《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》青空と水族館

「ご主人様、お待たせしました〜!」

「……今日はプライベートでは?」

ピンクのブラウスに、黒いスカートからびるサスペンダー。

黒い厚底のブーツを履いており、俺とほぼ同じ目線になっている。

「でも、優太君こうやって呼ばれるの好きでしょ?」

小首を傾げると、青空をまぶしたように真っ青な髪が顔にかかる。

眠そうなタレ目が落ちてしまわないように、ぷっくらと膨れた涙袋が支えているようだ。

そんな目が、俺を見つめている。

「確かに好きだけど」

「だから、優太君は今日一日私の専屬ご主人様!」

「ご主人様は基本一人だけどね?」

まぁいい、細かいことは気にしないでおこう。

なぜユイちゃんと待ち合わせているかというと、彼とはちょくちょくメッセージを送り合っており、話の流れで水族館に行く事になったのだ。

つまり、今日は水族館デート。

それにしても、普段お店でしか會うことのない彼と外で出會うのは、変なじがする。

「さ、優太君行こ!」

「そうだね、予約した時間も近いし」

そう言ってびっくりするほど自然な流れで腕を組むものだから、俺も普通に返事をしてしまった。

の小悪魔たる所以を早速垣間見て、今後の攻撃に備えようと意識を改める。

「今日の私どう? 可い?」

「うん、すごく可いよ」

「よかった! が開くくらい見つめてね?」

勢を屈め、ちょうど上目遣いになる角度。

完璧に計算されたかのような仕草を前に、可くないと言える男は果たしているのだろうか。いや、そもそも可いんだけど。

褒められて顔を綻ばせる姿には小悪魔さはなく、年相応の喜びが見て取れ、そちらもまた魅力に溢れている。

……水族館に著くにはまだ時間がかかるな。

ここで、この間學校から持ち帰った宿題にチャレンジすることにした。

「あのさ、俺の友達からの相談なんだけど」

「なに? 私に答えられる事なら任せて! どれだけ課金しても推しが引けないとかなら、山ほど聞いてきたから!」

「……それはなんていうか、ご愁傷様」

沼にハマった話はともかく、片山に聞いた出來事を事細かに伝える。それと同時に彼や巖城さんの報も加え、回答の可能を増やす。

「よく考えたら私の周りに優太くん以外の男の人っていないんだけど、それでもいい?」

「あー……。大丈夫! 教えてほしい!」

そういえばそうだった。ユイちゃんの自信満々な様子で忘れていたが、彼子校出なのだ。

でも、だからこそ見える景というのもあるかもしれないし、俺は彼に回答を促す。

「たぶん、片山君?が、怖いんじゃないかな?」

「怖い?」

「うん。話を聞く限り、そのの子は全然異との関わりがないと思うの。だから、いきなりキラキラした人と関わるのは怖いかなーって」

「……一理あるな」

確かに、経験のない狀態で関わるには片山は眩しすぎる。

キャのお手本のような存在だからな、冒険を始めたばかりの勇者が対等に戦える相手じゃない。

「じゃあ、片山はこれからどうすればいいと思う?」

「えっとね、ちょっとずつ関わるようにして、警戒心を解くっていうか。怖い人じゃないんだなって分かってもらうといいんじゃないかな」

慣れる事は重要だ。

いきなりアプローチを仕掛けるよりも、小さな出來事をコツコツ積み上げていって、彼なら怖くないと理解してもらうというのがユイちゃんの主張だ。

「確かにそれがいい。ありがとうユイちゃん」

「意外と役に立つでしょ?」

「うん、相談して良かった」

「なら、ご褒しいな〜」

組まれていた腕を解き、彼の手が俺の手の隙間を埋めるようにってくる。

人繋ぎをするというのが、彼の求めるご褒なのだろう。

めちゃくちゃ恥ずかしいが、助けられたのは事実だ。

俺は絡め取られそうな指にし力を込め、二つの繋がりを強固なものにした。

「……ちょっとドキドキする」

先程までと違って目を合わそうとせず、前を向き続ける姿がとても微笑ましい。

小悪魔も直球には弱いのだ。

「……あ! 水族館だよ!」

ユイちゃんが勢いよく指を刺した先には、俺たちの目的地である水族館があった。

斜面に設置された白くて大きな建は、一見すると窟のような暗いり口である。

しかし、それが返ってこれから海の中に行くような気持ちになり、気分を上げる役目を擔う。

「タイミング良く著いたね」

「うん! 楽しみだなぁ、あそこでチケットの発券ができるみたいだよ!」

促されるままにチケット発見に行き、予約報が記されているQRコードをかざす。

続いて料金をれると、二人分のチケットが手元にり出てきた。

「え! 可い!」

紙の表には、水族館で見れるであろう生きの寫真がプリントされている。

一枚はクラゲで、もう一枚はカクレクマノミだ。

「ユイちゃんはどっちがいい?」

「選んでいいの? 私は〜、可いからこっち!」

が選んだのはカクレクマノミだった。

俺はクラゲの方が可いと思っていたから嬉しいが、どうやら子のは俺とは違うらしい。

二人で場口へと歩いて行き、付のお姉さんにチケットを渡す。

すると、にこやかな笑みと共にとても耳當たりの良い挨拶で送り出してくれる。

聞いていると元気が出てくる聲だ。毎朝こんな風に――

「私が耳元で言ってあげようか?」

「……なんでみんな俺の心を読めるんだよ」

「好きだから」

「不意打ちすぎるね!?」

完全にユイちゃんのペースで、心臓がそろそろ持たないと信號が送られてくる。

そんなに俺の考えている事は分かりやすいのだろうか。

淺川のようなポーカーフェイスになれるように練習しようか、本気で検討すべきだろう。

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