《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-25話 見守る探索者!

「あの、師匠」

「どした?」

「裝備ってお幾らなんですか?」

「初心者向け(エントリーモデル)だと大20〜30萬くらいだなぁ」

「ぴっ!?」

「どした?」

「そんなに高いお金払えません!」

「俺が出す」

ハヤトの言葉に澪はもじもじしながら財布を取り出した。

「……あの、いちおう五萬円まで持ってきたんですけど」

「いいよ。それはもっと大事な時に備えて取っておけ」

「わ、わかりました……」

件(くだん)の看板すら出していない裝備屋にると、すぐに店員が傍についた。

「いらっしゃいませ、天原様。本日はどのようなでしょうか?」

「この子の裝備を見繕(みつくろ)ってもらいたいんです。初心者向け(エントリーモデル)で武は片手剣。この子が扱いやすいようなものなら尚更良いです」

「承りました」

そう言ってスーツ姿の店員は一禮すると、澪の格を目で測る。それで概算を付けたのか、すぐに初心者向け(エントリーモデル)のコーナーに案してくれた。

「こちらの方は天原様のお弟子様で?」

「はい。Aランクになったもので」

「社長よりお聞きしております」

……ツバキさぁ、何やってくれてんの。

「ご予算の都合はお幾らでしょうか」

「うーん。50萬くらいで」

「了承しました」

「し、師匠! 50萬って、さっきと話が全然違いますよ! 50萬円あれば三年暮らせますよ!」

《ハヤトに慣れてて流しそうになったけど、50萬で三年って中々やばくないか》

(いや、流石に誇張表現でしょ……)

「まさか、一階層から防がいるとは思ってなかったからな……。その罪滅ぼしとしてけ取ってくれ」

「いいんですよ! 師匠が滅ぼす罪なんてないんです! 師匠の傍にいれば罪は消えていくんです!」

「俺はキリストかよ」

《キリストは罪を背負って死んだだけで、別に罪を浄化したわけじゃないけどな》

(いま蘊蓄(うんちく)はいいって)

初めて知った事実に若干驚きながら、ハヤトは裝備が見繕われるのを待った。

「こちらがご予算に収まる範囲のものかと」

そう言って指された先にあったのは30著を超える幅広いデザインの防

「……これ全部、用の防ですか」

「はい。そうなります」

「……多くないですか」

「やはり、のお客様は防も可くありたいと思われる方が大勢いらっしゃいますので」

んな贅沢な……。

《はぁ。そうやって心が分かんねえからモテねえんだよ》

(いいもん! 一生ソロで生きてやるもんっ!!)

《僻(ひが)むな僻むな》

「こんなに選べないです……」

「ゆっくり選びな」

「い、一緒に見てもらってもいいですか?」

「いいよ」

澪に言われるがままにハヤトは1著1著防を見ていくことになった。なんだかこうして彼に付き添っていると、妹のことを思い出す。もし、普通の家に生まれたならこうして2人で買いに出かけるということもあったのだろうか。

分からない。そんなあり得ないifは。

「師匠! これなんかどうでしょう?」

「お、良いんじゃないか? けど、スカートか……」

「師匠はスカート好きじゃないんですか?」

「いや、足が出するのはどうかと思って」

「で、でもAランク探索者の中には水著みたいな格好で潛っている人もいるじゃないですか」

いるにはいるけどさ……。

「あれができるのはAランク探索者だけだ。前にも言ったと思うけど、防ってのは著込めば著込むほど重たくなってけなくなる。一部の役職を除いて、あんまり著込むのは良くないんだ」

「じゃああの人たちの格好は……」

「絶対に當たらないって自信があるんだろう。それに、どんな重たい怪我をしたって命があれば治癒ポーションで修復できる。ある意味、道理にかなってると言えばかなってるんだが、澪にはまだ早いな」

「わかりました……」

しょぼんとした顔をして防を返す澪。

仕方ない。誰だって初めての頃はどうしてもデザインよりも能を重視せざるを得ないのだ。

カッコいい防が著たいなら強くなるべきだ。

と、今月のダンジョンファッション雑誌に書いてあったことをそのまま流用するハヤト。

「……じゃあ能重視で選んでいきますね……」

そう言って肩を落としながら防を選ぶ澪。

(なぁ)

《どした?》

の子ってさ)

《うん》

(やっぱりお灑落したいの?)

《お灑落がしたいんじゃなくて可くありたいんだ》

(……悪いことしたかな)

《それで防買うわけじゃないし、良いんじゃないか》

こんなことならエリナか咲さんと一緒に來ればよかった。

「……どうですか?」

そう言った澪は防を完全に能で選んだご様子。灰の長い袖の上に下はちょっとダボっとしているが、カーキの長ズボンだ。

「…………ある程度は見た目で選んでいいよ」

自分で自分のセンスがないことを自覚しているハヤトですら、これは無いと思わざるを得ない格好。なんだろう。なんだかジャージを著ているみたいに見える。

「ありがとうございます!」

ハヤトの言葉に澪はそう言って深く頭を下げると意気揚々と防を選び始めた。

(……こうすりゃ良かったんだな)

《ま、1階層で防無し訓練をした甲斐もあるんじゃないか?》

確かにその影響でしはAGIが上がっているかもしれない。

「師匠! これとこれ、どっちがいいと思います?」

そう言って澪が手に取ったのは青系統の防と緑系統の防

「…………澪はどっちが良いと思うんだ?」

「うーん。私に緑は似合わないから青かな……」

「青か。うん、外していないだし、良いんじゃないか」

「本當ですか!? 私もそう思ってたんです」

《正解だ》

(なにが)

めんどくさいのでハヤトの儀『鸚鵡(おうむ)返し』を発しただけなのだが。

《対応だよ。お前、案外やればできるじゃないか》

(……そうなの?)

