《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-20話 二刀流の探索者!
それから々あって、澪の武は片手剣になった。しかし、片手剣のほとんどは大人の男に合わせて作られているものである。握力80kgあって、片手でハヤトを持ち上げる化けみたいなJKもいるにはいるが、澪はまだステータスが一般人。
両手で一生懸命に片手剣を握る姿は微笑ましい。
「ダンジョンで注意すべきなのは、モンスター、罠(トラップ)、そして探索者だ」
「探索者ですか?」
「あぁ、『死漁り(スカベンジャー)』という集団を聞いたことは?」
「名前だけなら……」
「初心者を狙って「モンスタートレイン」を仕掛けてくる奴らだ。同じ探索者とは言っても、ダンジョンの中は無法地帯。俺が許可するまで一人でダンジョンに潛るのは止だ」
「はい! 潛るときは師匠と一緒ですね」
「こういう返事はしっかりしてるんだよなぁ……」
「どうしました?」
「いや、なんでもない。同業者も怖いが、なお怖いのは罠(トラップ)だ。例えばここだ。よく見ろ」
「あれ、なんだかレンガのが違います」
「あぁ、見てろ」
“【強靭】【質化】【自然治癒強化】をインストールします”
“インストール完了”
インストールが終わると同時にハヤトは罠を勢いよく踏んだ。その瞬間、ぶわりと巨大な鉄球がハヤト目掛けて振り下ろされる。
ガァアン!! 金屬同士が衝突したような重低音を響かせてハヤトは右手でその球をけ止めた。ビリビリと右腕が震えるが、はっきり言ってこの程度の攻撃は前線攻略者(フロントランナー)にとっては屁でもない。
「とまぁ、こんなじで罠(トラップ)は探索者を問答無用で殺しにかかるから気をつけるように」
ちなみに、転移トラップとかは最悪の最悪である。
「凄いです! 罠を手でけ止めるだなんて!!」
「前線攻略者(フロントランナー)なら誰でもできる蕓當だ。まぁ、ここ一階層だし」
「でも師匠は凄いです!!」
「……罠に気をつけるように」
「はいっ!」
返事はいいのだが、ちゃんと聞いているのか不安である。
「よし、今日はこの辺にしよう。疲れただろうし」
「いえ! 師匠の側にいればいつまででも頑張れます!!」
「駄目だ。休め」
「了解です!! 師匠がそういうなら!!」
本當に大丈夫か、この子……。
「多分、初めてのことだろうからが分かっていないが閉鎖的な空間で常に張狀態にあるとは気が付かないほど疲れるもんなんだ」
「は、はい」
「だから、疲れたと思う前に休むこと。わかったか?」
「はい!! 師匠の言う通り、休みたいと思います!!!」
「よし、良い子だ」
「えへへ。褒められました〜」
そう言って照れる澪。この子、なかなか飽きないね。
「今日はよくストレッチをしておくこと。普段使わない筋を使ったんだから、ストレッチしないと明日筋痛に悩まされるぞ」
「分かりました!!」
《ハヤト、お前……》
(どうした?)
《探索者みたいだな》
(探索者なんだよ)
伊達に二年間も三層で燻っていたわけじゃないのだ。
基本は嫌と言うほどにについている。
ということで澪を上(ギルド)まで見送ると、次はハヤトの本業たる25階層の攻略に移った。
「しゃっ、行くか」
《どうした? 柄にもなくウキウキして》
「単獨(ソロ)探索が俺にはあってると思って」
《コミュ障なだけだろ》
「…………」
25階層は降りた時點では秋であった。ということは昆蟲型のモンスターが大量に出てくる時期である。ハヤトは先日更新されたばかりの25階層の攻略地図を手に取ると、未だに地図化(マッピング)されていない場所へ移。
そこから攻略を始めた。
なだらかな傾斜になっている場所を、落ち葉を踏みしめながら歩み始める。サクサクと響く音はモンスターにとっては格好の餌だろう。だが、消そうと思って消せるものではない。ここでは前線探索者(フロントランナー)としての力量が問われるということだ。
《……25階層は節目の階層だ》
(うん?)
《ダンジョンは100層まで長するとは言ったな》
(あぁ)
《その4分の1にあたる25階層は節目の階層。『進化の関門(ファースト・オビス)』と呼ぶ場合もある》
(進化?)
《あぁ。25階層まではその種のまま攻略できていたが、この節目を持って攻略者たちは進化する。そういう意味でそう呼ばれているんだ》
(へぇ……。それも、飴か?)
