《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-26話 休暇の探索者!

「師匠ー!! ここでーす!」

聲でっか……。

時間は9:45分。とりあえず15分前に間に合えば良いと思ったのだが、すでに澪はやってきていた。

「師匠と……こちらの方は?」

澪はハヤトと一緒にきていたエリナに視線が行く。

「エリナです。お兄様のお弟子様ですね」

「師匠の妹さんですか!!? ということは私にとっては師匠ということですね!!」

「どういう理屈だ……?」

と、タイミングよく來た電車に乗り込んで3人は隣街へと移。今日の目標は澪にお灑落ができるだけの服を買うこと。そして、ちゃんと食事を取らせることである。

《どれもこれも、お前ができなかったことだな》

(ヘキサが來てから、できるようになったんだ)

《まあ、普通のことなんだけどな》

一度落ちた人間が普通に這い上がるのは難しい。そして、それを救い上げる人間にもそれなりの力が必要だ。ハヤトはヘキサからけた恩を、澪に返したいのだ。

「私、生まれて初めてデートします!」

「お兄様、私はついてきても良かったんですか?」

「いたほうが良い時が來るかもと思ったんだが」

「大丈夫です! 師匠の妹さんなら実質師匠ですから!!」

ここでアマネが現れるという報の通事故は避けたいところである。

っていうか、アマネって実家に住んでるならこの間の表(・)彰(・)の時はわざわざ東京まで行ったってことか。ご苦労なことで……。

「ついた。降りよう」

「はい!」

ハヤトはちらりとエリナを見る。彼はしっかり頷いてからハヤトより半歩だけ前を歩き始めた。ハヤトはこの街に詳しくないので道案は全部エリナに丸投げである。

《屑だな》

(スマホ持ってないんだからしょうがないじゃん……)

《無いなら無いで工夫するんだぞ。普通は》

その工夫の思いついた先がこれだったのである。

「まずはどこに行くんですか?」

「服だ」

ハヤトには最近の流行はわからない。だが毎月ファッション雑誌を購するエリナがいるなら話は変わってくる。毎月といってもエリナがうちにきてまだ1ヶ月半だが。

ハヤトたちはショッピングモールに向かうと、エリナと澪を放流した。支払いは全部ハヤト持ちである。の子の格好はの子が知していると思ってエリナを連れてきたのだが、これが中々に大當たり。

外に出る時以外、普通のメイド服を著続けているエリナだが、実はお灑落さんだ。しかもそれは自分だけには収まらないらしい。

この間、夜中にトイレに行った帰りにエリナがこっそりAmazonから屆いたペンギンのぬいぐるみの著せ替えセットを著せ替えているのを見てしまったのである。なお翌日それとなく尋ねてみたが本人は真顔で切り抜けていた。ハヤトにバレないと思っているあたりに可らしさがある。

と、エリナはそのセンスを活かして澪を著せ替え人形に。とっかえひっかえすること2時間半。どうやら秋服と冬服をそれぞれ3セット買ってきた。當然、信じられないほどの荷になるのでそれを抱えるのはAランク探索者。

このAランク探索者、何を隠そうあの『戦乙‘s(ヴァルキリーズ)』の荷持ちもしたことがある一流の荷持ちである。

《自分で言ってて悲しくならない?》

(いいんだよ。俺が荷を持つことでの子が楽しんで買いができる。俺はそういうことに幸せをじるんだ)

《ちょっと久我がってきたな》

(そういうこと言うのやめてくださる?)

さすがにアレと一緒にされたくない。

「飯でも食いに行くか」

「……師匠、荷申し訳ないです……」

「お兄様が持つと言ったのですから持ってもらいましょう。男の人を立てるということも大切ですよ」

「はい師匠!」

師匠が分裂しちゃってますがな。

エリナと澪は長が近いということもあってかすぐに意気投合。仲良しになった。仲が良いことは良いことである。うん。

そう言って二人を微笑ましく見守るハヤト。

《こうして2人並んでみると……お前、中々に業が深いな》

いいじゃん別に!!

「ケーキなんて數年ぶりに食べました~」

休憩ということで3人はカフェにった。ちょっと良いところのカフェである。

「へぇ、そうなんだ。俺、ケーキ食べたこと無いんだよね」

「師匠って小麥アレルギーとか、牛アレルギーなんですか?」

「いや、ウチが厳しくてさ」

「誕生日とかどうしてたんです?」

「誕生日とか祝われたこと無いなぁ……」

「本當ですか!? それは大変なことですよ!!」

「いちいち聲が大きいって……」

「だって師匠の誕生日ですよ!? 國民の休日にすべきです」

「しなくていいよ」

「天皇誕生日と一緒に師匠誕生日を作っちゃいましょう!」

「作らなくていいって」

「じゃあ私の休日にします!」

「休みたいだけじゃん……」

ため息をついてエリナと目を合わせる。彼もここまでの澪の言から彼がそういう子だとわかっているみたいだ。

だが、エリナはそこには突っ込むことなく、

「お兄様。ちょっとここら辺、息苦しくないですか?」

と、そう言ってきた。

「……あぁ、たしかにちょっと澱(・)ん(・)で(・)る(・)な」

「出ますか?」

「そのケーキ全部食べてからでいいだろ。我慢できるか? エリナ」

「はい。それくらいなら」

ハヤトは喫茶店の天井を見上げる。店主のこだわりなのだろうか。かなり凝った作りをしているが、流れが良くない。これなら澱みが溜まるのもうなずける。

《祓うのか?》

(まさか)

この程度、換気すれば空気と共に流れていくようなものだ。いちいち、祓う必要はない。

(ここは、使役(テイム)したモンスターが一緒にれる喫茶店だったろ?)

