《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》私、霊魂になってる!
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ぼーっとしていた。
いつからこうしているだろう? 何も見えず、何もじない。時間の覚もないし、今考えているのだって、うっすらとした意識の中で何とか認識しているだけだ。
でも記憶ははっきりしている。忘れもしない、私の最期の日。
『聖を詐稱し王子を誑かした偽聖を死刑に処する!!』
形ばかりの裁判だった。
貴族たちや王子の間で予め私の刑は決まっていて、元孤児に過ぎない私の意見が聞きれられることはなかった。
いや、元はと言えば全てあののせいだ。王子の肩にしなだれかかって、勝ち誇った笑みで私を見下ろしていた子爵令嬢を思い出す。
私は聖だった。
聖とは神から與えられた『ギフト』だ。十人に一人くらいの割合でギフト持ちの子どもが生まれて來て、その中でも五十年に一人しか生まれないと言われている。
聖の力は特別で、どれだけすごいかって言うと孤児だった私が王宮で暮らすようになるくらい。
自分ではそんな自覚全然ないんだけど、周りからは救世主だとか國の守り人だとか言われて持ち上げられた。
私はこれも神の導きだと思って、一杯頑張った。というのは建前。戦爭孤児時代にいくら助けを求めたって助けてくれなかった神様なんて信じていないけど、寄りのない私を立派に育ててくれた孤児院に仕送りをするために、真面目に働いた。
そんな折だった。王子が私に目を付けたのは。
(まだ十歳の私に言い寄ってきやがって、あの変態)
おっと、王宮では隠していた口調がうっかり出てしまいましたわ。おほほ。
第一王子のセインは、私を側室として迎えようと畫策し始めた。私に惚れたというよりは、聖を手中に収めたかったのだろう。王妃には公爵令嬢がなる予定だったから、私は側室だ。
私はそれを斷った。
理由は言わなかった。平民に婚約者がいるなんて言ったら、彼に危険が及ぶと思ったから。
婚約者なんて言っても、同じ孤児院で育って「いつか結婚しよう」なんて軽く言い合っていただけ。何も知らない子ども時代の約束だ。相手が覚えているかも分からない。
王子や貴族からの當たりは強くなったけど、私の待遇はそう変わらなかった。
聖の力は國にとって必要だったからだ。聖の張る結界がなければ、年々激しくなる魔の侵攻を抑えることができない。
私は辛い王宮生活でも、いつか彼と結婚できるのだと信じて耐え続けた。煌びやかなドレスも豪華な食事も、私の心を満たしてはくれなかった。そんなものはいらない。ただ、小さな幸せがしかった。
だが、その願いは淡く泡沫となって潰えた。
自らを聖と名乗る、子爵家の令嬢が現れたせいだ。
私に聖の力が宿っているのは紛れもない事実だった。でも、王子にとって必要なのは事実ではなかった。
子爵令嬢に、わずかとは言え聖屬のギフトが宿っていたことも狀況を悪化させた。貴族たちは由緒正しい筋から聖が現れたことに安堵し、私を排斥した。
そこからはまるで元々臺本があったかのように事が進んだ。実際、王子が作った筋書きだったのだろう。元孤児に過ぎない私の首には、とんとん拍子でギロチンが迫り、落とされた。
(でも何で意識があるんだろ)
私は間違いなく死んだ。王子や貴族たちから嘲笑されながら処刑された。
でも、なぜか意識がある。自分を認識している。
ギフテッド教――ギフトをくれる唯一神様を信仰する國教だ――の教えでは、人は死ぬと魂という意思の塊になって空を漂い、新たな命が生まれる時にそのにり込むのだという。それは人間の赤子かもしれないし、働きアリやイノシシかもしれない。死んでも完全に消えるわけではなくて、新しい生命の礎になるのだ。
私は今、その魂の狀態なのかもしれない。それなら、何もじず意識だけがあることにも納得できる。
これから新しい命に生まれ変わるんだ。記憶は殘らないけど、あの苦しい毎日から解放されて自由になれるんだ。
私の魂は、そのまま違う生になるわけじゃない。
新しく芽吹いた生命には例外なく新しい魂が生まれる。でも生まれたばかりの魂は弱くてに耐えられないから、死者の魂を吸収して強くなるんだって。出産に耐え切れず死んじゃう子がいるのは、上手く魂を取り込めなかったからだ。
逆に、複數の魂を吸収する赤子もいる。そういう子は余剰分のエネルギーを神様に別の力に変えてもらう。それがギフトだ。
私が擔うのは、吸収されて新しい生命の源になる役目。
婚約者だった馴染のことは心殘りだけど、ただ消えるよりよっぽどいい。罪人として処刑された私が、誰かの役に立てるなら。
(できれば鳥の赤ちゃんに吸収されたいな。私を乗せて自由に空を飛んでしい)
そんなことを考えて、その時を待った。
どれだけ時間が経ったか分からないけど、朦朧としていた意識がはっきりとしてきた。
最初はついに消える時が來たのかな、と思ったけど、違った。
突然視界が開けて、周囲が見えるようになったのだ。それだけじゃない。音も聞こえる。
(え、なになに? どういうこと?)
の覚は相変わらずないけど、私は薄暗い窟にいるようだった。
周囲にはふわふわと浮かぶ、大小様々なる球があった。――霊魂だ。
本來見えないはずの魂が、淡いを放って浮遊する狀態。研究者の中には魔の一種と表現する人もいる、魂そのものが現化した存在。
壁から流れる湧き水が小さな水たまりを作っていた。
それを覗き込んで、私は驚いた。
(私、霊魂になってる!)
処刑された聖だった私は、霊魂になっていた。
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