《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-23話 弟子を見守る探索者!

激しくき回るスライムを倒して、肩で息をしている澪にハヤトは尋ねる。

「どうだ、しは慣れたか?」

「は、はい……」

がハヤトの弟子となってからすでに3日が経過。流石に3日も剣を振れば慣れてくるだろうと思って聞いてみたのだが、澪の返事はいまいち要領を得なかった。元より剣を振り慣れていない子である。3日で慣れろという方が酷だろう。

「あ、あの、師匠……」

「どした?」

「私、下手ですよね……」

「3日で上手いも下手も決まらんよ」

「で、でも……」

「でもっていう暇があったら剣を振る! はい、次來たよ!」

「は、はい!」

澪はハヤトの掛け聲でやってきたスライムの核を……貫けずを淺く削った。

「ミスしたらリカバリー!!」

探索者において、リカバリーほど大事なことはない。人間である以上、ミスをしてしまうことは避けられない事である。その時に一々、ミスについて頭を悩ませていたらどれだけ命があっても足りないのだ。

「はいっ!!」

3日間叩き込んだその言葉を思い返して澪は剣を返すと、今度はちゃんとスライムを屠(ほふ)った。

「上出來だ!」

「本當ですか!?」

「おう」

探索者において最も優れた事とは『死なない事』である。高い殉職率を誇る彼ららしい事だが、それが最も優れたと評されるのは何でもない。一重にそれが出來ぬ探索者が多いという事だ。

「そろそろ、一階層の階層主(ボス)でも挑戦してみるか?」

「い、いや、まだ早いですよ……」

「ボスといってもゴブリンだぜ? 二階層に普通に出てくるモンスターだ」

「そうなんですか……? うーん、それならやってみても……。良いのかなぁ……?」

「案ずるより産むが易しって言うし、行ってみても良いと思うぜ。最悪、俺がるから」

師匠の特権、『最悪、俺がるから』である。

弟子にとってこれほど心強いことはない。ミスっても死なないし、自分一人で倒せるのならそれで自信につながるからだ。

「師匠がそういうなら……」

と、澪も存外にまんざらでもなさそうな様子。

《思ったんだけどさ》

(どうした?)

《この子、チョロいよね》

(……まぁな)

それはハヤトも否定しない。

一階層は誰でも気軽にれるエリアということで階層主(ボス)部屋の前には列が出來ることがままある。休日は運がわりにやってくる學生やサラリーマンが。平日は兼業探索者が仕事終わりに立ち寄ったりしているのだ。

ということでハヤトたちが階層主(ボス)部屋の前にたどり著いた時には、すでに3組ほどの探索者が順番待ちをしていた。

「あら、どうも」

「あっ、どうも」

運が良いのか悪いのか。ハヤトの一つ前の組は顔見知りの探索者だった。

弟子育(バンド)システムの講習會の時に一緒だった探索者である。ということは、彼も弟子の育だろうか。見るとたしかに駆け出し丸出しといった裝備に日本刀を腰にした勝気そうなが側にいた。年齢はハヤトと変わらないくらいに見える。

ということは高卒で探索者を目指すじの子かな。

「ハヤトさんのお噂はかねがね」

「あれ、俺って自己紹介しましたっけ」

「いえいえ、団長と副団長から聞いておりますよ」

「……失禮ですがクランをお伺いしても?」

「『ヴィクトリア』です」

大輔と久我(アイツら)っ!

「師匠、「ヴィクトリア」というのは?」

「ガチガチ攻略クランだ。Aランク、Bランク探索者しかいないやべーとこだよ」

當然だが澪のランクは最低のEランク。『世界(W)探索者(E)ランキング(R)』は無しである。

「そ、そんな凄いところの団長さんとお知り合いなんですか!? 凄いです! 師匠!!」

「まぁ、ちょっと縁があってな……」

「副団長(久我)なんかはハヤトさんのことを崇(あが)めてますよ。なんでも推しと繋いでくれるとか言って」

「……そんなこと言ってるんですか」

ユイはたった一人の友達だぞ!

