《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》相談

真冬の視線から命からがら教室に逃げ帰ってきた俺は、數ない友人の姿を視界に収めた。教卓の近く、いつもの仲間達とは一緒におらず、窓の外を飛び回る小鳥を眺めながら、憂げな表を浮かべている。

普段共に會話しているグループのメンバーたちはし離れた場所で雑談に耽っているが、時々心配したような視線を片山へ向けていた。

「片山、おはよう」

「……お、宮本か、おはよう」

今日の片山は心なしか元気がないように見える。聲の主が俺だとすぐに気付かなかった事に加え、いつもなら立的にセットしているはずの髪も今はストレートに下されていて、彼の落ち込んだ心を表しているのではないかと勝手に推測してしまう。

「どうした? 何かあったなら話聞くぞ?」

その言葉を聞いて、彼がゆっくりとこちらへ顔を向ける。やはり普段のように明るい様子は鳴りを潛めていて、何か思い悩んでいるのが容易に理解できた。

しばし迷ったように瞳を揺らしていた片山だったが、やがて心を決めたように拳を握ると、勢いよく顔を上げ、互いの視線が差する。

「あのな……俺、好きな子ができたんだ。正確に言うと、し前のことなんだけど」

「……そうだったのか。でも、片山ならそんな思い悩まなくても、素直に想いを伝えればいいんじゃないのか?」

「いや、それがダメなんだよ。伝えようとしても、それができないんだ」

彼の優れた見た目は元より、気遣いができて話も面白く、おおよそ欠點が見つからない男だ。そんな片山に告白されて斷る子など、そうそういないように思える。

彼の質上、好きな相手に対して奧手になってしまうというのも違うだろう。向上心の塊みたいな彼なら、たとえ逆境でも心をい立たせて戦える。多分。

であれば、相手になんらかの事があって告白する事ができないのかもしれない。

「まさか、相手に人がいるとか?」

流石にそれなら斷られても仕方がないだろう。寧ろ想いを寄せられている子が、片山のスペックに惹かれない程の深いを持っていることに心する。そうか、なら今日は彼をめ――

「いや、人もいないみたいなんだ」

「じゃあなんで悩んでるんだ?」

「理由はわからないけど、好きな子に避けられてる……みたいなんだ」

まだ確証がないのか、認め難いのか。どちらにせよ、狀況はあまり良くないようだ。

「それはなんでなんだろうな。心當たりとかは?」

「問題はそこなんだ。特に嫌がるような事をした覚えはないんだよ」

首を捻って小さく唸る彼の顔を見るに、本當に心當たりはないようだ。片山ほどの男だ、気が付かないうちに嫌われる行を取っていたとも考えられないだろう。であれば理由はなんだ……?

「そもそも、片山が好きなのは誰なんだ?」

「いきなり聞くなぁ! ……誰にも言うなよ?」

「言わない言わない」

きょろきょろと辺りを見回し、誰も自分たちの會話に耳を傾けていない事を確認すると、片山は俺の耳元に近付いて囁くように思い人の名前を告げる。

「……巖城さんだ」

「巖城さん……」

いわ……しろ?

このクラスの人間なのだろうか、その人に思い當たる節がない。いや待てよ、よく考えたら聞き覚えがある気がする。興味もないCMの歌を覚えてしまったような現象。毎朝のようにその名前を――

「あ、いつも本読んでる子か」

「そうそう、そこがまた奧ゆかしくて可いんだけどな」

「それはいいとして、よく巖城さんと接點があったな。あの子が誰かと會話している所、見たことがないけど」

「よくぞ聞いてくれた!」

待ってましたと言わんばかりに興しだす片山。彼にも言ったように、巖城さんが他人と會話している所なんて見た事がなかったので、どこに接點があるのか気になってしまった。そもそも、彼はどんな見た目をしていたっけ。

巖城さんの座る席は教室後方の廊下側である。振り向いて確認してみると、ぱっつりと切りそろえられた前髪と、大きな丸い眼鏡がトレードマークだ。髪のは肩ほどまである黒髪で、その艶から、まだ一度も染めた事がないのが分かる。

盛り上がるクラスメイトの中、一人黙々と本を読んでいる姿から真面目なんだろうなという印象をけ、言い方は悪いが、なぜ彼が巖城さんに好意を抱いているか分からないと思ってしまった。

クラスの人気者と日者。格も趣味も全然合うように見えないが、それでも二人を繋ぐ「何か」があったのかもしれない。片山がに落ちる程の出來事が。

「宮本? 聞いてくれる流れじゃないの?」

おっと、その謎が解明されるのがこれからだったのを忘れていたようだ。

「ごめんごめん。なんで巖城さんの事が好きか、是非聞かせてくれ」

「お、おう! ちょっと話すの下手かもしれないけど、我慢して聞いてくれ」

彼は幸せそうな表を浮かべると、仄かに笑みを讃えながら過去に想いを馳せているようだった。そして、語が一本の線になったのだろう、その思い出は可能な限り鮮明に、彼の口から屆けられる。

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