《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》ex.孤児院の子どもたち
「孤児院の方々をお連れしました」
「ご苦労様です。奧までお通ししてください」
「かしこまりました」
神の男が恭しく頭を下げ、執務室を出ていった。
ソファに深々と腰かける樞機卿レイニーは、こめかみをぐりぐりと指で押した。
聖の死を知ってからロクに眠れていないのだ。無念にも処刑されてしまった彼のことを思えば、呑気に眠ってなどいられない。
皇國や神たちには何の通達もせず、王子たちは聖を拘束し形だけの裁判で処刑を決めた。さらにはその日のうちに刑を強行したのだ。到底許されることではない。
それを、王位継承権を持つ第一王子がやったのだから笑いものだ。いや、決して笑えなどしないが。
他の貴族たちは誰も彼を止めなかったのだろうか。おそらく言いたくても言えなかったのだろう。國王が病に侵されてから、王位を継ぐのがほぼ確実になった王子に歯向かう者はいなくなった。王は他國に嫁ぎ、第二王子はまだい。
「靜観していた時點で同罪ですけれどね」
レイニーは今まで発したことのない低い聲が出たことに驚いた。
聖亡き今、神たちがパニックにならないよう気丈に振舞ってはいたが、彼も限界だった。娘のように可がった相手を、くだらない私怨で殺されたのだ。今すぐ王宮に乗り込んで、関係者を殺して回りたい衝に襲われる。『樞機卿』のギフトを持つレイニーには容易いことだ。
彼の口角が嗜的に吊り上がった。
「いけないですね。今から彼の家族と會うのですから、冷靜にならなければ」
この國への処罰は、直に教皇が下すだろう。
國同士の力関係は皇國の方が圧倒的に強い。ギフテッド教は『ギフト』という実在する現象を信仰しているため、大陸で最も教徒が多い。
そのため皇國の影響力はその気になれば王國など一ひねりにできるほど大きい。皇國の中でも教皇に次ぐ地位を持つ聖を手に掛けるなど、セイン王子は愚かという他なかった。
「お連れしました」
初老のシスターが恐る恐る室したのを皮切りに、ぞろぞろと子どもたちがってくる。青年が一人と、男の子が一人、の子が二人だ。
「きらきら……」
「窓すごい!」
「ばか、お前たち、靜かにしてろ」
そわそわと辺りを見渡す小さいの子二人を、悍な顔つきの青年が諫めた。
すみません、と申し訳なさそうに謝るシスターに、レイニーは優しく微笑む。
「この子たちの面倒を見ている、シスターのエリサです。ギフテッド教會からはいつもご支援いただき、ありがとうございます」
「アレンです」
「ミナ!」「レナ!」「……ロイ」
アレンは張のない子供たちの頭を抑えつけ、無理やり頭を下げさせた。
ぐへ、と苦しそうにくが、その様子は楽しそうだ。男の子は大人しい格のようで、ぼーっとしている。
「樞機卿のレイニーです。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
らかい口調とは裏腹に、心は胃にが空きそうだった。
今から、聖の死について伝えなければならないのだ。半ば強制的に孤児院から取り上げたの死は、レイニーの責任でもある。
「樞機卿!? そんな高い地位の方と、直接言葉をわすなんて」
「聖様がそれだけ大切なお方だということです。そして今日は、聖様のことについてお話があって、皆様をお呼びしました」
本來であれば、樞機卿とは教皇の補佐をするような立場である。
王國は聖がいたため、彼の補佐としてレイニーは派遣されていた。
神妙に立ち上がったレイニーを見て、孤児院の面々に張が走る。
「聖様は亡くなられました」
「は……?」
レイニーはにパンが詰まったような苦しさを抱えながら、一つ一つ順序立てて説明していく。子どもたちにも分かるように優しい言葉で噛み砕き、誤解のないよう真実だけを伝えた。
子どもたちはシスターに抱き著き、泣き始めてしまった。アレンは目を閉じてわなわなと震えている。
全てを聞き終えた瞬間、アレンがレイニーに詰め寄った。
「ふざけるな!」
今にも摑みかかりそうな剣幕のアレンは、悲壯な顔で言葉を紡ぐ。
「あいつは、セレナは処刑されるようなことは何もしてないだろ」