絶対売らねえからな!!

と心の中で息巻いておく。

「ねぇ、ミオリさん。その人、強いの?」

「ええ、ウチの攻略組を壊滅したモンスターを一人で倒したそうなので」

「ふうん。そうは見えないんだけど」

「失禮ですよ。ごめんなさいね。ハヤトさん」

「良いっすよ。別に、自分でも強そうな見た目してるとは思わないんで」

『紫鉄貝(シテツガイ)』に襲われるくらいだ。まだまだハヤトはモヤシである。

余談であるが、スキルやステータスによって強さが判別される探索者において見た目で相手の強さをはかるというというのは愚かな行為だ。初心者のころはよくやってしまいそうなミスであるが。

だって見た目は細いダウナー系のシオリですら握力80kgである。

見た目なんてあてにならんって……。

「ちょっと! 師匠に向かってなんてこというんですか!! 撤回してください!」

穏便に済ませようとしたハヤトだったが、弟子が暴走。

「良いって、突っ掛からなくても」

「は? 何このちびっ子。アンタの弟子?」

「師匠に向かって何ていう口の利き方するんですか! 謝ってください!」

「……良いから良いから」

と、宥(なだ)めるもののいっこうに靜まる気配を見せない澪。

君、よくこの3日でそこまで俺にできるよね……。

《……白馬の王子様なんだろ。お前が》

(何で?)

《私はこの子の家庭環境を知らないが、お前の出した條件に見合うような子ならそれなりの子なんだろうさ。社會に絶して、幸せな人生を諦めていたところにお前からの助けがった。そりゃ、そういう風に映っても仕方ないことだと思うがな》

(…………)

《それにこの子はまだ14歳。子供も子供だ。すぐに影響をけちまう。腕が試されるなァ? 師(・)匠(・)どの》

「ちょっと、師匠も! こんな奴にそんなこと言われて悔しくないんですか!!」

「彼我(ひが)の戦力差も分析できない新米(ニュービー)だぞ。躍起(やっき)になる方がどうかしてる」

だからこの子の師匠である探索者も、ハヤトも軽くあしらって流していたのだ。

それにハヤトにも心當たりが有りまくるために何にも言えない。

「そしてお前もだ、澪。ダンジョンとはいえ、他人に対してそう突っかかるもんじゃない」

「は、はぁい……」

澪の両肩に手をおいてしっかり諭すハヤト。

澪もやり過ぎたと思ったのか、反省顔だ。いや、こいつちょっとデレデレしてないか?

真面目に人の話を聞いてないぞ。

「あなたもですよ、カナデ。彼はAランク探索者。彼が言う通り、見た目だけで戦力差を測るなんて愚の骨頂です」

「で、でも」

「あなたは未知のモンスターの見た目が弱そうだと襲いかかるのですか」

「……それは」

「まぁ……それを學ぶためのゴブリンなんですけどね」

そう言って彼は呆れたように呟いた。

ゴブリンの軀はとても小さい。小學3年生の男子児くらいの長だ。しかし、その膂力は馬鹿にはならない。大の大人とまでは言わなくても高校生男子くらいの力は持っていると言っていい。全ての探索者はそこでモンスター相手に見た目というものが何一つ指標にならないということを知るのだ。

ふと、その時に階層主(ボス)部屋の扉が開いた。

「あら、ではこれで」

「えぇ。お互い、頑張りましょう」

前のペアはそのまま吸い込まれるようにして階層主(ボス)部屋の中にっていった。

「人気の階層主(ボス)の場合、こうして部屋の前で待つことがある。ここは一階層だからこうして部屋の前で待っていても良いが、中には普通のモンスターが強すぎて並べない場合もあるんだ」

