《【完結】処刑された聖は死霊となって舞い戻る【書籍化】》レイニーさん、待って!
ギフテッド教において、魔とは絶対悪である。
ギフトを與える唯一神の庇護から外れた存在であり、各地の魔王が生み出す異形の生。生の創造は神の領域であり、それを侵犯する魔王は許してはならないものだ。なくとも、教義ではそうなっている。
だから見習い神ちゃんの対応は、ギフテッド教の神としては正しい対応だね。
見方によっては私が男を襲っているようにも見えるし。
人間の魂って味しいのかな、と一瞬でも頭をよぎってしまったのは猛省します。それをやったらいよいよ悪者だよ。
「今助けます! ホーリーレイ」
私も良く使う、聖屬の線を放つ魔法だ。聖職者系のギフトは攻撃向きではないけど、聖屬が有効な相手にはこれ以上ない攻撃手段になる。
當然、ゴーストの私には効果抜群だ。たいへん、消滅しちゃう!
杖先から直進してくる白いを慌てて回避する。まだまだ見習いだから、ヒトダマだった時の私くらい細いホーリーレイだ。地面すれすれに屈むことで難なく潛り抜けた。
「お、お助けを!」
その隙に商人風の男が走って見習い神ちゃんの元へ逃げた。
後ろからついてきた五人くらいの神たちも並んで杖を構えた。
みんなして目の敵にしないでよ。みんな知ってる顔だから悲しくなってくる。私は聖セレナではなく魔になったんだということを否応なく突きつけられた。
(でも、ファンゲイルのことを伝えるチャンス!)
いまだに笑うことしかできないからジェスチャーで頑張ろう。
レイニーさんならきっと分かってくれるはず。だから杖降ろしてしいなー?
「何をしているのですか」
噂をすれば影。生前に何度も聞いたレイニーさんの聲だ。
ぱっと顔を上げて姿を探すと、彼らの後ろに馬車が見えた。街道を移していたのだろうか。
杖を構えて今にも私を消滅せんとする神たちが、レイニーさんの聲で手を止めた。
一段と豪奢な馬車からレイニーさんが降りてくる。皇國でも高い地位にある樞機卿の彼は、純白の法を翻して前に出た。
「魔に襲われていた男を保護したところです」
「さようですか」
見習い神ちゃんが凜とした表で答えた。
(あれ、なんか馬車多くない?)
神たちに気を取られ気づかなかったけど、彼らの後ろにはぞろぞろと馬車が続いていた。
ちょっと隣町へ、なんていう雰囲気じゃない。見えているだけでも十臺以上で、最後尾が見えないほどだ。一臺に四人乗ったとして……それこそ、王國に常駐していた神のほとんどが乗ってるんじゃないだろうか。
「でしたら、近隣の町へお送りしましょう。あいにく引き返すわけにもいきませんので、通り道にある町になりますが」
慈に満ちた表で手を差しべる。
結界がなければ、不死の森に近いこの街道は安全ではなくなる。彼がどこを目指していたのかは不明だが、結界を主に高い戦闘能力も持つ彼たちに護衛してもらえるなら、その方がいい。
「あ、ありがとうございます!」
「サナさん、空いている馬車にお連れしてください」
「はい」
見習い神ちゃんによって、手際よく男が救助される。
まあ、無事でよかったよ、うん。助けたの私だけどね!
「それにしても街道まで魔が溢れているとは……思ったより事態は深刻なようですね」
そう思うなら結界を張れば良いと思うんだけど、レイニーさんたちはここで何をしているんだろう。
神ほぼ全員を連れて大所帯で街道を移するって、まるで――
「私たちに被害が出る前にこの國を出なくては」
王國から逃げようとしているみたいではないか。
「急ぎましょう。もうこの國に用事はありません」
(どういうことなの!? 今こそ、神が頑張らなきゃいけないのに!)
魔討伐のプロは冒険者だ。王國の安全は彼らが守っていると言っても過言ではない。
でも、対アンデット系に関しては聖屬を扱える神以上の適任はいない。『不死の魔王』ファンゲイルと戦うためにはギフテッド教の協力は不可欠だ。
「あはは!」
(レイニーさん待って!)
なんとかして伝えないと!
きっとレイニーさんは知らないんだ。彼が王國に來たのは私が聖として王宮りしてからだもんね。孤児院から離れたくない私のわがままで王國に殘って、そのお目付け役として派遣されてきたので、ファンゲイルの侵攻があったことを認識していないに違いない。
なんとかして伝えないと。そして共闘して魔王を倒すんだ。
「ああ、まだゴーストがいましたか」
短い手をぶんぶん振って近づくと、塵芥でも見るような目を向けられた。ゴーストが出ると気溫が下がる、なんて言われるけど、彼の視線は背筋が凍りつく冷たいそれだ。
レイニーさんは両手のひらをの前で合わせて、指で円を作った。
何度か見たことがある。『樞機卿』だけが使える、攻撃魔法。
「民に救いを。魔に滅びを。ジャッジメントホーリー」
自分の魔力を支點に線を飛ばすホーリーレイとは違い、詠唱によって空から浄化のを落とす。まるで雷だ。天の裁きとも言われる高い威力を誇るの柱が私を襲う。
逃げ場はない。見てから避けられるような速度ではないのだ。太のを避けることができないように、ジャッジメントホーリーは魔を確実に消し去る。
「さて、先を急ぎましょう」
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