《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-15話 向かう探索者!

ピピピッ! ピピピッ! と、無駄に広い部屋の中にアラームの音が響き渡る。

「……ん」

布から半分だけを出してアラームを止めると時間を覗き込んだ。

「6:30か……」

《間に合うのか?》

「7:00の電車に乗るから余裕」

《さっさと支度しろ》

前の家より、大きな自分の部屋をぼんやり眺めてハヤトはばすと、スーツへと著替え始めた。今日は表彰式の日である。

「行きたくねぇ……」

《そうは言っても行かないわけにもいかないだろう》

「だからだよ……」

これがあるから昨日から憂鬱(ゆううつ)だったのだ。

「おはようございます! 朝ごはんは簡単に食べられるものを用意していますよ」

「さんきゅー」

未だに脳が覚醒していないので返事も適當だ。

もしゃりもしゃりと胃の奧にフレンチトーストを押し込めていく。エリナは一どこでこんなお灑落(しゃれ)な料理を覚えてくるのだろう……。

《おい、ハヤト! 時間! 時間!!》

「ん? うおっ!! やばっ!!!」

ぼんやりしていたら時計の針が6:40を指していた。

慌ててハヤトは胃に朝食を押し込むと、洗面所へと駆けこむ。

《何で顔洗う前にスーツ著ちゃうかね……》

(……寢ぼけてたわ)

ハヤトは忙しく手をかし支度を終える。

ちゃかちゃかと歯ブラシをかして歯を磨くと、口の中のものを吐き出した。

「じゃ、行ってくる!」

「申し訳ありません。本當だったら私もお側にいるべきなのですが……」

「いや、良いって。タイミングが悪かったし!!」

と言ってハヤトは慌てて外に出た。

今日は家に家電一式が屆くのである。だから、誰かが家におらねばならず表彰されるハヤトがまさか家にいるわけにもいかない。

《本當に間に合うのか?》

「多分……」

ハヤトは買ったばかりの自転車に乗り込むとそのまま漕ぎ始めた。もうすっかり秋になってしまった早朝の空気がとても澄んでいて気持ちいい。勿論、それを楽しむ余裕があればの話だから。

急いで自転車を漕ぐといつもの駅にたどり著いた。ハヤトは改札に探索者証(ライセンス)をタッチすると、そのまま構をダッシュで駆け抜け何とか目的の電車に乗り込めた。

「ふぅ……」

ギリギリ、通勤通學時間は外しているというのにかなりの乗客がいた。

《間に合って良かったな》

(新幹線の切符が無駄になるところだったよ)

《せっかく向こうが取ってくれたんだしな》

切符は當然、探索者証(ライセンス)の中に登録されている。ハヤトはただ、改札にタッチすればいいだけだ。

《しかもグリーン車だろ? だいぶ太っ腹じゃないか》

(……シンプルに怖ぇよ)

『日本探索者支援機構』は“高原”の息がかかった組織。ということはつまり、“草薙”の息がかかっているということである。

電車は定刻通りに駅に著くと、ハヤトはそのまま迷路のようになっている駅の中を移して待ち合わせ場所にやってきた。

「あー! いたいた。見つけましたよ、ハヤトさん!」

「おはようございます。咲さん」

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい!」

咲はハヤトの擔當付ではあるが、それ以外にもその他多くのAランク探索者を擔當している。彼が擔當した探索者が大きくびるということで、ハヤトと一緒に表彰されるのだとか何とか。