「えっ、じゃあどうするんですか」

「運が良いやつの勝ち」

「本當ですか!?」

「うん。別に良くあることだよ」

「そ、そうなんですか……」

雑談すること10分。

扉が開いて、中からだらけになった先ほどのと、付き添いの探索者が出てきた。

「あー……。そうなりましたか。俺、治癒ポーション持ってますよ」

「お気持ちはありがたいのですが、これもまた一つ勉強ということで」

にこにこしながら顔一つ変えずにその探索者は言い切って、一階層の奧へ去っていった。ゴブリンにやられた程度の傷であればLv1の治癒ポーションがあれば傷痕殘らず完治してしまう。してしまうが、だと言っての子にあそこまでやらせるか普通……。

トラウマになって探索者を辭めなければいいのだけど。

ハヤトが彼の教育方針にドン引きしていると、澪は澪で彼の怪我にドン引きしていた。

「ほ、本當に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だって……ゴブリンだし」

後ろの探索者がさっさといけと視線で押してくるのでハヤトと澪はそれに流されるようにして階層主(ボス)部屋の中にった。

「最初は何もアドバイスをしない。逃げるもよし、戦うもよし。好きにいて考えてみろ」

「はいっ!!」

もう投げ槍になったのか。それともハヤトにそう言われたからか。

威勢の良い返事とともに片手剣を両手で抱えて正眼に澪は構えた。

部屋の中心にいたゴブリンがそれに気がついて全力疾走。澪に向かってやってくる。

うわぁ……懐かしい。

1階層の階層主(ボス)を一人で倒したと言ってイキってた時代が僕にもありました。

2階層にってそれがただの雑魚だと知った時の恥ずかしさと言ったら、今思い返しても恥ずかしい。

「ひゅー……ひゅー……」

《おい、ハヤト。あれは……大丈夫か?》

(ちょっと張してるな)

《ちょっと……?》

剣にはリーチがある。ゴブリンは武も何も持っていないので間合いを見切って剣を振るだけで簡単に倒せる敵だ。だが、

「えいっ!」

澪は張のあまり、間合いを測り損ねて剣をスカッた。

《やばくないか?》

(ちょっと過保護すぎじゃないか。ヘキサ)

《いや、でも》

ミスをしたらリカバリー。その言葉をたたき込まれたこともあり、澪は剣が何もないところを斬ったということに気がつく。そして、すぐにそのまま斬り上げた。そのワンテンポの遅れが、ゴブリンには予測できなかった。淺く、を斬りつける。

そのまま突きに繋げれば……!

と思った瞬間、ゴブリンが激昂。澪にタックルを仕掛けると、そのまま馬乗りになった。澪の手にしていた剣がカラン、と音をたてて地面に落ちた。

「流石にやばいか」

ゴブリンはそのまま拳を振り下ろして澪を毆りつける––––瞬間にハヤトの斬撃が間に合った。剎那、飛んだゴブリンの頭が地面に落ちると、黒い霧となって消えていく。

「うわーん! ししょー! 怖かったですー!!」

泣きながら抱きついてくる澪。気持ちはわかるが、ここは心を鬼にして引き離した。

「澪、今の失敗點はどこだ」

「えっ……」

すぐにそんな事を尋ねられるとは思っていなかったのか、涙で溢れる目を點にしながら澪はハヤトを見た。

「どうして、あんなことになったか分かるか」

「えっと。えっと……」

だが、彼はすぐに切り替えた。

「間合いを摑み損ねたから、です」

潤んだ瞳がハヤトを捉える。

「どうして摑み損ねたか、分かるか?」

張しちゃって、早く振らなきゃってなっちゃって……」

「探索者は人間だ。張することは悪いことじゃない。ただ、それで間合いを測り損ねては駄目だ」

「はい……」

「怖かったか?」

「……怖かったです」

「辭めるか。探索者を」

「嫌です!」

「良い返事だ」

ハヤトはそういって笑うと、腰を抜かした澪を抱きかかえて剣を拾い上げる。

才能なんて無くても良い。金なんて無くても良い。

ハヤトが求めるのはただ、やる気だ。

それが無ければ何も為せないから。

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