《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》青空と水族館 その2

階段を降りていくと、早速魚たちが姿を現した。

真っ白な空間に橫長の水槽が並べられていて、その中には黃や青を基調とした魚が泳いでいた。

「すごいスタイリッシュだね」

「ゲームとかで出てくる研究所みたいだね?」

「あー、そんなじするかも」

ユイちゃんが水槽に駆け寄り、腰をし曲げて、優雅に泳ぐ魚を目で追っている。

気のせいだと思うが、青いに黒いラインがった魚が、住処の前にいるユイちゃんに興味を示しているように見えた。

「ねぇ、この子私の事見てない?」

「ちょっと意識してるように見える」

「だよね!? えー、なんでだろ!」

……髪のが似ているからだなんて、口が裂けても言えない。

実際どうなのだろう。自分と似たの生を見た時に、仲間意識のようなものを抱くのだろうか。

しかし、黒い魚は俺に全く興味がなく、悠々と泳いでいるのでこの仮説は間違いみたいだ。

そこから先へ進むと、一面が青く染め上げられている部屋へたどり著く。

壁は鏡になっていて、天井から降り注ぐ青いを反し全面が青一だ。

まるで深海にいるような気分で、心が落ち著いてくる。

この部屋には円柱狀の大きな水槽が立していて、中には多種多様なクラゲがっていた。

俺は一番近くの水槽に駆け寄ると、浮遊するかのようにくそれを見つめる。

「優太君、クラゲ好きなの?」

「海の生きの中で一番好きかも」

「そうなんだ。どんな所が良いの?」

ほう、そうきたか。俺にクラゲの好きな部分を質問するなんて、なかなかに命知らずのようだ。

クラゲに対する熱いを言葉に乗せて、ユイちゃんにぶつけてあげよう。

「なんていうか、凄く自由なじがするんだよね。海を漂う姿にさ。俺たちが海にったら、流されないように泳がないといけないけど、きっと彼らは違うと思うんだ。浜辺に打ち上げられようと、知らない場所に行こうと、昔からこの場所にいましたよって顔で揺らめいているのが羨ましいっていうか。あと、いろんな種類のクラゲがいて、見ていて飽きないのも――」

あれ、気がつくとユイちゃんの姿がない。目の前にいたはずだが、熱心に語っているうちに耐えられなくなって先へ行ってしまったのか?

「……なんで撮ってんの」

橫を振り向くと、俺の方へスマホを向けているユイちゃん。

シャッター音が鳴っていないから、おそらく畫を撮っているんだろう。

「えへ、優太君が一生懸命喋ってるのが可くて……。毎日畫見るから安心して」

「何も安心できないよ……」

確かに普段、ここまで長く會話をすることはないからな。

オタク特有の長文語りが発してしまったようだ。

「全然話変わるけど、ここにいるとユイちゃん黒髪に見えるね」

「あ、確かに。なんか芋っぽい……」

辺りは全的に暗く、照明も青いので彼の髪が比較的黒に近く見える。

ユイちゃんは芋っぽいと表現していてが、俺には清楚が増して可く見てるんだけどなぁ。

「全然芋っぽくないと思うよ」

「ほんと!?」

「うん、いつもより落ち著いた雰囲気で新鮮なじがする。可いよ」

「優太君に褒めてもらえると凄く嬉しい! 今度メイドカフェで黒いウィッグとか被ってみようかな?」

「あ、いいね。本當にメイドさんみたいだ」

黒い髪でメイド服を見に纏うユイちゃんを想像してみる。

が落ち著いたことで、眠そうな目元はさらにおっとりと見えるだろう。

なんというか、お淑やかなお嬢様ってじだ。

どちらかというとメイドさんを従える方になっているな。可いのには変わりないが。

次に目にったのは、とりどりの熱帯魚が泳いでいる水槽だ。

砂から顔を出すニシキアナゴや、ユイちゃんのチケットに描かれているカクレクマノミなんかがいる。

「あ、カクレクマノミだよ」

「ほんとだ。ほら、仲間だよ〜」

はチケットの表面をひらひらさせてアピールしているが、肝心の泳者達は目もくれず水中を散歩している。

その近くには大きな水槽が、堂々と設置されていた。シュモクザメやマダラトビエイなど大型の魚が悠々と泳ぎ回っていて、俺もこの一員になりたいなぁとぼんやり考えている。

実はこの水槽は、トンネルのように下を通ることができるのだ。

巨大なエイを下から眺めることができるとあって、この水族館の目玉スポットの一つとなっている。

「わ、海の中にいるみたい」

「下以外全部が水槽だもんね」

海中トンネルで立ち止まり、普段と違う角度から泳ぐ姿を眺める。

「エイって上から見ると怖いけど、下から見ると変な顔してて可いよね」

「わかる! エイの口ってもにょもにょしてて可……きゃっ!?」

「どうした!?」

突然右半らかい覚と、鼻腔をくすぐる甘い匂い。

何があったのか、ユイちゃんが慌てた様子でこちらへ抱きついてきたのだ。

「ユイちゃん、大丈夫?」

「ごめんね、右を見たら目の前におっきなサメがいてびっくりしちゃった」

「気にしないで。足首捻ってない?」

「うん、平気。ありがとう!」

ユイちゃんのすぐ右は水槽で、ふと振り向いた時に至近距離でサメを見てしまったんだろう。

確かに、それに驚くのも無理はない。俺もきっと反応してしまうだろう。

「……もうしこのままでも良い?」

「いいよ、手握る?」

「……うん」

突然の事に揺しているのか、まだ不安そうなユイちゃんの手を握る。

が引き寄せられる力が強くなり、布越しに伝わる暖かさにドキッとするが、ユイちゃんだって狙ってやっているわけではないのだから、今邪な気持ちになるのは良くない。

「まぁ、もう怖くないんだけどね?」

「おい」

よし、存分に右腕を幸せにするとしよう。

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