《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-12話 説教される探索者!

「へぇ、引っ越しするの? 良いじゃない」

「そうなんです。今日はその家の下見に來たんです」

「へぇ。エリナちゃん小さいのにしっかりしてるのね。何歳なの?」

「1歳……11歳です!」

エリナが慌てて自分の間違いを訂正する。

えっ、エリナって1歳なの!?

種族が違うとは言え、なんだか犯罪臭がしてきたぞ……。

ちなみにエリナとは異母兄妹という設定にしたら普通に通じた。

「しっかし、両親がいないとはハヤトも大変ね」

それに加えて二人の両親はそれぞれ別の人を作って蒸発という設定である。シオリの家庭環境を丸パクリしたのだが、ユイは眉一つかさずにそれをれた。

「まぁな。けど、エリナがしっかりしてるから助かるよ」

「本當に。あんた生活破綻者の匂いがぷんぷんしてるし」

「どういう匂いだよ」

「ハヤトがお兄ちゃんで大変でしょ。エリナちゃんも」

「はい。凄く! でも、その分家事のしがいがあるんです」

「本當によくできてる子ね。ハヤトの妹にしておくのにはもったいないくらいだわ」

「そうだろう。自慢の妹だ」

「何でアンタが誇るのかまったく分からないけど、まあいいわ。混んできたし、そろそろ出ない?」

ユイの提案で三人は喫茶店を後にした。

「そう言えばこの間の時のお禮がまだだったし、プラスで何か奢るわよ」

「良いよ別に」

「この間というのは『招かれざる來訪者《イレギュラー・エンカウンター》』の時ですか?」

「そうよ。助けてもらったんだけど、何にも返せてないから」

「石鹸の詰め合わせもらったけど」

ユイが父親と一緒に渡しに來たのだ。母親がついて來ないあたりに何か暗いじてあんまり込みった話をしなかったが。

「あれでチャラになるわけないでしょ」

「そうか? 別にあれくらいで良いけど」

「あのさ。ハヤト、アンタは多くの人間の命を救ったの。それちゃんと分かってる? 私は勿論、「ヴィクトリア」も「戦乙‘s(ヴァルキリーズ)」も、ハヤトがいたから今こうして生きてるのよ。もっと自信をもって、もっと気合をれなさい」

「え。これもしかして、俺怒られてんの?」

「叱ってるの。カオリだって、アンタがポーションを飲ませたから後癥もなく昨日のライブだって普通にけたの。あの子、アンタに凄い謝してるんだから」

「カオリ……カオリ……」

頭の中で『戦乙’s(ヴァルキリーズ)』のメンバーを検索。ポーションを飲ませたというのは覚えているが顔が思い出せなかったので沈黙。

「背が一番小さい子よ」

「あぁ」

思い出した。両親そろってハヤトの病室に來た子だ。ダイスケ、久我についでの重傷だったらしい。両足は複雑骨折、右手は斷ち切られ、左手は砕骨折。背骨は折れて、脳挫傷まで起こしていたとか何とか。

これで三番目なのだから久我の負傷は異常だし、怪我が治ってないのにライブに行ってるんだから本人も異常だ。

「ハヤトのLv3の治癒ポーションのおかげで命をつないだの。本當に、謝してもしきれないわ」

治癒ポーションには治せる怪我に上限がある。例えば四肢欠損を治せるレベルであるLv3の治癒ポーションだが、これは四肢欠損+複雑骨折などの怪我を治すことは出來ない。この時、重傷の人間にLv3を飲ませるとどうなるのか。

延命措置を行うのである。

ポーションは命が失われないだけの最低限の治癒を施(ほどこ)すのだ。勿論、最低限の治療と言ってもポーションのレベルに依存するところはあるのだが。

「別に、謝してもらうために助けたわけじゃないんだ」

「ハヤトはそうかも知れないけど、助けられた側の気持ちを考えなさいよ」

「強引だな」

「それが私よ」

そう言われてしまうとお手上げである。

《良いじゃないか、英雄(ヒーロー)さんよ。禮だというのなら大人しくもらうと良い》

(むずがゆいんだよ)

《何だお前、照れてんの?》

案外可いところもあるじゃないかとハヤトを見直すヘキサ。

ハヤトは産まれてこの方、誰かから謝をされるという経験に乏しい。そのため、こうして面と向かって禮などを言われると照れてしまって仕方ないのである。

「私は活躍した人間がちゃんと評価されないのが嫌いなの。アンタはあれだけ凄いことをし遂げたのに、助けられた人たちしかアンタのことを知らないじゃない。それが凄く悔しいのよ」

「良い奴だなぁ。お前……」

「気持ち悪いわね。半泣きで迫ってこないでよ」

「…………」

「とにかく。ハヤトはもっと評価されるべきだと思うの」

「あー。それはちょっと困るんだ。今は目立ちたくないんだよ」

「何で?」

目立つことを疑うことなく是とするのはユイがアイドルだからか。

しかし、ハヤトとしてはそうも言っていられないだけののっぴきならない事があるのだ。

「俺、一か月前に衆人環視の中でスキル使ってるんだよ」

「何やってんの?」

「俺のせいで事故ったの子に【治癒魔法】を使ったんだけど」

「馬鹿……。ポーション飲ませればよかったじゃない」

「いや。「モンスタートレイン」に巻き込まれてポーション使った後で……」

「……ハヤトって「モンスタートレイン」に巻き込まれて逃げ切ったの?」

「命からがら」

「それはそれで凄いけど、そういった事があるなら確かに目立たないほうがいいわね」

「そういうこと」

「けど、私テレビとかネットで言っちゃったわよ? アンタに助けられたって」

「お前かッ!!」

やけに話題が途切れないと思ったよッ!

「ごめんね。そんな事だと知らなかったの」

「いや、別にそれは良いんだけどさ」

ユイの良いところであり、困るところは素直に謝ってくるところである。これをされるとハヤトとしては責めにくいし、何よりそのギャップに參ってしまいそうになるのだ。

「でも、知ってる人だけが知ってるというのもかっこいいじゃないですか」

「確かにエリナちゃんのその考えは否定しないけど。でも、やっぱり相応しい努力には相応しい評価をされるべきよ」

「それは、そういう業界にいるからそう思うのか?」

「それもあるわ。蕓能界なんて努力しなきゃ這い上がれないけど、努力したって必ず這い上がれるものでもないもの」

それはきっと、彼の業界だけではないはずだ。どれだけ輝かしい業績を殘したとしてもそれが評価されないなどありふれた話である。しかし、ここで一つ例外を上げるとするならばそれは間違いなく探索者である。

探索者は倒したモンスターがそのまま評価へと繋がるからだ。

「だからこそ、探索者(こっち)じゃ尚更そう思うのよ」

「なるほどなぁ」

それは彼の考え方だろう。

「俺は……誰かに認めてもらうくらいが良いよ。それだって大変だし」

誰かに認めてもらう。子供の頃は簡単なそれは大きくなるにつれてしだいに難しくなる。

親に認められなかった者は、尚更にそう思う。

「言わんとすることは分かるわよ。だから、私は認めてるって言ってるし、認めてるからこそ禮をさせろって言ってるのよ」

「じゃあ禮はけ取るとして、何してくれんの?」

「あんたがモテるようなコーデをしてあげる」

「お願いしまぁす!!!」

年頃の年がそんな甘い言葉に乗らないわけがなかった。

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