元はと言えばシオリに付き纏われた時によく使っていた手法である。まだ彼がストーカーと知る前のことで、事あるごとに彼がハヤトの好みを聞いてくるものだから、自分はどっちが良いのかを聞き返して、ハヤトはそれに同調するという手法をよく取っていたのである。

一々、自分で考えなくて良いから楽だった。

「師匠が選んでくれたこの防にします!」

しかもこの手法のメリットは、ハヤトは一つとして選んでいないのに勝手にハヤトが選んでいることになっていることだ。これがシオリ相手にめちゃくちゃ楽できた。

「わかった。次は剣だな」

「そ、そうでした……」

ずらりと並ぶ片手剣コーナー。

「こ、この中から選ぶんですか?」

「とは言っても剣はそんなに選択肢はないよ」

「そうなんですか?」

「ああ。新米は格に見合った剣を使うからな」

漫畫みたいな剣を振り回せるようになるのはステータスが十分に上がりきったAランク、Bランク探索者になってからだ。

「では、失禮ながら長を計らせていただきます」

「うぅ。背が低いのがコンプレックスなんですよね……」

「……大丈夫、長期はこれからだから」

ちゃんと飯食ってる?

なんて聞けるはずもなく。

「148cmですね。では適正サイズの片手剣を用意させていただきます」

ここの店員の手際はとても良い。社員教育が徹底しているのだろう。

三家”の人間は己が筋に役立つと判斷した場合、その人間の家柄、容姿、そして事を一切顧みることなく脈に組み込んできた。“八璃(やさかに)”は代々、金儲けの才を持っていた人間を一族に取り込んできたために、ツバキには商機が目に見えてじられるのだという。

それはさながら文字にじられる共覚のように。

護國のために脳の形質まで進化してきたのが“三家”だ。どのような接客が時代にうけるのか、どのような接客が最も金を落とすのか。彼にはそれが伝子レベルに組み込まれている。この程度の教育なぞ、文字通りの朝飯前だろう。

「わぁっ! こんなにありますよ!」

そういって運ばれてきたのは15本近くの片手剣。

「えっ?」

おかしい。澪の長は同年代の平均長以下だ。

のサイズに合う剣がこんなにあるわけがない。

「どうしてこんなに?」

「社長の方から天原様がいらっしゃるということでこれらを仕れておけと」

「……なるほど」

金でなびかないとなると、今度は恩を売(・)っ(・)て(・)くるというわけか。

「えっ。師匠って社長さんと知り合いなんですか!? 凄いです! 流石師匠!!」

「あんまりお店で大きな聲出すのやめてね」

「うぅ……わかりました……」

ま、恩を売ってくるというのなら存分に使わせてもらおう。どこで澪のことを知ったのか知らないが、どうせまともな筋じゃないだろうし、何か言われても無視できる。

澪はそれから1時間悩んで武を買った。

「ありがとうございます! 師匠!! 一生大切にします!」

「半年で買い換えることになるよ」

「なんてことを言うんですか! 師匠からの贈りですよ! 一生大切にします!!!」

「初心者向け(エントリーモデル)を一生使い続けるのは止めたほうが……」

《乙心定期》

こいつもだんだん面倒になってきてるな。

「そういえば、澪ってどこに住んでるの?」

「ギルドですよ?」

「ん? ギルドに家なんてあったっけ??」

「いえ、休憩所を使わせてもらってます」

「あぁ……」

いわゆるネットカフェのようなところだ。ハヤトは彼に1日數千円のお小遣いを渡している。1階層の稼ぎなどたかが知れているし、彼も年頃だ。好きなものを食べたり、飲んだり、お灑落をしたって良い。とにかく、ハヤトが手にれられなかった二年間をしてしかったのだ。

「すまん。家に関しては俺が失念していた。どっかに安い家が……」

《家賃1萬2千円があるじゃないか》

(流石にあそこはまずいだろ……)

ハヤトが暮らしていたとはいえ、元は5人連続自殺している超事故件である。

「っていうことは、澪。お前、俺の小遣いは……」

「その、母親の借金を……」

「……借金?」

「はい。私が弟子(バンド)になるとき、未年なので保護者の許可がいるんです。それで、その、私が弟子になるのはいいけど條件として、母親の借金の返済を手伝ってほしいと言われまして……」

「……お前、飯は」

「いつも通りですよ? ちゃんと朝と夜に食べてます」

「何を、食べてる?」

「朝はコンビニの小さな牛パックを飲んでます。夜は日によるんですけど、スーパーで半額のお弁當を買って食べてます」

「そうか……。じゃあ、服は」

「服? まだ著れるから同じやつを著てますよ」

ハヤトの問答全てに當たり前の顔をして澪が答えた。

……覚が麻痺している。

それが當たり前だと思ってしまっている。

ハヤトは一般常識が欠けているが、それでも食に関しては最低限の常識は備わっていた。料理は作れないにしても、だ。

この子はもしかして三食食べるという概念すら知らないんじゃないのか。

ふと、そう思ってしまった。

「なぁ、澪。明日は、暇か」

「はい! 暇ですよ!」

「……なら10:00に駅集合だ」

「えっ!?」

「買いに行こう」

「で、で、デートですか!?」

澪の聲が夕暮れの空に反響して、消えた。

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