《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-11話 絡まれやすい探索者!

翌朝、ダンジョンの場制限ですることもないハヤトはエリナと一緒に家屋に向かうことにした。したのだが、この街に家屋は無い。あるのは隣街ということで例によって例のごとく電車で移だ。

「どこのお店を見たいですか、お兄様」

「そもそも、家をどこで見れば良いのか俺にはさっぱりだよ」

「そうですねえ。ニトリや無印、IKEAなんかが鉄板じゃないですか」

《大塚家なんてどうだ》

「お兄様が買うわけないじゃないですか……」

《確かに》

やばい。固有名詞が一つも分からん。

三家の話をされてるときのエリナの気持ちがそうだと思うぞ》

(……ううむ)

そこは反省しなければ。

二人は流される人の波に乗って電車から降りると、エリナの案によって街を歩いていく。

「前からずっと気になってたんだけどさ」

手を引っ張ってハヤトを案するエリナを見ながらぽつりとハヤトが呟いた。

「どうしました?」

「なんでそんなにこの街のこと知ってんの?」

十數回來たハヤトですらも道をほとんど覚えていないのに、數回しか來ていないエリナが道案をしているのだ。まるで頭に地図でもっているかのように。

「それはですね。奉仕種族(メイディアン)に関係する事なんですけど」

「おう」

「初めてお兄様にれた時、社會常識(コモン・センス)を手するって言いましたよね」

「あぁ、何だか言っていたな」

「では、ここで質問ですが、社會常識(コモン・センス)とは何ですか?」

「えぇ? 難しいこと聞くな」

「常識というのはあくまでもその人が育ってきた環境でしかり立たないものです」

……なんか難しい話が始まりそうな予がするぞ。

「“天原”の家で育ったお兄様、“八璃(やさかに)”の家で育ったツバキ様。どちらにもそれぞれの常(・)識(・)がありますよね」

「そうだな」

“天原”において自らを鍛え上げることは呼吸と同じレベルにまで落としこまなければいけない。それがあの家の常識だ。だが、一方で“八璃(やさかに)”は金を稼ぐこと、そして稼いだ金で経済をいかに回すことを常に考えている。そう考えておかねばならないというのが彼の常識だ。

どちらも、本人の中では常(・)識(・)なのだ。だがそこには決定的な齟齬(そご)がある。

「では、お兄様のように著(いちじる)しく常識が欠けている方と契約した時は読み取るべき記憶は頼りになりませんよね」

「それには異を唱えたいが、まあそうなるな」

「だから、私たちは“ダンジョン”を通して世間一般の共通認識を手します。しかし、國ごとに風習が違うように異なる國の常識を手にしては奉仕種族(メイディアン)のみならず、お仕えする主(あるじ)にも迷をかけることになります。そのため、私たちはダンジョンの近隣地域の共通認識を手することになるのです」

「なるほど、分かったような分からんような……」

「近隣地域の共通認識を手するということは、その地域の地形も當然手されますよね」

「そうなの? そうなのかな」

「そうなんです。だから、私は地図がなくても道が分かるんですよ」

「へぇ……」

30%しか理解出來てないような気がするけど、いいや。どうせ二度と聞かないし。

ただ分かるのはダンジョンがそれをせるだけの力を持っているということ。

(なぁ、奉仕種族(メイディアン)って“飴”なのか?)

《ああ、そうだ。75階層以上の高階層に登ってきた探索者たちのモチベを奪うためのモンスターだ》

(……なるほどね)

もしウチに來ていた奉仕種族(メイディアン)がエリナでなければ、ハヤトは今頃どうなっていただろうか。それを考えて、彼は震いした。

そんなこんなで一軒目の家屋にると中をくまなく二人で見て回った。必要なのはとにかくベッド。そして、部屋が増えるのでカーテンである。しかし、的な窓のサイズが分からないので今回はカーテンの柄だけ見て回る。

ハヤトは暗い柄を好むのだが、エリナは可らしくデザインされたカーテンやポップなデザインを選ぶあたりにどうしても差をじてしまう。可いなぁ、エリナ。

《家屋デートはどうだ?》

(デートって……。まぁ、楽しいけど)

自分の知らない世界のを知ることが出來るのはとても楽しい。それが、自分一人では知りようのないことなら尚更だ。

自分が“天原”の家にいたのなら、むべくもなかった幸福。

それを、強く噛みしめる。

《そういえば本家からの手紙は良いのか?》

(當主の奴か? 実家は困るけど、俺は困らないし……)