《む。たしかにそんなことが書いてあったような》

(モンスターってのは“魔”だからな。存在しているだけで澱みが生まれちまうんだ)

《へぇ……》

(とは言ってもそれ自は微弱なもんだし、風で流されれば普通に希釈される小さなもんだ。ここは流れが悪くて澱みが溜まっちまったんだな)

《……澱みが溜まるとどうなるんだ》

(“魔”が生まれる)

《……大丈夫なのか?》

(この程度でいちいち生まれたら今頃世界中で大量発生だ。ダンジョンなんかにかまえねーよ)

《そういうもんなのか》

(そういうもんなの)

それにハヤトは“天原”の人間じゃない。祓う義務などどこにもないのだ。

「ごちそうさまでした!」

「ほっぺにクリームついてんぞ」

「あ、ありがとうございます……」

ハヤトは紙のナプキンで澪の頬を拭く。

「師匠ってなんだかお父さんみたいです!」

「お、お父さん……」

できるならお兄ちゃんあたりがよかった。

「私、お父さんいないんでよく知らないんですけど!」

「……そっか」

「あれ? 今の笑いどころですよ」

笑えねえよ……。

夕刻を過ぎる前にハヤトたちは一旦、いつもの街に戻ると不産に向かった。澪の家を探すためである。一応、彼は実家があるらしいのだが、ダンジョンからは遠く離れておりとてもじゃないが通える距離ではない。それに加えて唯一の親である母親も帰ってこないということで、ほとんど一人暮らしだったらしい。

「ってことは學校は?」

「この二週間、さぼってます」

「大丈夫か?」

「はい! 先生にはもう進路を伝えてあるので」

「そうなの?」

「このまま中卒で探索者になります!」

「辭めといたほうが良いけどなぁ……」

探索者のうち、稼げるのは一握りだ。ほとんどはってきた金額だけ同じようにして出ていってしまう。

「師匠だって高校に通っていないみたいですし」

「俺は、まあ、最悪保険が効くから良いんだよ……」

ツバキあたりに頼み込めばなんとかなるような気がする。

「でもお兄様。探索者として名をあげたら高校(向こう)から打診がありますよ」

「そいやシオリはそのルートでってたな……」

「お兄様にもいくつか大學から打診が來てましたよ?」

「高卒の資格もってないからダメだろうなぁ……」

「師匠は高認試験を取らないんですか?」

「今は探索者のほうが忙しいからな」

殘り10ヶ月。その間にダンジョンをクリアしなければならないのだ。

そんな話をしながら歩いていると隣を見覚えのある高級車が通り過ぎた。

……ゲッ。

「やっと見つけましたよ! 兄様(あにさま)!!」

車は急停止し、ハヤトの橫につけた。

報の通事故、発生。

「兄様!? ということは師匠の妹君!!? 2人目!!!?」

突然のことに脳がオーバーフローを起こしかけている澪。

悪いね。うちが複雑なもんで……。

「……なんの用?」

「本家からの伝言です」

「本家?」

あんなことやらかしたのに?

「この間のやつ、凜おばさんが大笑してましたよ」

「何だって」

「“草薙”の男(おのこ)はかくあるべし、と」

……諦める気無いな。あのババア。

「それで、気を良くした“本家”より“言伝”を預かってきました」

「ロクなもんじゃないと思うけど、一応聞いておくわ」

「『目(・)立(・)つ(・)な(・)、死(・)ぬ(・)ぞ(・)』とのことです」

「なんでまた」

そんな騒なことになっているのだろう。

「“天原”ってその筋じゃ有名なとこじゃないですか」

「……おう」

「それで兄様がギネス記録に載っちゃったから」

「載っちゃったから」

「“天原”に恨み辛みのある連中が眼(ちまなこ)になって探していると」

「……そっちでなんとかしてくれよ」

「父上、倒れたままなんですよね」

うせやろ?

「なんで」

「自分の子供くらいのの子に負けたのが悔しいらしくて心がぽっきり折れちゃってます」

「使えねぇ……」

多分、ハヤトを取り戻すかどうかの件(くだり)のところだろう。

「というわけで、頑張ってくださいっ!!」

「いや、頑張ってくださいって」

「じゃあこれで〜」

「おおい! 他にもっとないの!? アドバイスとか!!」

「恨みのある家、多すぎて特定できないんです♡」

「なんでそんなキャッキャうふふのテンションで喋れるか理解できないんだけど」

「だって數々の強敵と戦えるんですよ? がときめきませんか?」

「ジャンプ主人公じゃないんだから……」

だーめだ、この妹。完全に“草薙”の統が出ていやがる。

「良いなぁ兄様。代われるなら代わりたいです」

「今すぐ代わってくれ」

「でも、兄様のギネス記録を更新するとしても最短で半年かかりますよ?」

あー……。

そういえばそうだったな……。

「じゃ、応援してます~」

と、それだけ言い殘して去っていった。

後に殘されたのはアマネとの會話を興味津々で聞いていた澪。

……あいつ、弾殘していきやがったっ!!

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