《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-7話 救いを求める探索者!
「これが新発見のドロップアイテムです」
ハヤトは夕暮れのが差し込むギルドの付で、アイテムを差し出した。
「では鑑定に出しておきますね。明日の夜には結果が出ると思いますよ」
「よろしくお願いします」
「ではそれ以外のドロップアイテムはこちらに」
「おっけーです」
とは言っても今日は24階層の「館」エリアで數戦。そして25階層の「山岳」エリアの地図化(マッピング)に力をれていたから、稼ぎとしてはそこまででもない。
「はい。全部で9萬4560円ですね」
それなのにこの稼ぎ。前線攻略者(フロントランナー)を目指す探索者が減らないわけである。ハヤトは退出処理のためにリーダーに探索者証(ライセンス)をれさせると、心地よい音と共に口座へと金された。
「どうです? 最前線は」
「広いんですよ……。無茶苦茶に……」
「そんなにですか?」
ダンジョンは異世界である。と、結論づけられている。
5層までは迷路であり、地中であると言われても納得できる所はあるのだが、6層の「草原」エリアからは太と青空が見えているのだ。これが別世界と言わずしてなんと呼ぶ。
空が青くなるまでに必要とされる大気は十數キロ分。勿論、數多くの研究者たちが研究に勤しんだ。しかし、空に飛ばした気球はどれも上空5km地點で消失(ロスト)。他のエリアも多の、幅はあるものの広さとしては五km四方の正方形を保っており、それ以上先には進めないように作られていたのだ。
例えば6層の草原エリアは5km地點に底も見えないほどの斷崖絶壁が立ちふさがっている。登山家やクライマーが底を目指して降りていったが、皆ロープが盡きるまで降りても底が見えなかったと帰ってきたのだ。
だから、基本的にダンジョンのエリアは5km×5kmが限界と言われていたのだ。
しかし、今攻略している25階層である「山岳」エリアにはこの限界地點が無いのである。いや、あるのかも知れないが未だに見つかっていない。前線クランは果てを目指して行進しているらしいが、三日たっても帰ってこないあたりに相當デカいと思われる。
しかも、「山岳」エリアは十時間ごとに季節が変わるのだ。春なら冬眠から目を覚ました系のモンスターに襲われ、夏は豪雨。秋は昆蟲や冬眠にる前の獣が、そして冬は降り積もった雪が敵として襲い掛かってくる。
先ほど降りた時は春だったためモンスターを倒すだけで良かったのだが、明日以降のことが心配で仕方がない。
「はい。清算が終わりましたよ。一週間後に新しいランクの通達とランキングが出ると思います」
「……いつも通りですね」
「私の見立てでは絶対ランクが上がると思うんですけど、気分はどうです?」
「落ちた時が恥ずかしいので、特に言わないでおきますよ」
そう言ってハヤトは笑う。
「ふふ、本當に変わっちゃいましたね。昔なんかはさっさとAランクに上げろと言ってたのに」
「その時の話は勘弁してくださいよ……」
「あ、そうそう。さっきシオリさんが大慌てで帰ってたんですけど、何かあったんですか?」
「いや? 何も聞いてないですけど、どうしたんですか?」
「うーん。ハヤトさんの話をしている時と同じ顔してたので、何かあったのかと思ったんですけど」
「何も無いと思いますよ……?」
そうと言い切れないのが、彼の怖いところであるが。
《大丈夫なのか?》
(分からん。さっさと帰った方が良いかも知れない)
「じゃ、今日はここらへんで」
「ええ、お疲れ様です」
ハヤトは咲に別れを告げて駐場からいつもの自転車を引っ張り出すと、家に向かった。
《ハヤトさ、自転車くらい買えよ》
(あぁー。そいやそうだな。でも怖いんだよなぁ。すぐに金がなくなりそうで)
《一幾らの自転車を買うつもりなんだ……。大それ大家さんの自転車だろ?》
(そうなんだけど、あの人新しい自転車持ってるから、半分譲ってもらってる形になってるんだよ)
《なら余計に買ってしまえ。億持ってる人間が錆び付きの自転車に乗ってたら恰好もつかん》
(……億?)