向こうから縁を切ってきたのだ。天原家當主(ハヤトの父親)が直々に頭を下げに來るのが筋というものだろう。それに、ハヤトは実家の縁を切られた時點で“三家”の関係者ではない。

あの家がどう困ろうとも、知ったことではないのだ。

「どうです。お兄様、ベッドのサイズで気になるものあります?」

「落ちそうで怖いからダブルが良いな」

「でもお兄様って寢相が良いじゃないですか」

「実は俺、ベッドで寢た事無いんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。実家には和室しかなくてな」

「へぇー。舊家ならそういうこともあるんですね」

「リフォーム代をケチってるだけだと思うけどなァ……」

“八璃(やさかに)”という財閥の化けがいるから比べにはならないが、一応“天原”の家も相當に金はあるにはあるのだが。

二人は一通り店を見て周り、二軒目に向かう途中で、

「あっ、お兄様! スタバの新作出てますよ! 飲みましょ!!」

し休憩するか」

喫茶店で一度、休むことにした。

「エリナはどっちにする?」

「そうですね……。むむむ」

新作のフラペチーノは果(フルーツ)系が二つ。どちらにしようかと店の前で看板相手に唸るエリナ。

「俺はエリナが頼まないほうを頼むから、そんなに悩まなくても良いよ。換しよう」

「えっ! 良いんですか!? やったぁ!」

「よし、じゃあろう――うおおっ! 何々、誰!?」

ろうとした瞬間、グラサンマスクという怪しい人間に二の腕を摑まれて引っ張られた。

「久しぶりね。アンタがここにいるとは思わなかったわ」

「その聲は……ユイか」

「そうよ。今、暇でしょ」

「暇じゃない。妹とデートしてんだ」

「お兄様、またお知り合いですか?」

行く先行く先で絡(から)まれて流石のエリナも、慣れてきたのか呆れ顔だ。

ごめんね。こんな不甲斐ないお兄ちゃんで……。

「アンタ妹いたんだ。なら、なおさら都合がいいわ」

「何が良いんだよ」

「このままだと私が休日に一人ぼっちで街を散策する友達いない奴みたいに見られるから困ってたのよ」

「いや、現にそうだろ。他のメンバーはどうした」

「みんな昨日のライブで疲れて寢てるわ」

「そう……」

「お兄様、こちらの方は?」

「ユイよ。あなたのお兄さんと時々、相棒(バディ)を組んでるわ」

「お兄様の知り合いっての方ばかりですよね」

「違うんだって。絡まれるんだって」

多分、絡みやすい顔をしてるんだろう。捕食者と被捕食者の関係だ。

覚的には使い走り(パシリ)が一番近いと思う。

「ねえ、スタバにるんでしょ。私、ここの新作が飲みたかったの」

「一人で飲めよ。こちとら大事な妹を相手にするので忙しいんだ」

「何? 私にボッチでスタバにれって言うの?」

「そうだよ」

「10階層で一緒に攻略する相手が見つからなくて相棒(バディ)組んであげた恩を忘れたとは言わせないわ」

「お前もいなかっただろ」

「ああ言えばこういう……。良いわ、私が奢るわよ」

「何でそこまでボッチが嫌なんだよ」

こちとら二年間ボッチだぞ。

「だって一緒に遊ぶ友達もいない悲しい人みたいじゃないの」

「一人で楽しむ方法なんていっぱいあるじゃんか」

流れる雲を眺めるとか、地図帳眺めていきたい場所を想像するとか、爪楊枝をぶちまけて何本北向くかとか。

「うーん。それもそうなんだけど、昨日の今日だからそういう気分じゃないの」

「私は構いませんよ。お兄様」

「え、エリナ……」

なんて良くできた子なんだ……。涙が出てきた。

「ふうん? あなたはエリナちゃんね。髪の違うし、顔も似てないけど腹違いの兄妹(きょうだい)?」

「まあ、そんなじだ」

腹どころか種族も違うけど。

「じゃ、今日一日お邪魔するわね」

「邪魔するなら帰ってくれ……」

何でどいつもこいつも面の皮が厚いのだろう。

《探索者だからだよ》

ヘキサの正論が深くハヤトに突き刺さった。

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