散ったもんな》

「中級者向け(ミドルレンジモデル)だけど、頑張ってきたほうだって」

本當は20層に足を踏みれた時點で購を考えていたのだがあまりの値段に諦めていたのだ。

《ついに上級者向け(ハイエンドモデル)に手を出すときが來たのか》

「數千萬の防か……」

「それって一つの資産ですよね」

「現実味が湧かねえよ。なあ、ヘキサ。ダンジョンって今どのくらいまで長してんの?」

《54階層だ》

「んで、今24階層でしょ? あと11か月で殘り30階層攻略すんの? 無理じゃね?」

《どこが無理なんだ。三日に一層ずつ攻略していけば余裕で間に合うぞ》

「それ理論値じゃん……」

「そういえばダンジョンがクリアされると奉仕種族(わたし)ってどうなるんですか?」

《ダンジョンの核を破壊されたら、そこからダンジョンは長しなくなるだけでダンジョンの中のモンスターは湧くし、アイテムも普通に使える。奉仕種族(メイディアン)も何一つ不自由なく暮らせるはずだ》

「やりましたね! ご主人様!! ずっと一緒ですよ!」

「そりゃ良いな」

エリナがいないとまともに生活できないほどにハヤトの暮らしはエリナに依存している。もう彼無しの生活など考えられぬほどに。

「とりあえず、明日買いに行こう。例のところに」

「例のところって……あそこですか?」

「そう。あそこ」

今まで幾度となく足を運んだが、武や防のあまりの値段にすごすご逃げ帰っているあそこである。ハヤトはあそこの店の名前を知らないし、エリナも知らない。なんて言ったって看板すら出ていないのだから。

探索者の中でも相當に優秀な人材しか足を踏みれることができぬ店なのだろう。本當は誰かの紹介で行くような店じゃないのだろうか。

「いつも買わずに出てましたもんね」

「ああ。だが、今回は違うぜ。一千萬でも二千萬でも一括で買ってやるぞ!!」

ということで翌日の晝12時。ハヤトたちは件(くだん)の店へとやってきていた。

「いらっしゃいませ。天原様」

「ど、どうも……」

るなり名前を呼ばれてハヤトは驚愕。その後ろを歩いていたエリナもちょっと立ち止まった。

《お前も有名になったもんだな》

(急に名前呼ばれると普通にビビるっつーの)

人の噂をハヤトだけで留めることはできるはずもなく、先日の一件でハヤトの名前は多くの人が知るところとなった。全スーツでかっちり決めたお兄さんもそれでハヤトの名前を知ったのだろう。

「今日はどういったご用件で?」

「防の上級者向け(ハイエンドモデル)を、買いに來ました」

「こちらにどうぞ」

流れるようにスムーズなきで奧へと案されるハヤト。

「天原様は単獨(ソロ)攻略者ということで防は軽裝寄り、ということでよろしいでしょうか」

「はい」

をがちがちに固める重防護の探索者はパーティーにおいて、全ての攻撃をけ止める盾役(タンク)が著込むものである。分厚い鎧はそれだけ重たく、それようの訓練をしていないと持ち上げることすら難しいのが現実だからだ。

それに盾役(タンク)の本懐は敵の攻撃を引きけることであり、敵を倒すことではない。攻撃役(アタッカー)も防役(ディフェンダー)も一人でやる単獨(ソロ)攻略者にとって重たい鎧を著込むメリットが無いのだ。

「こちらでございます」

そう言って店員が指した先にあったのは、數々の上級者向け(ハイエンドモデル)。最低価格はなんとなんとの500萬円。そこより上は青天井である。値札の0が多すぎて眩暈(めまい)がしそうだ……。

「お兄様、これなんてどうです?」

「ん? うおっ……1000萬か……」

そこにあったのは紫を基調としたコートにも見える軽裝の防。どこか微(かす)かにっているように見えなくもない。

「こちらは24階層で手にります『紫鉄貝(シテツガイ)の重』によって、同じく24階層のドロップアイテム『アートワームの糸』を染したものを使わせていただいております」

「防力は?」

「折り紙付きでございます。何よりこの防の素晴らしいところはきのアシストが行われる點でしょう」

「アシスト?」

「はい。『紫鉄貝(シテツガイ)の重』で染めたことにより、筋力増強(STR上昇)の効果が確認されております」

「これは一式防なんですか?」

「ええ、そうですよ」

「買いますか? お兄様」

「全然あり」

「ありがとうございます」

「ただ、もうしだけ見てもいいですか?」

「勿論でございます」

承諾も取ったので店を歩き回るハヤト。だが、案の定というか単獨(ソロ)攻略者用の防はほとんど取り扱われていなかった。それもそうだろう。前線攻略者(フロントランナー)たちは9割以上がパーティー攻略だ。

ない単獨(ソロ)攻略者のために防を作るとなると採算が取れないのだろう。

「じゃあ、それにします」

結局ハヤトはエリナが指した紫の防を買うことにした。

「お買い上げありがとうございます。では天原様ののサイズを測らせていただきますのでこちらにどうぞ」

「えっ、サイズ測るんですか?」

「ええ。もっとも著やすくなるサイズへと変更してからお屆けに上がりたいと思います」

「な、なるほど」

大量注、大量生産の安とは違うというわけである。

ちなみにサイズの変更にかかる時間は三日だというのだから、プロの技はすさまじい。

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