ドル円の認識の齟齬(そご)である。
ちなみにだが、アメリカの探索者とわした契約は未だに全額支払われていない。前金として30%は支払われたが、殘りの70%は『実』が屆いたらという契約になっているためである。と、咲が英語の読めないハヤトに分かりやすく教えてくれた。流石慶応。
「そろそろ考えても良いのかもな」
《何が?》
「生活レベルの向上」
《馬鹿。向上じゃなくて改善だ》
「……………」
ダンジョンから自転車で五分のボロアパートに帰ってきた。カンカンと、外につけられた錆びまみれの金屬製の階段を上がり、ハヤトが自分の部屋の鍵を取り出したときに鍵が開いているのに気が付いた。
《不用心だな》
「エリナのミスか?」
まあ、ああ見えてもちょっと抜けてるところも………………無い。
「うん?」
エリナは人間ではない。奉仕種族(メイディアン)だ。こと家事に関しては完璧に行う。ミスを起こすことなど、あり得ない。ドジっ子メイドが好きならあり得るかも知れないが、ハヤトはそこに萌えないのでエリナがドジを踏むことは考えにくい。
《とりあえずろう。ゴミを捨てに行っているだけかも知れない》
(あぁ。それならあり得るわ)
そう言って扉を開けた瞬間。
「ねえ、ハヤト。このだれ?」
「あら、はやちゃん。お帰り。なんで藍原ちゃんが、はやちゃんの家にいるの?」
ダウナー系のと、上品な服にを包んだがエリナを挾むようにして座り込み、互いに睨みあっている。その中心でいたたまれない顔をしていたエリナの顔がハヤトを見るなりぱっと輝いた。
「ご主人様!」
「「ご主人様!?」」
「來いエリナッ! 逃げるぞ!!!」
ヤバい奴とやばい奴だ。一緒の空間にいるだけで命がいくつあっても持ちはしない!!
「はいっ!」
ここで躊躇(ためら)わないのは流石と言うべきか。しかし、部屋の中にいるダウナー系は『WER』日本二位。二桁臺の猛者である。
「駄目。逃がさない」
彼は秒でエリナを追い越してハヤトの元を摑みあげる。
「って」
ヒュッバン!!!! と激しい音を立ててハヤトが部屋に放り込まれるとともに扉が閉まる。そのままシオリはハヤトの上に乗るような形で拘束。ハヤトをがっちりホールドする。
「一、どういうこと?」
「……こっちが聞きてぇよ。何でお前らがいるんだよ」
「私はこれを渡しに」
「何それ」
「プレゼント」
そういって段ボールを渡してくるシオリ。
「Amazonのダンボールをプレゼントつって渡してくるやつはお前が初めてだよ……。それで、何でプレゼント?」
「私とハヤトの出會った記念日」
「そんなの一々覚えてねえよ。帰れ」
「やだ。殺してくれるまで帰らない」
めんどくせえスイッチったぞ、コイツ。
「ああもう。上から退けろ! んで、何でお前がここに居るんだよ。ツバキ」
「はやちゃんのランクが上がりそうだから手を回しに來たの」
「帰れ」
「んー。それはちょっと無理かな」
「大、お前ら何で俺の家知ってんだよ」
「はやちゃんが前にウチで買いした時に住所書いたじゃない」
「悪用しねえって書いてあっただろ!」
「うふっ」
「うふっ。じゃねえよ! 帰れ!!」
「私は……」
「いや、良い。シオリは大想像つく」
「……そっか」
「なんでちょっと顔を曇らしてんだ? お前らやってること犯罪だって自覚あんの!?」
「「だって……」」
「だって?」
「「ハヤト(ちゃん)だし」」
…………。
「あの、ご主人様。こちらの方は」
「ツバキ、エリナに自己紹介してやってくれ」
ハヤトの言葉にはにっこり微笑んだ。
「私は八璃(やさかに)椿(つばき)。はやちゃんの本家、“草薙”家と同じ、三家の一つの“八璃(やさかに)”家の次期當主。そして「D&Y」の代表取締役社長なの! よろしくね」
「よろしくお願いします。それで、ご主人様とどういった関係なのでしょうか?」
口をらせたので妹設定を辭めたエリナがツバキに尋ねる。
「私ね、はやちゃんの許嫁(いいなずけ)なの」
その言葉でしーん、と場が凍った。
「あ、これ言って良かったんだっけ?」
「……駄目ですね」
「どういうこと。詳しく説明して」
シオリがハヤトの頭を摑み上げて問う。
ほらもう、モンスターがお怒りじゃん……。
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