「その通りです」
「なんで殺されたんだ! あんたたちが守るんじゃなかったのか?」
「返す言葉もありません」
「なんであんたは、そんなに平気そうなんだ」
ふと顔をあげると、アレンの頬には涙が一筋流れていた。
「まだ十五歳だったんだぞ……?」
アレンは聖がただのセレナだったころ、同じ孤児院で育った。年が同じだったので何をするにも一緒で、將來は結婚しようなんて冗談も言い合った。実は今でも本気にしていることは、誰にもだ。
セレナに聖のギフトがあると判明した時、本當は王宮になど行ってしくなかったのだ。
『私が王宮で、アレンが孤児院でみんなを守るの。いつか戻ってくるから、その時けっこんしよう?』
九歳ので一杯出した決意を、アレンは尊重した。多くの子どもたちが長に合わせて孤児院を出るのに対し、アレンはシスターを支え続けた。
「平気では、ありません」
聖とアレンの関係は、レイニーも知っている。事あるごとに聖が話してくれたからだ。
孤児院のことを話す聖は本當に楽しそうで、微笑ましいと同時に羨ましかったのを覚えている。
レイニーは立場上、他の神のようにふさぎ込むことはできなかった。涙を流すタイミングすらなく、を心の中に押し込めていたのだ。
しかしアレンの表を見て、これまで我慢していた涙が堰を切ったように流れだした。
一度流れ出した涙はすぐには止まらない。
法が汚れるのも厭わず、目元を拭う。アレンはその様子を見て、數歩下がって頭を下げた。
「……すみませんでした」
「いえ、取りしました」
聖の死を喜ぶ人間は、ここにはいない。
さらに何度か言葉をわし、その共通認識を互いに持つ。涙が枯れるまで泣きはらしたあと、略式で死者を弔う祝詞を捧げ冷靜さを取り戻したころ、本題を切り出した。
「ギフテッド皇國は、聖様のご家族である皆様の亡命をけれることといたします」
「亡命? なんでだ?」
平民のではあまり使わない丁寧な言葉は、アレンには々難しい。レイニーはそれを咎めることはせず、話を続ける。
「この國は聖様の結界によって魔の侵攻を防いでいました。結界がなくなった今、再度魔が現れれば長くは持ちません」
「魔が來るのは確定なのか?」
「分かりません。魔の行は読めない部分も多いですから……。しかし以前の侵攻が再開すれば、今いる神だけでは抑えられないのです。盟約を破った王國を助ける義理もありませんから、皇國は完全に手を引くことにしたのです」
「この國を見捨てるということか」
「はい」
もし王國に殘れば、いつか來るかもしれない魔の大群に怯えながら過ごすことになる。
聖のした家族たちをそんなところに置いていくわけにはいかなかった。聖を守り切れなかったレイニーにとって、彼らを守ることが使命だとじている。あるいは、贖罪とでも言うべきか。
「斷る。あ、いや、遠慮します」
「……理由を聞いてもよろしいですか?」
「あいつが命を懸けて守った國を、捨てる気はない。ここは俺たちの故郷なんだ。それに街にはお世話になった人たちもたくさんいる。全員で行くのが無理なら、俺は最後まで殘るよ」
レイニーはアレンの言葉に、聖の面影を見た。
聖のギフトを得た時點で皇國に行くという選択肢もあった。だが今のアレンと同じように、故郷を守るために、と王國に殘ることをんだのだと聞く。
レイニーが視線を向けると、シスターも深く頷いた。子どもたちは意味が分かっていないのか、ぽかんとしている。
「聖様が最後まで大切にしていたあなた方を、危険に曬したくないのです」
「ありがとうございます。でも、俺たちもセレナの意思を守りたい」
「……よくお考えください。私たちはいつでも歓迎いたします」
アレンの決意は固いようだった。
彼だって本當は人目も憚らず泣きびたいに違いない。でも、彼は信念を選んだ。
「とりあえず、その王子ってやつのとこまで案してくれ。俺が殺す」
「聖様はそんなことみませんよ。爭いが嫌いなお方でしたから」
「……そうだよな」
ようやく死霊聖ちゃんの本名が判明しましたが、今後も聖と呼びます。
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