咲が言うにはそれに加えて業務改善のアドバイスもしてくれと言われたらしい。何でも新人付のモデルにするのだそうだ。

「凄いですね。咲さん」

と言うと、「ハヤトさんほどではありませんよ」と謙遜(けんそん)された。

二人して新幹線を待っているのが暇なのでポツリとハヤトは口を開いた。

「そう言えば、咲さんの実家って東京ですよね?」

「そうですよー。よく覚えてますね」

「里帰りはするんですか?」

「ううん。明日も仕事なので、ハヤトさんと同じ便で帰ります」

「大変ですねぇ」

「ハヤトさんもですよ」

「いやいや、探索者なんて気ままなもんです」

その時、音を立てて新幹線がホームにってきた。

「あっ、これ新型ですよ」

それを見て咲がそう言った。

「そうなんですか?」

「はい。これ半年ほど前に導された奴です」

「あぁっ! あのめっちゃ速いやつですか」

「そうです」

ダンジョンの恩恵は探索者だけではなく、當然のように一般庶民にまで広まっている。例えば、この新型新幹線は同じ石の上を絶対に外れない特を持つ『偏方石』というものを大量に使用することで線の危険を文字通りの0にした。

その結果、線を心配する必要が無くなりその分高速化に力をれることが出來たのだ。

「乗りましょ。こっちですよ」

「あ、はい」

ハヤトと咲の席は隣同士だ。ハヤトは生まれて初めて乗った新幹線に激しながらも咲の後ろを付いていく。

「席は窓側が良いですか? 通路側が良いですか?」

「どっちでもいいですよ」

「じゃあ、私は通路側に行きますね」

「大丈夫ですか? 俺は別に通路側でも大丈夫ですよ」

「いえいえ、どうぞ」

《いや、お前は窓側でいい。さっさと座れ》

(……何で?)

《デリカシー》

(分かったよ)

ヘキサにそう言われたら特に反抗する必要もない。ハヤトはそのまま窓側に座った。

「ハヤトさん」

「どうしました?」

こちらを覗き込んでくる咲と目が合う。

「そのスーツ、似合ってますよ」

「あっ、ありがとうございます……」

びっくりするほど可い笑顔で言われてハヤトの心臓は高鳴りっぱなしである。

大丈夫かな、東京まで俺の心臓持つかな。

《破裂しても治癒ポーションがあるから大丈夫だ》

(なら良しッ!)

後は好きなだけ高鳴ってくれ。遅れてきた青春を取り戻すんだッ!!

と、意気込んだは良いの、ボッチが人のお姉さんに意気揚々と語り掛けるだけのコミュ力があるわけもなく。

新幹線の中では咲が上手く喋れないハヤトに気を使って喋りかけてくれた。それが分かるだけの生半可なコミュ力があるせいで、いたたまれなくなってきた頃に目的地である東京についた。

「つきましたよ。ハヤトさん」

「降りますか」

猛烈な人込みの中をハヤトと咲は歩いていく。

すげぇ……東京すげぇ……。

と、駅を歩くだけで既に東京の洗禮を浴びるハヤト。一方、大學時代を東京で過ごしている咲はハヤトに気を使いながら先導していく。

《なんか、お前ってさ》

(……ん?)

(レディ)にエスコートされてばっかだな》

(痛いところつくの止めてよ……)

一応、これでも気にしているのは気にしているのだ。

「大丈夫ですか? ハヤトさん、人酔いしてませんか?」

「だ、大丈夫です!」

ただ、あまりの人の多さに張しているのだ。ここではないとは言え、ハヤトは今のところ法律をがっつり破っている犯罪者。あまり人の多いところを歩いていると心配になってくる。

焦っても仕方がないのでハヤトは落ち著いて深呼吸を始めた。

“天原”の技に戦闘前の張をほぐす技がある。それは無心になること。その方法は何でもいい。とにかく普段行っているルーティンを思い起こすことによって張を無くしてしまうのである。

ハヤトの方法はそう、深呼吸と共に素數を數えることだッ!

素數は孤獨な數字。勇気を與えてくれる數字なのだッ!!

(1、2、3、5、7、11……)

《1は素數じゃないぞ》

(えっ! そうなの!?)

16年間知らなかった事実にハヤトは仰天(ぎょうてん)。

「乗り換えはこっちですよ」

「あ、はい……」

結局、どうせ自分の顔なんて誰も見ていないと開き直ることで張をほぐすことにした。

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