《どうだろうな。知で治めていた者が力で治める者に変わっていく。飴か鞭か、私には分からんよ》
しばらく山の中を歩いていると、ふとガチガチと金屬をぶつけ合うような威嚇音。
(メタル・ビーか)
25階層。秋の季節に出現する2m近くの巨を誇るスズメバチだ。その羽はとても薄く、そして強靭。2m近い巨を宙に浮かしているその羽は航空工學の分野で注目を浴び、世界の研究所が高く買う素材である。
《……3、いや4か》
(スライムみたいに狩りやすければ良いんだがな)
“【一點突破】【鈍重なる一撃】【高速化】をインストールします”
“インストール完了”
スキル【高速化】は、【神速】の下位互換たるパッシブスキルである。移速度が全的に向上するだけのスキルであるが、武の心得があるハヤトにはそれがどれだけの利點をもたらすかを知している。
「シッ!!」
ハヤトが踏み込んだ瞬間、元いた場所にメタル・ビーの針が3本突き刺さった。三方向からの同時撃。ハヤトが気配に気が付かなければ今ごろ全を猛毒に侵されていた。ぶわりと舞った落ち葉の中を舞うようにして一目のに槍が激突した。
だが、貫けない。
メタル・ビーはその名の通り金屬のように堅牢なモンスターである。その程度の攻撃で貫けるではないのだ。
故に、
「貫け」
【一點突破】と【鈍重なる一撃】が発。本來、散るべきエネルギーを一點に集中させるスキルと、槍をはじめとする貫通系の武の一撃を強化するスキルが同時に発。メタル・ビーのがグチャグチャに潰れると黒い霧となる。
“【鈍重なる一撃】を排出(イジェクト)”
“【弾道予測】をインストールします”
“インストール完了”
地面に著地した瞬間、ハヤトの両眼に映るのは赤い弾道予測線。剎那、2のメタル・ビーがハヤト目掛けて針を発。彼はそれを槍をもって迎え撃つ。
「フッ!!」
こちらに迫ってきた針に合わせるようにして槍を振った。ギギンッ! 重なったように聞こえる金屬音とともに、ハヤトへ向かっていた針は槍に弾かれて後方に流れた。
ハヤトに1番近いメタル・ビー目掛けてお返しとばかりに槍を投。ブオン! と風を切ってメタル・ビーの翅(はね)を貫くと木にい止める。続いて呼び出したのは彼の背丈を超えるほどの大剣。
“【弾道予測】を排出(イジェクト)”
“【強化Lv3】をインストールします”
“インストール完了”
「はぁっ!!」
ハヤトが踏み込むと同時にバン! と筋が大化。重い大剣が羽のように軽くなる。木にい止められたメタル・ビーを両斷すると木を蹴り上げて跳躍。メタル・ビーの突撃によって木が激しく揺れた。そこに剣を突き立て落下。ハヤトと大剣の複合された重量によって金屬のようにいを貫いた。
そして、そこから薙ぎ払うようにして最後の一を討伐。殘心。
「ふぅっ……」
《ぼちぼちだな》
「だな」
ドロップアイテムであるメタル・ビーの(クチバシ)と翅(はね)をポーチにれる。
「うわっ。もう、アイテムんねえ」
《アイテム詰めすぎなんだって》
「単獨(ソロ)なんだから仕方ないだろ。あーあ。4次元ポケットみたいな袋がしいよ」
俗に言うアイテムボックスというやつだ。
《多分あると思うぞ》
「マジ?」
《50層以上ドロップアイテムだったと思うが》
「あの牛野郎。変な皮じゃなくてそっちを落とせよ……」
《まぁ、そう嘆くな。直、落ちる》
そんな話をしながら山道を歩いていると、日のが隠れ始めた。
「うーわ」
《冬か、ついていないな》
「吹雪(ふぶ)かなきゃいいけど……」
と言ったものの悪い時の予想ほど當たるものである。暗雲はしだいにを深めていくと降り始めた雪は、風とともにハヤトを叩きつけ始めた。
「痛い痛いっ!!」
《逃げろー。死ぬぞぉー》
必死になって安全圏(セーフエリア)を探すハヤトに対して思念で寒さをじないヘキサは他人事だ。
凍傷なんて治癒ポーションで治るし、最悪指を切斷することになってもポーションを飲めば生えてくるので別にそこまで心配する必要もないのだが、痛いのは嫌だ。
「あった! 山小屋だ!!」
本格的に吹雪(ブリザード)なると、1m先も見えなくなるので間に合って助かった。ちなみにだが、そういった狀況になったときは雪を掘り返してその中に避難するのが良い。
「寒いなぁ……」
《火熾せ、火を》
「分かってるって」
ここで気を利かせたスキルインストールが【火屬魔法Lv1】をインストール。一瞬で火がついた。
「あったけぇ……」
窓ガラスを叩きつけるような猛吹雪である。これは終わるまで外に出られない。ちなみにだが、25階層の吹雪は最短30分で終わる場合もあれば10時間――つまり季節が移り変わるまで吹くこともある。全ては神のみぞ知るというやつだ。
「ギリギリセーフ!」
暖爐で溫まっていると、聴き慣れた聲とともにどやどやと集団がってきた。
「もー、凄い雪」
「寒いねぇ」
「これいつ終わるかなぁ」
「うう……。足が濡れちゃいましたぁ……」
こういったとき、他の探索者と鉢合わせることは珍しいことではない。
無いが、ってきた5人全員とも異だとやりづらいと思ってしまうものだ。
(……目合わせないようにしとこ……)
《キャ出てますよ》
(良いんだよ……)
暖爐の火をぼんやり見ることで時間を潰す作戦にでた。人間、火を見ると心が休まるのだ。キャンドルセラピーといって、真面目にそういうストレス解消法もあるくらいだし……。
「あっー!!」
とハヤトが心を落ち著かせていると6人しかいない山小屋に一際でかい聲が響いた。
「ハヤトじゃない! 元気してた!?」
「うるさいぞッ! ユイ!!」
放っておけオーラ出してただろ!!!
いい加減にしろ!!!!
- 連載中182 章
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